32. AI技術
青は大学の屋上で白い雲を眺めながら、白衣のポケットに片手を突っ込み、もう片方でジュースを飲んでいた。
キナリの討伐については、鴇と碧から聞いていたし、バイオテクノロジーを使う予定だと聞いていた。
けれど、以前のようにゲノムを組み込むより、もっと簡便な方法はないか、と考えると、やっぱり最新技術が良いと思っていた。
キナリにしてみればバイオテクノロジーなんてものは知識もなかっただろうから、前回はうまくいった。けれど、また同じ手を使うのは流石に知識も得ているだろうから、また同じ手を使うのを青は反対だった。
とは言っても、何にも思いつかないんだけど。
「どうしたもんかなあ」
青は雲を目で追いながら、深く息をついた。
「なーに、悩んじゃってんの?」
背後から声をかけられ、青はどキリとして後ろを振り返る。
「英先生」
ニコニコと英透から笑顔を向けられ、青は持っていたジュースを口から離した。
「大学に少し用事があってね。で、何悩んでんの?」
「まあ、プライベートなことですよ」
「そっか。うちの娘は関係ある話?」
「………そんなわけないですよ? なぜですか?」
「きみたち昔から仲が良いよね。従兄弟の割には」
「そんなもんですよ」
青はヘラヘラと笑い「それでは」と言って、適当にやり過ごそうとする。
ペコリと頭を軽く下げると、碧の父の透の前から離れた。
去り行く背中を見ながら、透はくすりと笑った。
「老婆心が過ぎたかな」
透には懸念があった。
ある日突然、妻が死んだ。とても元気だったのに、事故にあったと。
納得できるはずもない。
妻の実家には言葉で言えないような禍々しい何かがあって、それをみんなで黙っていた。ひっそりと活動していて、それを指摘したこともない。
そしたら、妻が冷たくなって、二度と戻ってこなかったのだから、娘を関わらせたくないと思うのは普通じゃないか。
関わらなければ、別に文句なんてない。
青はため息をつきながら、階段を降りていると、同級生がキャッキャして、話しかけてきた。
「3Dプリンタが導入されたみたいでさ、見に行かない?」
「え? 気前いいな、検証実験すんの?」
「そーそー、動物実験で検証すんだと」
「ふーん」
同級生に言われるがまま3Dプリンタを見に行くと、仕様書を組み、そのままボタンを押せば翌日には複雑な模型ができるらしい。
「ずいぶんと便利なんだね」
「音声系のAIと組み合わせれば、喋るマネキンくらいにはなりますよ」
研究室に来ていたベンダーに話しかける。
「AIってそこまで進歩しているの?」
「画像系だと録画した画像を使ってパターンや癖を解析できますよ。リハビリに使用できますね」
「行動パターンか……」
青は何かを掴んだのか、ニコリと笑って研究室を後にした。
人間には誰しも癖や行動パターンがあるし、それを直そうとしない限り直さない。仮に人に指摘されたからとて、簡単に直るような代物ではない。
それが何百年ともなれば、尚のこと不可能だ。
身体は変わっても、癖は抜けない。
キナリとの過去の対戦については、ハクがビデオのように録画している。これをAI画像解析に回して癖や攻撃パターンを探れば、勝率は上がるはずだ。
彼は何百年もの間、頂点に君臨しているのだから、当然誰かに指摘されたり、技術を研鑽する機会なんてものはほとんどない。
だから、油断や驕りが出るはず。そこに、キナリのウィークポイントを的確につめていく。
俺の戦い方は勝率を上げるやり方だ。それこそが俺が参画する上での最大の長所だ。
透さん、あなたから二度と家族を奪う気はないですよ。そのためにできることを全て行います。
青は廊下を闊歩しながら、先ほど透に言えなかった言葉を心の中でつぶやいた。




