遠藤善治への捜査協力
佐伯茂は、数日ぶりに取調室に入った。その途端、いかにも興味深そうな目で遠藤が俺を見てこう言った。
「刑事さん。なにかまた、新たな局面でも迎えましたか?」
なにか俺の変化に気づいたのだろうか。
「ああ。また、動画がアップロードされた。全国の銀行をターゲットとしてお金を盗むつもりらしい」
これぐらいは伝えても大丈夫だろう。
「それで俺に訊きたいことはなんですか?」
自分のことはあまり話さないが、こちらからは情報を得たいらしい。虫がいいとは思ったが、そのうち話してくれるだろうと大人しく会話をすることにした。
「もちろん。この事件のことだ。率直に聞く。この事件についてどう思う?」
相手の動向を探る。視線の動き、体がビクッとなっていないかなど。
「銀行ですか。全国の銀行で強盗するとなると、時間も人員も相当かかりますね。まあ実際に置いてあるものを盗む場合だけですが」
なぜか遠藤は含みのあるような言い方をした。なにか考えがあるなら、大人しく話してくれと願いながら俺は訊く。
「それはどういう意味だ?」
「だから実際に行くんじゃなくて、サイバー攻撃だったらデータですから。実際に行って盗むよりも可能性は90%以上ぐらいあってもおかしくないと思いますよ」
それが当然のような返答をしてきた。確かに昔は直接、お金を貸金庫とかに置いていたかもしれないが、デジタル化が進んで、データとして管理しているということはある。その辺の事情について詳しく知らないためなんとも言えないのだが。
「その可能性を失念していた。しかし、銀行のセキュリティーはそんな甘くないだろう?」
試すような口調で言ったのは俺にはある狙いがあったからだ。
「それは一般人にとってはですよ。僕ら凄腕ハッカーにとって銀行から金を盗むなんて造作もありません。俺が組織にいたとき、俺以外にもたくさんの有名なブラックハッカーたちがいた。ここ数年大規模サイバー犯罪が少ないのも、この計画に噛んでいたせいかもしれません」
実際にサイバー犯罪が減少傾向にあるのかはわからないが、確かに組織の一員となっていたならそういう可能性もあるだろう。
「よほど自分の腕に自信があるんだな。まあ、NASAや、FBIをハッキングできるようならそのへんの銀行なんて造作もないことか。今思いついたんだが、もし俺達警察が、お前に捜査の協力を要請したら協力してくれるか?」
軽い調子で言った。ここで懇願なんかしたら、断られるのが関の山だろう。案の定遠藤は馬鹿にしているような視線を俺に向けてきた。
「冗談でしょう。刑事さん。俺なんかが信用されるわけがないじゃないですか。」
当たり前のことを当たり前に言っているのはわかっているが、それでは、犯罪を防ぐことはできない。
「たしかにお前を信用することはできないが、お前のハッキングの腕前は右に出るものがいないほどすごいことは知っている」
あえて相手を持ち上げた言い方をしたが、それに満足したり調子に乗ったりしたかといえば微妙だった。
「刑事さん。本気で言っています?本気で言ってたらかなりやばいんじゃないんですか。それこそ警察の上層部に怒られるんじゃありません?」
責任について追求してくる。やはり頭はそこら辺のごろつきよりは回るんだな。
「俺は別に警察からほされてもかまわない。それで大勢の人々を救えるのならそれが本望だ」
駆け引きでは本当のことは基本言わないのが定石だ。相手の求めていることを言ってこそ駆け引きは通じる。
「刑事さん。見た目に反して、正義感が相当強いんですね。僕が自ら捜査協力するような心持ちになる事を願っていますよ」
結局捜査への協力の了解を得ないまま、俺は取調室から立ち去るしか無かった。
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