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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第十話 漆黒の魔動機(マジカライザー)
63/292

007

 黒い鎧の騎士がそう言い放った。若い男の声だ。背はセルシアよりもさらに高い。

 見たところ目立った形質を持たない人間のようだが、纏っている雰囲気が尋常ではない。

 今しがた一機斬り伏せて息を切らしている様子もなし。


「あの、シア姉」


「ちんまいの黙ってて」


 パトラネリゼの呟きを流すその声に余裕がない。

 朝からの焦燥のせいではない。眼前の騎士から感じられるプレッシャーのせいだ。

 気配そのものは静かなものなのに、それが逆に恐ろしい。


「あたしに何の用よ」


「今言ったとおりだ、トメルギアの王女よ。貴殿の身柄を戴きに参った。

 貴き血を引くものならばその使命を果たすべく私についてこい」


「は、冗談」


 剣を抜き、重心をいつでも駆け出せるように据え置く。普段まともに剣を構えないセルシアにとっては、これが構えのようなものだ。

 だが、黒騎士は肩を竦めた。


「……言っておくが。女とは言え容赦はしないぞ?

 そもそも剣を使えるのか、君は? まるで構えもなっていないじゃないか」


「ああ。そう。じゃあ死んで驚け」


 セルシアの姿が爆音とともに消え失せた。走る、というよりは飛び跳ねる勢いで間合いを詰め、一撃でその首を狩りに行く。

 セルシアの全力の一撃。それは人に向けるには危険すぎるものだ。首どころか、上半身が千切れ飛んでもおかしくない。

 それほどの速度と威力が籠った一撃を放ち、黒騎士の横を駆け抜けたセルシアは、しかし信じられないという顔で後ろを振り返った。

 そこには首がつながった、五体満足の黒騎士の姿がある。


「――ッ!」


 再度、駆ける。振り返った黒騎士はそれを迎え撃った。漆黒の剣、今しがたセルシアの剣を受け止め、いなしたその剣でだ。

 セルシアの放つ斬撃にはいずれも必殺と言っていいだけの威力が籠っている。だが、そのことごとくが威力をそらされ空振りに終わる。

 相手の持つ剣は両手剣だ。その刀身はセルシアの剣の五割増しほどの長さと、それに伴った肉厚さを備えている。

 そして剣の速さそのものもセルシアに比べれば格別に早いわけではない。常人でも見切れる域だ。

 だというのに刃が届かない。


「くっそ、この――!」


「人とは思えん域の身体能力、隙を即座に見切る本能。天性のものと言っていい。しかし」


 セルシアがわずかに引いたところを黒騎士が踏み込む。だがそれが狙いとばかりにセルシアは逆襲の切り上げを放った。

 だがそれこそ読んでいたとばかりに僅かに体をそらしただけで逆袈裟の一撃を避ける黒騎士。


「っ、いい加減、死ねぇっ!」


 満身の力でその刃を返す。だが、その刃を下からの黒の刃の切り上げが迎撃した。刃がかち合ったのはセルシアの剣に力と速度が乗り切るほんのわずか手前。剣の振りが斬撃となるまでのわずかな隙である。

 ぴしり、と嫌な音をセルシアは聞いた。馬鹿なと思い手を見れば、そこには握っていた剣がない。

 上を見ればくるくると回る銀色の光。それが放物線を描いて地面に突き立った。刀身の中ほどに大きな刃こぼれとヒビを受けて。


「あ――」


「獣の強さでは、技には勝てん」


 忘我自失となったセルシアに、冷徹な言葉と共に拳が浴びせられた。

 完全に気が抜けたところに鉛の重さと鉄の鋭さを備えた拳が突き刺さり、セルシアの体がくの字に折れ曲がる。


「かはっ……くっ、そ、まだ、負けてない――!」


 気を失いそうになるのを堪えてその腕をつかみ、組み技に持ち込もうとする。しかしそれすら読んでいたとばかりにもう一方の手がセルシアの顔を抑え、


「サンダーボルト」


 雷光の激痛に、セルシアが絶叫を上げた。




 黒い手甲に覆われた腕から迸る青い雷光。痙攣したセルシアの体が、不意に脱力した。

 雷撃の魔法だ。それは一目でわかる。だが、なんなのだこの騎士は。

 セルシアを子供扱いするだけの力量に、今見せた魔法。そして精霊機を容易く切り捨てるほどの魔動機。

 と、腕の中に倒れ込んだセルシアを抱きとめた黒騎士はため息をついた。


「姫と言うだけあって見目麗しいと思ったら、まるで山猿だな。まったく、話の通りならこの娘のはずなんだが……」


 そんなことを冷淡にぼやく黒騎士。

 どうする。

 見れば、ゼフィルカイザーも影鯱丸もまだ二体の魔動機に苦戦している。

 ハッスル丸が外法と言った辺りあの黒い機体の乗り手に操られているのかと思ったが、微妙に違うようだ。術者が死んでもそれが解ける気配はない。

 助けがくる状況ではない。だが、このまま放っておけばセルシアが連れ去られる。

 そうなってはいけない。どうなるか分かったものではない。どうするべきか。

 パトラネリゼはこの状況における最適解を探り出そうと全力で頭を回転させ、


「お、お待ちなさい! その娘を放しなさい!」


 至った結論を実行に移した。その言葉に黒騎士が振り返る。


「姫の連れか? 悪いが姫は連れて行かせてもらう。身の安全は保障しよう」


「私がセルシアです、その娘は私の影武者です! いいからその娘をお放しなさい!」


「演技はよせ。姫は赤い髪と聞いている。お前は白い髪だろう。それに外見も年ごろに合わない」


「こ、これは魔法で色を抜いたのです。年の割に幼いのはまあ、認めますが……なによりそんな野生児が貴族の血筋であるわけがないでしょう。

 その娘は関係ありません、連れて行くなら私にしなさい!」


 これはパトラネリゼの賭けだった。

 今しがたの黒騎士のぼやきから、相手はセルシアの外見についての情報は得ていても中身については知らない、そう踏んだ。

 中身について僅かでも聞き知っていれば、今の戦いで彼女がセルシアだと確信を持つに決まっているからだ。

 案の定、黒騎士は首を傾げうなり出す。


「……念話でバイドロットに問いただすか? いや、しかし奴とて詳しいことは知らないはず。

 他の騎士――は、あの様子だともう中身も残っていないだろうしな」


 考え込んでいる黒騎士にそっと近寄ったパトラネリゼは、魔法を気づかれないように唱えた。

 安眠の魔法だ。そこまで強力なものではないが、意識をぼやけさせるには十分。その隙にセルシアを起こしてどうにか逃げる。

 そう算段を付けて魔法を完成させようとして。


「まあいい。どっちもつれていくか」


 そんな言葉と共に黒騎士がパトラネリゼに向けて指をぱちんと鳴らした。とたん、紡がれていた魔法が唐突に霧散する。


「え、いやこれ、なんですか? あなた一体何を」


「スタンボルト」


 ばちん、と空気が爆ぜる音と共に痺れが全身を襲った。

 自分の唱えようとした魔法とは桁外れの、相手の自由を確実に奪う、戦闘に用いれるレベルの魔法。やはり尋常な相手ではない。

 しかしながら意識が落ちる最中、パトラネリゼは失策の一方で己のもう一つの策が成ったことだけは確信した。

 ゼフィルカイザーなら自分の意図にも必ず気づく、そう信じて、白い賢者は気を失った。




「せ、セルシアが……!」


 半泣きになりながらスレイドニアの攻撃を避け続けていたアウェルは、通信機から聞こえてきたその会話に気が気でなかった。

 だが、目の前の機体はまだ襲ってくる。

 どうにか体勢を立て直したゼフィルカイザーはスレイドニアを徹底的に攻撃したが、片腕片足を斬り飛ばしても這いずって棍棒を振り回してくる。

 機道魔法を使ってこない、あるいは使えないのかもしれないが、その点だけが幸いだ。


(パティめ、わざとさらわれるような真似を――いや、だからか?)


 痛みがようやく和らいできたゼフィルカイザーは何とか頭を巡らせる。しかし、この状況はいかんともしがたい。

 その時、張ったものを弾くような音と共に、唐突にスレイドニアの動きが停止した。


『忍法、禍つ祓い――ようやく、止まったでござるか』


 見れば影鯱丸が弓を手に取っていた。使っているところは見たことがないが、影鯱丸が腰に備えているボウガンが変形したものだろう。


『ハッスル丸、何を?』


『何ぞに憑りつかれていると踏んで祓う術を用いたのでござるよ。とはいえ、これで拙者の魔力もちと限界気味にござる。そちらは』


「あの黒い機体に、セルシアとパティが」


『なんと』


 そう言って視線をやれば、セルシアとパトラネリゼを両脇に抱えた黒騎士が、やはり黒騎士の姿の機体に乗り込もうとしている最中だ。


「――まだ間に合う。行くぞゼフィルカイザー」


『……わかった』


 パトラネリゼの意図は読めた。だが、今この場で抑えられるならそのほうがいい。

 そう判断はしたが、しかし勝てる気もしない。あれはそれほどの相手だとゼフィルカイザーは踏んでいる。

 機体も、おそらく中身も別格。ロボットアニメで言えば宿命のライバル。そのお約束に従えば。


(今回は、負ける、か? いや負けで済めばいいが)


 ライバルとの邂逅は大体初戦は主人公の敗北と相場が決まっている。だが、これはアニメではない。

 敗北どころか死ぬかもしれず、一方でこちらもお約束に従ってやる道理などない。

 それに活路はある。セルシアの危機だ、アウェルが奮起しこの機体の力を目覚めさせることができれば。

 逆を言えばそれ以外に勝機はない。故に全力で行く。


『閃光弾を使う。三秒。合わせろ』


「わかった」


『御意』


 走り出すゼフィルカイザー。ヴァイタルブレードを振りおろすのと、黒騎士の兜の奥に光が灯るのがほぼ同時。その身をそらして斬撃を交わしたところに、黒騎士は強烈な光を浴びた。

 走り出した直後に発射していた閃光弾が、頭上から飛来して炸裂したのだ。そして、それに合わせるように紫の影が駆け出した。




 先ほどゼフィルカイザーに言ったとおり禍つ祓いに魔力を使いすぎた。忍法で足場を崩すこともできず、ほかに攻め手がない。だがこの状況で逃げては義が立たぬと突っ込んだところで、影鯱丸が壁のようなものに激突した。


『な――!?』


 壁の正体は盾だ。閃光のせいで気づくのに遅れた。

 頭上では金属音。ヴァイタルブレードの斬撃が悉く黒騎士の剣に防がれている。まるで先ほどのセルシアと黒騎士の戦いそのままのように。

 否、事実そうなのだろう。

 ハッスル丸がアウェルに教えたのは体捌きや戦術の組み立て。あとは徒手空拳の基本程度だ。

 剣の扱いについてはほとんどセルシアのそれがベースとなっているはず。結果、勢いの乗った斬撃がことごとく防がれている。


『く、お命頂戴!』


 かくなる上はと背後に回り、コックピットを上から狙う。

 幸いに黒騎士はゼフィルカイザーの攻撃を捌くので手いっぱいだ。

 その隙を突いた、そう思った時には斬撃が影鯱丸を襲っていた。

 ヴァイタルブレードの斬撃はその盾で防がれている。

 宙で軌道を変えることなどできはしない。片腕で受けるが、質量差は歴然、耐えきれるものでもない。

 打ち落とされ、地面を転がり落ちたハッスル丸は影鯱丸の中の頑張のそのまた中で被害状況を確認する。

 左腕が肘から両断されていた。他にも機体各部がきしんでいる感触があり、何より今の受け身で自分の魔力が尽きた。


「一体、何者でござるかあれは……!?

 かような使い手は大陸にも里にも聞いたことがない!」


 ハッチをこじ開け外に出るアデリーペンギン。

 その視界の中では大きく切り込んだゼフィルカイザーがあっさりとはねのけられ、大きく距離を空けていた。




『尋常でない機体。そして乗っているやつの筋も悪くはない。しかしながら、覚悟がない。貴様、姫のなんだ?』


「うるさい、姉ちゃんを返せ!」


『ん? 姫の弟か?』


「そういうんじゃなくて、ああ、もう。とにかく返せよ、返せったら!」


 もはや子供の駄々だ。声も涙声で、ゼフィルカイザーの腰も引けてしまっている。

 そこに、黒の機体から言葉が飛んでくる。真摯な、諭すような口調でだ。


『彼女は本来あるべき場所にこそいなかったが、王家の血を引き、その義務を負わねばならない身なのだ。諦めて身を引け』


「そんなもん関係あるか! 姉ちゃんは姉ちゃんだ!

 ちくしょう、こうなったら!」


『ッ、アウェル待て、セルシアとパティまで殺す気か!』


 ゼフィルカイザーの制止が入る間もなくヴァイタルブレードがレールガンモードに変形。

 その上に走ったシステムメッセージにゼフィルカイザーの内部骨格を冷たいものが走り抜ける。



【O-エンジン セミドライブ】



 トライアルではない、おそらくはより上位の段階。その証拠に、右腕だけでなく左腕の機構も展開する。

 今まで以上の出力でアウェルの感情が膨大なエネルギーへと転換され、レールガンに注がれていく。いつぞやゼフィルカイザーの恐れたとおりに。

 感情に反応する、というところまでは読めていた。

 それが怒りなどに任せると惨事を呼ぶと予見していた。

 だが。

 こんなヤケクソのような感情で起動するとも思わず、そしてアウェルがここまで見境をなくすとも思っていなかった。

 止める間もなく引き金が引かれ、発射時の大気の爆発でゼフィルカイザーまでが大きく後ずさった。

 これほどの威力だ。当たるまでもなく黒騎士は砕け散る。中のセルシアとパトラネリゼごと。


(どうして、こうなった……!?)


 だが、幸いというべきか。最悪の状況は訪れなかった。訪れたのは最悪から二番目の状況。漆黒の鉄騎士がそれを運んできた。


『魔動機でも精霊機でも、無論災霊機でもない。

 いかなる機体かは知らんが、危険と判断する。我が刃にて散れ――!』


 巻き起こった粉塵から風を巻いて躍り出た黒の騎士が、その斬撃をゼフィルカイザーに見舞った。

 神速の剣はバリアを張る間すら与えてくれなかった。

 袈裟切りに機体が避け、装甲と駆動系と潤滑剤が飛び散っていく。


『あ……ガ、ギ』


 視界が真っ赤に染まる。

 ノイズに塗れた視界の中、鳴り響くアラートの音もどこか遠い。

 ゼフィルカイザーは自分が転生した、という自覚だけはあった。

 死んだという実感がわずかではあるが、しかしはっきりとあったからだ。

 それに近しい感覚が押し寄せているのがわかる。もはや痛みすら感じない。


「あぐっ……ぜ、ゼフィルカイザー?」


 慣性制御の許容限界を超えた衝撃はアウェルをも打ちのめしていた。

 全身を打ったアウェルは正気に戻ったのかゼフィルカイザーに問いかけるが、ゼフィルカイザーにはもう余力はない。


『に、ゲろ、あ、ウェル』


 倒れ伏した自分に今にも剣を突き立てようという黒の騎士の姿。

 この世界に降り立って見た中では、おそらくもっとも格好いいロボットだ。


『誇りに思え。始まりの魔動機たるこのエグゼディの刃にかかって朽ちること』


 名前も悪くない。こんな機体に止めを刺されるなら、悪くはない――否。否。否――!


(んなわけが、あるか……!)


 自分を道具でないと言ってくれた友がいる。

 そいつが懸想している面倒くさい娘がいる。

 自分をポンコツと呼ばわる幼女がいて、異質極まりない忍者怪鳥は……まあ奴は自分で何とかするだろうが。

 そいつらが危機の間に心地よく死んでいられるものか。

 その時。エグゼディと名乗った機体がその挙動を止めた。

 その機体が、ゼフィルカイザーを見つめている。ゼフィルカイザーはそこに、何者かの意志を感じた。

 乗り手ではない、誰かの。


『どうしたエグゼディ? なぜ操作を受け付けない――く、時間か。

 まあいい。もう会うこともあるまい』


 そんな声が聞こえたのと同時に、わずかな光を伴ってエグゼディの姿が掻き消えたのだ。

 だが、正真正銘そこが限界だった。

 意識が落ちていく。アウェルが泣きじゃくる声だけが、いつまでも耳に残っていた。

 攫われたセルシアとパトラネリゼを助け出すため、暗雲に覆われたトメルギア公都へと向かうゼフィルカイザーたち。

 そこには心強い助っ人が待ち構えていた。


 一方、攫われたセルシアは運命の出会いを果たしてしまっていた。

 恋する乙女のような反応をするセルシアにパトラネリゼの神経はいつまでもつか。


 そして公都に渦巻く邪教主バイドロットの野望とは?

 影で動くハクダは……まあどうでもいいとして。


 次回、転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~


 第十一話



 うちの蛮族娘がこんなにチョロいわけがない



(私の推察で皆を混乱させるわけにはいかない……!)



 次回もお楽しみに!

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