遠藤善治について
家に帰宅後、智久のスマホに連絡をした。今時間があるかと。すると、ああ大丈夫だとすぐ返信が返ってきた。小さい頃から思っていたが融通がきくし、俺がプレゼントしたら、それよりも必ず値段の高いものをお返しにしてくれた。こういう律儀なところは親友の良いところの一つだなと思った。メッセージのやり取りをして、結局カフェで待ち合わせをすることにした。俺がカフェを見回すと、すでに智久は座って待っていた。やっぱりと思ったが、顔には出さず、よっと声を掛けて席に座った。アイスコーヒーとサンドイッチなどの軽食を頼み、俺は訊きたいと思っていたことを話し始めた。
「実は、老人ホームの張り込みをしていたとき、不審な男が物陰から飛び出してきたんだ。俺はその男を捕まえて、いろいろ訊いたら、事件の関係者であることがわかった。そいつの名前は遠藤善治だった。知ってるか?」
遠藤善治という名前を聞いたとき、智久は目を見開いて驚いたような顔をする。
「ああもちろん。独自に遠藤善治の動画を作っている人もいる。例えばこれだな」
と数ある動画の中の一つをタップした。カフェの中のため、音量は小さかったが、字幕で内容は理解できた。どうやら遠藤善治がどうしてブラックハッカーになったのかとか、どこの学校に通っていたとか、どこをハッキングしたとか遠藤善治の半生をまとめた動画だった。それを観て、意外と有名なんだなぁと実感した。俺は、遠藤善治についてよくわかっているということを確認したため、本題について話し始めた。
「そうその遠藤善治なんだが、実はお前の潜入している組織の一員だったそうなんだ。知っていたか?」
「いや、知らないな。なにしろ組織の人間と会うとき、全員マスクを着用していたし、それに人数も多かったからな」
とパッとしない返事をしてきた。それならと質問の方向性を変えることにした。
「組織の中で、ハッキングを専門にしていた奴はいたのか?」
「それはもちろんいたさ。何人も。ハッキングを専門にしてる奴。闇バイトを斡旋するようなやつ。腕が太かったり、力が強い。つまり、戦闘系のやつとか。なんとなく分かれていたさ」
それを聞き、組織を潰すのはやっぱり一筋縄ではいかなそうだと俺は感じた。遠藤善治が言っていたことは本当そうだが、確証が得られないのは気持ちが悪いと思った。だから、できるだけ情報は得ておきたいと思い、違う質問をした。
「その中でも、腕のたつものはいたか?」
「それはいたさ。でも、一人ひとりそんなにハッキング技術に差があるとは思えなかったな」
と腕を組みながら言っていた。遠藤善治が組織にいたならば、それと並ぶ世界的なハッカーが組織に複数人いたことになる。これは由々しき事態だ。あらゆる犯罪が可能かもしれないということを危惧した。ひょっとしたら、国家転覆も夢じゃないかもしれないと一瞬思ってしまった。自分の相手にしている組織が強大なことを実感し、恐れと同時に、悪役と相対しているようなヒーローのような気持ちになった。
あと訊いておくべきことは何だろうかと思いを巡らせているとき、智久からちょっと訊きたいことがあるんだがと前置きされた。俺がなんでもいいぞと言うと、智久は俺に質問した。
「話を聞いて、気になったんだが、本当に遠藤善治は本気でお前から逃げようとしていたのだろうか? 本当は組織から逃げるためだったんじゃないか? あくまで憶測の域を出ないが」
その可能性は考えなかった。確かに逃げるのはうまかったが、ただ、付かず離れずといった感じで、見失うということはなかった。優秀な男が本当に刑事一人すら撒くことができないのだろうか。智久の言葉が非常に説得力のあるように感じた。
「その可能性は十分ある。また、取り調べをするときに有効活用させてもらう。ところで本当にボスの正体がわからないのか?」
智久は首を振りながら自分の力不足を嘆くように首を振る。
「神と自称するボスの正体は誰も知らない。幹部すらも。名前も素性も性別も、年齢もわからない。そんな人間を調査するのはとても難しい。今の段階では潔く諦めるべきだとこの点については思う」
珍しく諦めの姿勢を見せる。よほど得られる情報が少ないのだろう。
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