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【完結】陰陽師のお仕事 〜医術師〜  作者: カズモリ
赤の文書
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34. 止まった時間

 キナリの画像解析は、青君がいうように淡々と積み重なってきた。

 

 その間も学校に行って、勉強をして、帰宅したら基礎体力をつけて、術の精度をあげる。

 少し前に鴇となんだか、そういう恋愛のような雰囲気になったけれど、今はもう、そんな空気感はいなくなっていた。


(晴明様にもう何年も会ってないよ。それなのに、なんなのよよ、この任務)


 ノートに数学の問題を書き写しながら、碧はシャープペンシルを走らせていた。

 問題を解いているのと同時に頭に浮かぶのは、長年考えていたキナリへの敵討と現実が混在している。


 放課後になり、帰り支度をしていると、ミス桜庭に声をかけられ、碧はぼーっと無心で彼女を見ていた。

 口紅を塗った唇はツヤツヤとしていて、そこから、たくさんの言葉が紡ぎ出されてくる。


「先輩は山口先輩と、お友達なんでよね。それなのに、ベタベタしすぎじゃないですか?」

「………」


 また、随分と子供じみた話をする。そんなことを思うと少し苛立っているミス桜庭も可愛く思えて来た。


「答えてください」

「鴇とは幼馴染だよ。ベタベタしているかどうかは、私にはわからないや」


「私、山口先輩が好きなんです。だから」

「私がいると迷惑? 私がいてもいなくても、鴇の気持ちは変えられないよ」


 ミス桜庭は不満そうに口を尖らせたので、碧はしばらく黙っていたら、その後会話は続かなかった。

 ミス桜庭はワナワナと震えて、一筋の涙をこぼした。

 気まずくなり、碧は「じゃあ」と言って去ろうとすると、右手を捕まえられたので、自然と振り返る形となった。


「どうして、応えてあげないの?」

 そこには国見菖蒲がいた。碧はめをみひらき、彼女の髪は勢いよく振り返ったので、揺れていた。

 いつから? 

「関係ないことに首を突っ込まないで」

 手を振り払おうと腕を捻るが逆に逆手に取られて、身動きが取れない。

「碧さんの事情もよく分かるし、部外者が口を挟むことではないのも分かりますよ。けれど、僕から見ても彼女はあまりにも不憫に思えて仕方がない。碧さんは何年経ってもお母さんが一番で、そこから出てないじゃないか」


 そんなこと、分かっている。目の前で母が死んだあの日から、私の時間は止まっている。

 捕らわれている。助けてくれる人が増え、任務だと言われても、また犠牲者が出たら?


 私のように捕らわれる人が出てしまうじゃない!


「私の行動が全て間違っているの?」


 否定なんてできない。生きてきたアイデンティティがなくなってしまう。

 母が私を守るために死んだ。その事実が、とらわれない人はいるの?

 周りから見たら鬱陶しいくらい立ち止まっているかもしれない。けれど、キナリを倒さないと、その呪縛は解けないのよ。


 菖蒲の力が緩んだので、碧は勢いよく腕を振ると、菖蒲の手が腕から離れた。


「不満でも、なんでもない。私と鴇のことは他人には関係ないわ。それに、みんなが私に構っているのもあの仕事が終わればなくなる。わかるでしょ」

「自分と同じ人を増やす気ですか?」


 そんなこと……。

「仕事だから」


 碧は唇をキツく結ぶと、二人に背を向けて離れた。


 私は、前を向いているつもりでいたけれど、結局のところ、あの子供の時のままなのね。


 受験も近いし、勉強しないといけない。キナリ討伐に術の精度を上げたい。自立したい。鴇との関係を、はっきりさせたい。


 私にはやるべきことが沢山あって、でも、何一つ整理できていない。


 頭の中のぐちゃぐちゃしたものが、碧の中にあった。純粋に陰陽術を楽しいと思った小さな頃のような気持ちはすっかり枯渇し、今はキナリへの執着だけで、成り立っている。


 もう随分と楽しい、と思えなくなっている。私はもう……ーー。


 碧が思考を巡らせていると、手首に巻いたスマートウォッチが振動し、現実へと引き戻された。


 浮かび上がったメッセージは山口鴇の名前で、内容を見て、碧は思わず笑ってしまった。


 なんだよ、もう。


 鉛が取り付けられたように重たかった足取りは、今はその枷がなくなり、駆けていけるほど軽い。

 そんな気持ちになった。


 いつも重くなった心に羽を生やしてくれるのは、鴇だ。



 その日の夕方、鴇といつものように下校していると、桜からメールが届いて、鴇の家に行くことになった。

 なんだか、鴇が動揺しているような気もしないでもないが、碧は気にしないようにした。


 相変わらずの高層マンションに碧は、息を吐いた。

(陰陽師の家って、比較的裕福な気がするんだよね。こんな身入りの悪い商売やってるんだから、元が金持ちじゃないと難しいのかもね)


 鴇に誘導されながら、鴇の家に入ると、廊下から賑やかな足音と共に桜が満面の笑みで現れた。

「いらっしゃいませ。碧ちゃん!」


 碧はややたじろぎながら「お邪魔します」と会釈をする。

「今日来てもらったのは他でもないのよ。なんとなんと、AIの解析が終わりました!」


 手を叩きながら、報告する桜を見て、鴇と碧が一瞬固まってほぼ同時に「ほんとに?」と聞き返した。


「詳しく説明するから、奥の部屋に来て」


 桜に言われて、急いで靴を脱ぎ、廊下に鞄を置いて指定の部屋に急いだ。

 

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