001
【最低限稼働域での修復完了】
【損失部位の補填率41%】
【資材が不足しています】
【戦闘行動は危険と判断】
【主動力損傷軽微】
【本体重力制御機構一部破損 完全修復まで最速で約48000秒】
【フェノメナ粒子炉損傷無し】
【ナノマシンリアクター正常稼働】
【アームドジェネレーター確認できません】
【ブレードレールガン摩耗率62% 過負荷が許容範囲を超えています】
【再起動を行いますかY/N】
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【再起動を受諾】
【リブート】
目覚めと激痛は同時だった。文字通り胸を引き裂かれた痛みがそこにある。
『があ、あ、ぐ』
視界のノイズが徐々に晴れていく。
損傷部位は相変わらずアラートが多いが、どうにか活動できる最低ラインは越していた。
上体をどうにか起こす。
場所は変わっていない。変わっているのは空模様だ。
晴れていた空は今は夕暮れの色に染まっている。損傷個所を改めてみると、装甲は薄く張っただけの状態だ。
胸に輝くオーブ状の物体、フェノメナ粒子の生成炉だけは無事だが、ほかの駆動系にもダメージが行っているのがわかる。
重力制御に支障が出ているせいかボディも普段より重く、こうしているだけでも左肩が負荷でアラートを上げているのだ。
さらに言えば左腕の装甲も損傷したままで、握力は戻りきっていない。耐えかねて、横に戻る。
(自己修復能力マシマシで注文しといたほうがよかったかなあ、これ。ガッタガタだぞ。
どこがチートなんだ)
「!! 気が付いたでござるかゼフ殿!?」
『ああ……ハッスル丸、か。お前こそ大丈夫か』
見ればハッスル丸も、今は止まっているようだがあちこちが赤い血に染まっている。
「いやなに、大したことではござらん」
『……まあ予想はつくが。すまなかった』
おそらくレールガン最大出力の余波のせいだろう。最後に見たとき機体から生身をせり出していたのを覚えている。
そのまま衝撃で吹き飛ばされたか。この忍者ペンギンなら受け身を取って無傷で済ませそうなものだが、その様子からすると相当な威力で飛ばされたようだ。
『それで、アウェルは――』
見れば岩に腰かけて背を向けている。
傍らに突き刺さっているのはセルシアの剣だ。刀身には大きく亀裂が走り、折れていないのが不思議なくらいだ。
ゼフィルカイザーが起きたというのに反応もしないのは、
『寝ているのか?』
「それならまだいいんでござるがなぁ。
あと聞かれる前に言うておくと、まだゼフ殿が倒された当日のままでござる。
あの売女は拙者らが戦っておる最中に逃げたようで」
つくづく気が付くペンギンで助かる。当初はギャグのような存在だと思っていたが、こうして血やらなんやらで汚れている様を見ると笑う気には到底なれない。
『そうか、すまんな。おい、アウェル』
「……あ?」
ふらり、と振り返ってゼフィルカイザーを見つめるアウェル。その顔には生気がなかった。
うつろな笑いを浮かべた姿は、普段からは想像もできない。
その手にしているのは、アウェルが丹精込めて作ったゼフィルカイザーの木製フィギュアだ。
あの時の衝撃のせいだろう、フィギュアは真っ二つに裂けて割れていた。
「ああ。起きたのか、ゼフィルカイザー。大丈夫か」
『お前のほうこそ、大丈夫か?』
「オレは大丈夫だよ、オレはな」
とぼとぼと、ゼフィルカイザーに近寄ってくるアウェル。あちこちに打ち身のあとがあるが、それ以外に目立った外傷はない。
何より気がかりなことがあれば忍者が気づいているだろう。
この機体の搭乗者保護機能については間違いなくチートの域だ。そこだけは認めている。他については消費者センター案件物だが。
だが、あの一撃はその保護を貫くだけの衝撃力をもっていた。改めて恐ろしい相手と対峙したと思い知る。
「姉ちゃんが、さらわれちまった」
感情のこもらないような、それでいて全身の無力感が込められたような声。
「オレは、強くなったんじゃなかったのか……なんとか言えよ」
『……すまない』
「すまないじゃないだろ! どうにかならなかったのかよ! お前は強いんじゃないのかよ! ドラゴンの群れだって一発で倒したじゃないかよ!」
『すまない』
他に言いようもない。ジビルエルという精霊機、使っていた邪教徒は災霊機とか言っていたが、物理攻撃が一切通じないとは思いもよらなかった。あと試していない手段はフェノメナ粒子によるビーム兵器だが、痛みに気を取られていたせいで頭が回らなかった。もっとも左腕がほぼ全損の状態だったのだ。右手のヴァイタルブレードを放り投げるという選択ができたかと言えば。
「ッ……この、役立たず! 機械なら、オレの思ったとおりに動けよ!」
かん、と軽い音がして、ゼフィルカイザーになにかが投げつけられた。アウェルの手にしていたもの。ゼフィルカイザーのフィギュアの破片。
「アウェル殿!」
「――あ。いや、違う、そんなつもりじゃ……」
ハッスル丸の叱責にはっとして顔をゆがめるアウェル。
(ああ。これは、辛いなあ)
ロボットアニメではよくあるシーンだ。
意志のあるロボットがいたとして、それが失敗なり仲間割れなりをして、ロボットなんだから役に立て、言うことを聞けと言われる。
お約束にすぎるし、ゼフィルカイザー自身いつかはこんなことが起こるのではないかという気はしていた。まあセルシアは既に似たようなことを散々言っていたわけだが。
だが、実際に言われると。なによりそういう物ではないと認めてもらったと、そう思っていた後だけに。だが、それでも。
『いや、いい。すまなかった。それと、そいつは拾っておいてくれ』
ゼフィルカイザーはそれを咎めようとは思わなかった。
考えてみれば、精霊機なるものについてパトラネリゼからそれなりに聞いてはいたのだ。だが、それをとっさに手繰り寄せることができなかった。
そもそもが異世界に唐突に落ちてきたのだ。
本来、生きていくためにもっと必死で情報を集めるべきだった。そうしなかったのは何故かと言えば。
(結局、俺もこの力に甘えていたってことなんだろうな)
どこがチートだ、とは言うが。人間だったら死んでいるダメージが損傷で済んでおり、人間とは比べ物にならない速度で修復されてもいる。
飲み食いをする必要もなく、その気になれば動き続けることもできる鋼の肉体。
その恩恵は生半可な特殊能力などよりもよほど強烈だ。
それだけに、どこか浮ついていた。こうなっては認めざるを得ない。
『今の私では、精霊機には勝てない』
それだけは確かなことだ。その一点だけは認識しておかなければならない。その言葉を受けたアウェルがぽつりとつぶやくように、ごめん、と言った。
「負けたのは、オレだ。あの黒い魔動機に負けたのはオレのせいだ。オレが弱かったから」
『十全の状態を保てなかったのは、私があの精霊機にいいようにやられたせいだ。お前のせいではない』
「いや、でも。腕で完全に負けてた。やっぱりオレが」
『いや私が』
「オレが
「いい加減にされよ二人とも」
横からのペンギンの一言で押し付け合いならぬ引き取り合いがひとまず止まる。
「要は我らが未熟であったということでござる。腕云々以前に、我らはどこか浮ついていた。そういうことでござる」
『……そういうことだな』
「その、悪かった」
『なに気にするな。お前が無事なだけでも良かった――では、助けに行くことを考えるぞ』
「……え?」
「ゼフ殿、二人がどこにさらわれたか見当がついておるので?」
『これから探す。が、すぐに見つかるはずだ』
通信機の信号を認識し、その場所を視界へと表示する。
すると二つの光点が見えた。一つは北西の方角にあり、今一つはその点よりいくらか南のほうに見えている。
点についているマーカーは北西のものが1、その南のものが2だ。1はパトラネリゼが持っている方、2は以前リリエラに渡しておいたほうだ。
『見つかった。この道の先約30km……セルシアとパティはおそらく公都かその近くにいる』
「なにか仕込んでおったのでござるか。拙者も余力があればどうにかしたのでござるが」
『私の手管ではない。褒めるならパティを褒めてやれ』
パトラネリゼがあのときわざとさらわれるような真似をした理由がこれだ。
ここ最近パトラネリゼが管理している関係もあり、パトラネリゼは通信機が発信器にもなっていることを知っていた。だが、あの状況でセルシアに通信機だけを押し付けるのは不自然に過ぎる。
だから、自分ごと発信器をついて行かせたのだ。
(さんざんポンコツっつったのを謝らんとなあ)
こちらから話しかけることはまだしない。状況が不明だからだ。
手元にあるならいずれ連絡が来るだろうし、いつまでたっても連絡が来なければ危険な状況になっていると判断できる。
正直、ゼフィルカイザーも心配ではあるしすぐにでも連絡を取りたいところだが、そうはできない。余計に二人を危険な目に遭わせることになりかねないからだ。
『では行くか――グ』
再度体を起こそうとするが、再度の激痛。薄く張った装甲がひび割れて火花が散る。まだ動くのは無理らしい。
「無理をなさるな。アウェル殿も、ゼフ殿が動けるようになるまで待つほかなかろう」
「……そう、だな」
そうは言うが、アウェルの表情は焦燥にかられている。時間を置くとまた眼の光が死にかねない。故に、非常手段を用いることにする。
『すまん。さっさと治す――ぐ、が』
ゼフィルカイザーは手が届く近場に転がっていたそれに目を付ける。斬り飛ばしたスレイドニアの片腕だ。それを掴み、傷口に持っていき、無理やり押し付ける。
『が、ああああああっ!』
これまでにない激痛と視界のノイズを堪えつつ機能確認の画面を展開し、修復以外のエネルギーをすべてカットしていく。
ゼフィルカイザーの修復機能や物質製造機能はナノマシンによって成り立っている。しかしここまでの道中でマニュアルを見たり実際に試したりしてみたが、例によって万能とは言い難く、当然のように原材料とエネルギーを必要とする。
エネルギーはともかく原材料はどこから取り寄せているかと言えば、地面からである。厳密に言えば足の裏を筆頭とした接地部分から、地面の中の必要元素を回収して修復に回しているのだ。
事実、ゼフィルカイザーが倒れ込んでしばらくしてから、じわじわと地面に沈んでいくのをハッスル丸が目撃している。
(あー畜生。これ攻撃に使えたらいいのになあ)
一瞬で相手を分解して自分の強化に使える、とかできれば無敵なのにと思うゼフィルカイザーだが、そうは問屋が卸さない。
分解速度も生成速度もきわめて遅いのだ。さらにその過程で馬鹿みたいにエネルギーを食う。
(つくづくなんでリアルロボットで無双したいとか言ってしまったんだ、俺)
最大の問題点が無から元素は用意できないという点だ。
試しに物質製造機で金塊を作ろうとしたのだが、豆粒ほどの金を抽出するのに三日かかった。その間はミサイルや弾丸の生成もストップしたままである。
普段装甲がすぐ直るのは装甲自体はそこまで希少な物質でできているわけではないせいだ。
装甲の感触からして、セラミックやプラスチックの延長線上のようなものとゼフィルカイザーは踏んでいる。
ただ今回の場合、内部の機構が破損したせいで重金属の類がまるで足りていない。なので、すぐ近場にある金属の塊に手を付けた。
接合面からスレイドニアの腕が分解されていき、癒着したようになる。
「大丈夫なのかそれ!?」
「帝国で一度見た金属の塊の化け物を思い起こすでござるなあ」
『ぐ……これでしばらくすれば動けるようになるはずだ。もう少し待ってくれ』
言っている間にもスレイドニアの腕はじわじわと溶けるようにゼフィルカイザーに吸収されていく。
ゼフィルカイザーも傷が急速に塞がっていく感触を感じているが、正直不気味なことこの上ない。
その上、このじわじわとした吸収速度のために主動力のエネルギーがほぼ全部費やされており、指一つ動かすことができない。とてもではないが攻撃などに使えた物ではない。
(プラモの接着作業思い出すなあ。あれよりは流石に早いけど)
そんなことを思うゼフィルカイザーである。
「お前、本当に魔法とかの技術は使ってないのか?」
セルシアの件とは明らかに別の理由でアウェルが顔を青くしている。こういう反応が目に見えていたからこの手は使いたくなかったのだ。
『私からすれば、以前騎士殿の機体が修復されていたのとかのほうが不可思議だ。古式とはああいう物なのか?』
「あ、ああ。機道魔法の一種でさ、コアに魔力を注いでいると機体が徐々に修復されていくんだよ。
ベルエルグやフラムフェーダーみたいにごっそり壊れても、格納魔法で破片ごと召喚器に収めておくと、所持者が持ってるだけでその中で機体が修復されていくんだ」
「便利なもんでござるなあ」
「古式っていうのはそういう、一定以上の修復機能を持っていて現代まで残っていて、なおかつ実戦に運用できるレベルの魔動機のことを言うんだよ。
中には図体だけで役に立たない骨董もあるしな。そういうのはバラして、新物の材料にしたりする」
そうして話していると、アウェルの様子が少しは明るくなったように思えた。気を紛らわせる話題を振れたことにゼフィルカイザーは安堵する。
『なるほど。そういえばハッスル丸、お前の影鯱丸はいいのか』
「ゼフ殿が目覚めるまでにアウェル殿と応急処置だけは済ませ申した。
とはいえあれは新物でござるからな。細かい破損は金行術で治せるでござるが、腕一本となるとお手上げでござる」
両手を上げるペンギン。普段ならペンギンショーでやれと言うところだが、けが人に突っ込むほど野暮ではない。
「……あの黒い魔動機はいったいなんだったんだ。それにあの黒い鎧の奴は。セルシアを倒すなんて」
ふと、アウェルがそんなことを漏らす。
焦りもあるが、どちらかと言えば純粋な疑問が先立っているような調子だ。
「彼奴等は此度もセルシア殿の身柄を狙ってきたでござる。バイドロットと言ったか、邪教の教主の望みだと言っておったでござるが」
『その後現れたあの黒い精霊機使いも邪教の司祭と言っていたな。だからあの女はその邪教と繋がっているんだろうが』
ならば、あの黒い騎士は何者なのか、ということになる。あの騎士もセルシアを狙っていた。だが、その前に邪教の司祭を倒していた。
『パティのほうからの会話からして、奴はセルシアについての詳細を掴んでいなかったようだ。あの痴女とつるんでいるならばそれは考え難い』
となるとハクダや邪教とは別枠でセルシアを欲している者がいる、ということになる。
推定ではあるが二人が公都にいる以上、その可能性が最も高い。
『考えうるのはトメルギアであの痴女と対立する派閥、ということになるな。
そうなるとセルシアは大切な駒だ。無碍には扱わんだろう』
「本当か!?」
『推測だが、最も可能性が高いのがそれだ。
少なくとも殺す気ならあの場で殺しているし、王女や邪教もセルシアを何らかの形で利用するつもりだ。
殺すことだけはないだろう』
その言葉に幾分か安堵した表情を浮かべるアウェルだが、ハッスル丸もゼフィルカイザーもそんなに単純な話ではないだろうと思っていた。特にゼフィルカイザーは。
あの黒い魔動機。黒騎士はエグゼディと呼んでいた。
あの機体は尋常の機体ではない。カーバインを後にしてからパトラネリゼが言っていたことだ。フラムフェーダーは現状のトメルギアでは最強の機体である、と。
それを前提とすれば、フラムフェーダーと互角、あるいはそれ以上の力を感じたあの機体はあるはずのない機体ということになる。
なにより黒騎士は言っていた。始まりの魔動機と。
(――ライバルの登場、と思ったほうがいいか。
パティがいればその辺確証が持てそうなんだが……ああ、知ってそうな人がもう一人いたな)
ゼフィルカイザーの脳裏にはいろいろと崖っぷちの女騎士の姿が思い浮かんでいた。
万が一に備えてのことだったが、どうやら本気で彼女に頼る必要がありそうだ。




