20. 赤の文書 玖
青と藤の声の出どころが分からず、鴇と碧が菖蒲を見る。
「さっき、ミス桜庭の声で話しかけてたよな? 今もお前が………」
菖蒲は首を横に振る。
「やめろ!」
鴇が問い詰めようとすると、青が窓からヌッと出てきて、止めに入る。
「青くん、なんで!」
青は手で髪の毛や服を整える。青が出てきた窓をよく見ると、藤の顔が見えた。
「これは私と弟の術で明鏡止水と言うもの。弟が鏡や水面、窓など反射するところにいると、その映像が水面や鏡を通して、見ることができるんたり、こうやって移動もできる」
藤はニコニコして、窓から手を振って応えてくれた。
「なんのために、そんな監視なんてしてるんだよ、てか知り合いかよ!」
「時戻りする人を決めるためだ。知り合いも何も、藤は俺の高校時代の友人だ」
青の返事に鴇は首を傾げながら、術を解く。
(無駄に詮索して馬鹿みたいだった)
「桜と行くんじゃないの?」
「………術と相性が悪かった」
「え………」
藤は苦笑いをして、菖蒲は敢えて視線を逸らした。
「そんなことわかるだろ? すぐに」
「調べてなかった」
「調べる時間たくさんあっただろ、婚約者なんだから」
青の額に青筋ができ、血管が破裂しそうなので、藤が仲裁に入り、説明をした。
どうやら桜の術は攻撃性と言うよりは治癒が主となる。青は攻撃もするがメインは術の無力化だ。それ故に体力勝負となるの泥試合になることが予測された。
そんな時、太常から鴇の真珠の指輪の話を聞いたらしい。あの沢山瓦礫の山の中から、証拠を見つけ、それを封印していたと言うこと事態、並外れた探索に有意な能力があることを示唆させていたからだ。
そこで、菖蒲をもぐらせて、裏に協力者がいることにきがつくかどうか試したところ、探索どころか菖蒲を縛り上げ、拘束することになり、青と藤が出てくる運びとなった。
「話を戻すとね、実はみんなに会う前に、青にそれぞれの術のことを尋ねたんだよ。なんたってチーム戦になるからね。そしたら、青が鴇くんの能力だけわからないって言うから、何度か菖蒲に尾行させてたけれど、鴇くんは術跡すら見当たらなくて、桜さんとペアで、と思ってた矢先、太常様から鴇くんの話を聞いた、というわけなんだ」
鴇は椅子を術跡を丁寧に消して行く。
「たまたまですよ。8年前は術の完成度が低くて糸の先に術をかけてダウンジングのように見つけただけです。俺は身内が信用できないので、こちらのカードは隠せるものは隠したいってのが本音ですよ」
鴇は術跡を消し終わる。それを見ていた菖蒲が「まあ、そうですよね。カードゲームの基本だし、俺も隠したいですもん」と言って、椅子から立ち上がりぐーと空に向けて伸びをする。
ずっと椅子に縛られていたかららしい。
鴇は青をちらっと睨みつける。
「けれど、協力しますよ。恋人の碧のお母さんのことだし」
「キザったらしい」
「ジェントルマンですから」
わざと嫌みたらしく言った鴇の言葉に青は苛立ったのか、応える代わりにツカツカと歩き、先刻まで鴇が座っていた椅子に腰をかける。
「それ、俺の椅子」
「座ってないだろ?」
鴇は不服そうに息を吐く。碧は犬猿の仲、水と油の2人を苦笑してみながら話をすすめる。
「青くん、じゃあ、時戻りは」
「ああ、鴇と行く。期待しているよ」
青はそう言って碧に微笑みかける。
「違うよね? 微笑みかける相手」
青は鴇のツッコミも完全に聞こえないふりをする。
碧は菖蒲に近づき「傷と怪我はない?」と尋ねた。
菖蒲は首を左右に振るので、碧は良かった、と言って微笑み、菖蒲の食べたパンのゴミを集めて片付けた。
「じゃあ、鴇と青くんは時戻り頑張って! 私は暫く太常と行動するから。菖蒲くんも一緒に来てくれる? 菅原さんも来てると思うから、多分会った方がいいよ。あなた、蒼か金でしょ?」
碧の言葉があまりにも淡々としていたので、鴇と青は口を開けて、固まった。それを見ていた藤が鼻でふっと笑う。
「蒼です。予言者ですよ、国見は」
藤の声が背後から聞こえ、碧は振り返る。そこには窓から姿を現した国見藤がいた。
「チーム戦ですからね、私たちは一蓮托生です」
予言者。未来を見る力がある。それはどれくらい先まで見えるのか、偶発的に見えるのか、日時まで固定して見ることができるのかは、術者による。
だが、未来を見てると言うのはかなり大きい。例えば次の攻撃がわかる程度であれば、大怪我をしなくて済むし、天変地異の災害にも対応可能だ。
「燈さん曰く、金儲けできる術者と言われていました」
碧はぐうの音もでない。藤の言葉に恐る恐るコウを見ると「言ってそうですね」と同意が得られそうなほど、顔を上下に振って頷いている。
「菖蒲と私は二人いないと未来を見ることができないよ。先程の明鏡止水も予知の一つで使うけれども、制約が多いのと体力の消費が半端なくて、あまり使えない」
藤はニコニコと笑って説明をした。
菖蒲は「良かったよ。ほんと、死ぬかと思ったから」と言って藤の肩をポンと叩いた。
「ごめんね。疑り深い性格で」
「はい。なんとなく、それは気がついていました」
菖蒲は少しだけ後ろにのけぞり、鴇の話を聞く。この二人の関係が良くなるにはまだ少し時間がかかりそうだ。




