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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第十一話 うちの蛮族娘がこんなにチョロいわけがない
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002

「ん……」


 まどろみから浮かび上がってきたセルシアが、開けた目が最初に見たのはベッドの天蓋だった。もっとも当人はそれを天蓋というとは知らないが。

 ベッドのふかふかとした感触が心地よく、このまままだまどろんでいたいという欲求にかられ――


「――違う、そうじゃない!!」


 がばっと起き上り、その場所を見回した。見たこともない場所だ。見るからに高級そうな調度品や細工を凝らした内装など、自分にはまるでなじみがない。

 部屋の中をほのかに照らしているのは照明用の魔道具だ。旅の中で何度か目にしたものだ。


「すぅ……」


 自分以外の寝息に気付いて見下ろしてみれば白髪の少女、パトラネリゼ。自分の傍らに寝かされている。

 見れば、自分もパトラネリゼも白いゆったりとした服に着替えさせられていた。

 パンツははいているが、裾をめくってみるとレースがあしらってあったりと明らかに自分のものではない。


「ちょっと、ちんまいの起きなさい」


「うぇへへへへ、ぜふさんもっと、もっと」


 ヨダレを垂らしながら寝言をほざくパトラネリゼにイラっときたセルシアは、両手を構え、全力で打ち鳴らした。

 常人ならざる力の持ち主の拍手が爆音を上げ、


「へあっ、ひ、な、なんですか!? なんなんですか!?」


 寝ぼけが抜けないままのパトラネリゼが慌てふためいて起き上る。同時に、部屋のドアのほうからぱたぱたと走って行くような音。

 セルシアの動物以上の感覚は、ドアの向こうにいた何者かが駆けていく様が完璧に把握できていた。


「起きた?」


「はい。あの、いったい何が……」


 目をこすりながらパトラネリゼも状況を認識していく。部屋を見回し、自分の格好を見て、服の裾をめくりあげて見て、


「あ、かわいい下着。好みですけど、でもたぶん相当高いですよねえ、これ」


「んなこと言ってる場合じゃないでしょうが。ええと、なにがどうしたんだか」


 ぽん、とパトラネリゼの頭を軽く叩き、記憶を探る。何があったのか。

 アウェルと言い争いになった。

 ムキになって殴りかかってきたのを、こちらもムキになって追い打ちをかけてしまった。

 だから翌朝も空気が悪かった。そこにいつだかの女が現れた。

 アウェルと白いのと非常食が取り巻きともども倒したが、その後出てきた黒い不気味な奴に追いつめられた。

 そう思ったら、別の黒いのが現れて、不気味な方をあっさりと倒した。そして、


(――あ)


 負けた。

 黒い機体から降りてきた、黒い騎士に挑みかかり、負けた。

 父親以外に初めて負けた。それを認識したとき、セルシアの中に言葉にしがたい感情が生まれた。

 悔しいは悔しいのだが、それだけではないような、よくわからない、体の奥が疼くような感じが。


「シア姉? どうしたんですか? ちょっと顔が赤いですよ」


「な、なんでもないわよ、なんでも。それで、何があったのよ」


「シア姉がその、さらわれそうになったんで私もなんとかついてきたんですよ。

 ですけどしょっぱなで眠らされちゃったんで何があったのか。よいしょっと」


 ベッドから這い出たパトラネリゼが部屋の窓のほうへと近寄る。

 ガラスの窓の向こうにはひたすら広がる暗雲と、その下に広がる庭園とそれを遮る城壁。そしてその先にある広大な町並み。ただ、町並みに灯る光はまばらである。

 隣に立ったセルシアも目を凝らすが、人の営みがあまり感じられない。


「たぶんここが公都で、私たちが今いるのは公宮なんでしょう」


「つまりここが目的地ってことね。んじゃ」


 おもむろに窓を開けようとする。おそらくそこから脱出しようというのだろう。

 短絡的なことを、とパトラネリゼは止めようとするが、窓の取っ手を掴んだセルシアがそれを空けようとしてもびくともしない。


「? どうしたんですか」


「いや、なんか開かないっていうか、なにこれ」


 パトラネリゼも触ってみるが同じく開かない。みたところ嵌め殺しではなさそうなのだが。

 ならばと言うようにセルシアが拳を振りかぶる。突き破るつもりか、と思ったその時、部屋のドアが開かれ、男が一人入ってきた。


「お目覚めかな、セルシア姫」




「誰よ、あんた」


 線の細い男だ。全身を黒い、質のよさそうな衣服に身を包んだ男。

 オレンジ色の髪をオールバックにしており、切れ長の鋭い紫色の目からは神経質そうな印象をうかがわせる。セルシアより頭一つは背が高い。


「これはこれは。申し遅れた。

 我が名はバイドロット。シンフェギメルア教の教主であり、このトメルギアの公宮に住まわせてもらっている者だ」


「邪教の教主ですか!? いったいシア姉をどうするつもりですか!」


「なぁに、公王家の正統を正さんというだけだよ。

 知っているかは知らないが王太子と見込まれていたイルランド王子は先王の血を引いていなかったのだ。

 そんな折、ヘレンカ妃が実は子を成していた、ということを知ってね。こうして迎えさせてもらった次第だ」


 言葉は丁寧だが、態度は尊大極まりない。

 その目に見下したものが混ざっているのは決して背丈のせいだけではないだろう。セルシアに歩み寄ってきたバイドロットはセルシアの顎を持ち上げ、その顔をまじまじと見つめる。


「肉付きこそ少ないが、なかなかに見目麗しいではないか。これはこれで使い潰すのも惜しいな……」


「っ、シア姉から離れなさい!」


 パトラネリゼが一喝するが、バイドロットは意にも解さない。セルシアは無表情のまま、バイドロットを見つめている。

 強がっているつもりなのか。それがバイドロットはよりそそられる。


「気丈な。その顔がどう歪むか見せてもらおうか――」


「だから離れなさいって! あなたのために言ってるんですよ!?」


 パトラネリゼがそう言ったと同時、両開きのドアの向こうに立った影がある。

 ぼさぼさの金髪にあちこちが破れどうにか体に張り付いているだけの服ともいえない服装の痴女。ハクダだ。

 ハクダは部屋の光景を見咎めて、


「バイドロット様!? わたくしというものがありながらそんな小娘に――」


「人間砲弾発射」


 セルシアがそんなことを口走ったと同時、バイドロットがハクダ目がけてすっ飛んできた。弾丸と化したバイドロットはハクダを巻き込んで二人そろって壁に直撃、大きくめり込んだ。

 その向こうでは拳を突き出した姿勢のセルシア。ふーっ、と息を吐き、


「よし、死んでないわね。あいつら人質にして逃げるわよ。

 逆らわないようにちょい手足をねじ切っておきましょう」


 ごきごきと手を鳴らす様に、バイドロットとハクダが揃って青ざめた。腹に突きを食らったバイドロットは口から血を垂らしている。


「ごふっ……な、なんなんだあれは!?

 おいハクダ、あれが姫ではなかったのか!? なんなのだあの怪物は!」


「知りませんわよ! だいたい何をするおつもりだったのですか!」


「新しい女がいたらつまむに決まっているだろう! お前がとやかく言えた話か!

 というかなんだその格好は!」


「足がないから走って戻ってきたのですわよ!」


「その格好で? 公都の外から……?」


 バイドロットの顔がひくつく。

 肉付きはよく抱き心地もこの上ない。利用価値も満載だ。なによりこの女がいないと文字通り息が詰まる。

 だが流石に引く。

 そんな二人に凶獣の声が届いた。


「で、死ぬ準備はできたか」


 セルシアが迫ってくる。完全に殺す眼だ。

 部屋を出て二人を解体しようとした、そのとき。部屋の出口に張られた光の膜に、セルシアが弾かれた。


「……へ?」


 ドアは開いている。なのに、その空間に壁のようなものがあって進むに進めない。近づいてきたパトラネリゼがその膜に触り、


「魔力障壁ですね。そっちの人が出入りできたってことは、なんらかの条件付きですか。

 たぶん私たちを出入りさせないための……?」


「こんなもの指示した覚えはないぞ!? まさか奴が……」


 バイドロットが狼狽する間もセルシアは動き回っている。

 障壁に全力で拳を叩き込むも、突き破れずに弾かれる。ならば壁をぶち破るまでと拳足を叩き込むがやはり同じだ。壁に拳が叩き込まれると壁に一瞬光の波紋が走り、壁に攻撃が届かない。


「くっそ、なによこれ」

 ぎり、と歯ぎしりをするセルシア。そこに、部屋の外からよく通る声が響いた。


「そこまでにしてもらおうか」


 足音を立てて現れたのは銀髪にマスクを付けた男。甲冑はつけておらず、黒に金でラインの入った軍服のような服装。黒騎士だ。

 横たわるバイドロットとそれを抱き起すハクダを一瞥もせず部屋に入ってきた黒騎士は、まずパトラネリゼを見た。


「ふむ。お目覚めはどうかな、お嬢さん方。

 一応女官に申し付けて清めさせてもらったが」


「あ、はいお心遣いありがとうございます……ではなくて。

 何しに来たんですかこの人さらい!」


「まあ確認だな」


 言いながら、黒騎士はす、と一歩下がった。同時、黒騎士の顔があった場所を轟音を立ててセルシアの拳が通り過ぎる。黒騎士はそれを掴み止めるとセルシアの足を払い、バランスを崩した彼女を一本背負いで床に叩き付けた。

 恐るべきはその技の冴え。一から十まで完全に極まっていたために、セルシアでも投げを崩すことができなかった。


「かはっ……」


「だから言っただろう、私には勝てんと。

 で、バイドロット卿。こちらが姫、でいいんだな?」


 叩き付けたセルシアを指さしてバイドロットに問う黒騎士。今の一瞬の攻防に血の気が引いたバイドロットはこくこくと頷くばかりだ。


「と、いうことだ。お嬢さんの芝居も悪くはなかったがな。

 とはいえあの状況で友誼のためその身を投じる覚悟、敬意を表する」


 やや慇懃ではあるが言っていることに裏はないらしい。

 だがそんなことは関係ないとばかりに全身のバネで跳ね起きたセルシアが再度、拳を見舞おうとする。

 だがこれも見切られ、再度床に叩き付けられる。今度は投げだけではすまなかった。関節を極められ、身動きができない。


「くっそ、離せ……!」


「いいだろう」


 セルシアの願いをすぐ聞き入れた黒騎士はすぐにセルシアを開放する。そこには、いかなる手段に応じられても即座に制圧できるという絶対の自信が感じられた。

 だが、今度はセルシアも襲い掛かろうとはしない。いくらかの間合いを置いて、黒騎士の様子をうかがっている。


「今一度言っておくが、私は君たちに害意はない。手を貸してもらいたいことがあるだけだ。

 悪いがこの部屋からは出られないようにさせてもらったが、それ以外で不自由はしないように取りはかろう」


「そこの王女とかいう人、シア姉のことを排除しようとしているんですけれど」


「王女? どこにいるのだ?」


 パトラネリゼが指さした先にいるのは襤褸切れを纏った痴女。黒騎士は肩を竦める。


「バイドロット卿、貴殿の趣味やらにとやかく言うつもりはないが、ここは城だぞ。

 娼婦を招き入れるなとは言わんが、もう少しランクを選べ」


「いや本当に王女なんですって。ルイベーヌ侯爵が言ってたから間違いありません」


「これが……王女? さらに言えば、そちらも?

 ……まったく。トメルギアという国はどうなっているのだ。姫と言うのはこう、もっと麗しいものだろう?

 それが片や山猿、片や娼婦だ。大公家の末裔とは言うが、先が知れるな」


 その言葉には見下すを通り越して、見下げ果てた、とでもいうような響きがあった。


「まあいい。何か必要なものがあったら言ってほしい」


「それなら――」


「アウェルは」


 セルシアが二人の会話に割って入った。


「アウェルはどうなったの。あの白い奴は」


「あの白い機体なら、斬った。とはいえ止めは刺し損ねた。死んではいないだろう」


「そ」


 その様子に違和感を覚えるパトラネリゼ。

 他ならぬアウェルのことだからもっと焦りそうなのだが、セルシアはあまり気にしていないように見える。それだけ信頼しているということなのだろうか。


「あ、あの。私たちの荷物はどうしたんですか?」


「それならこちらで保管しているが。特に危険なものもないようなので返そう」


「お、お願いします。あの、私が首からぶら下げていたお守り、両親の形見なんです。どうか」


「それは悪いことをした。すぐに持ってこさせよう」


 それだけ言って部屋を去ろうとする黒騎士。それを、セルシアが呼び止めた。


「待って。あんた、名前は」


「――ガルデリオンだ。訳あって姓は名乗れない。では」


 ばたん、とドアが閉まり、足音が三人分遠ざかっていく。

 それが聞こえなくなったことを確認してから、


「ふっふっふ、ちょろいです。これでゼフさんと連絡が取れます」


 にやりと笑うパトラネリゼ。とはいえ状況はよくない、さらに言えば不可解である。

 あの黒騎士は邪教や王女とは別枠でセルシアをさらいに来たようだが、かといってトメルギアの騎士ではないと思う。

 パトラネリゼの知る限り、あのエグゼディという魔動機は聞いたことがないし、あれだけ腕の立つ騎士がいるなら噂にもなりそうだからだ。

 ともあれゼフィルカイザーと連絡がつけば、ゼフィルカイザー経由でリリエラに問い合わせるという手段が使える。

 彼女ならおそらく黒騎士についても知っているかもしれないし、知らないならトメルギアとは縁のない勢力のもの、という確証も持てる。

 と、そこでパトラネリゼはセルシアの様子に首を傾げた。どこか熱に浮かされたような表情で、ドアを見つめるセルシア。

 心なしか、先ほどよりも頬が赤いような気がする。


「あのー、シア姉? どうしたんですか?」


「ん? なんでもないわよ、なんでも。

 ただ、うん。また、手も足も出なかったなって」


 一体何なのだ。なぜもじもじしつつ微妙に嬉しそうなのだ。

 セルシアが初めて見せる表情に戸惑いを隠せないパトラネリゼ。

 なんとなく、なんとなーくそれがなんなのか感づいてはいるが、この蛮族娘に限って。

 だが、この賢者ポンコツは今回に限って予感を的中させた。どこか熱っぽい響きで、セルシアはぽつりとつぶやいた。



「ガルデリオン、か」



(ヤバい)


 乙女の表情のセルシアに凍りつくパトラネリゼだった。

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