13.
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春も終わりに近づいた頃、フィオナはミア、エドワードとともに王都を離れていた。三人を乗せた馬車は街道を進み、窓の外に並んでいた建物は次第に少なくなっていく。代わりに広々とした畑や牧草地が現れ、その向こうには緩やかな丘と小さな森が続いていた。
目的地は、以前三人で出かけた際に遠くから見つけた村だった。赤茶色の屋根が集まる景色を見て、ミアが美術館で気に入っていた風景画に似ていると喜んだのが始まりだった。その日のうちに次は三人で歩いてみようと決まり、ようやく予定を合わせることができた。
馬車が王都から遠ざかるにつれ、ミアは何度も窓の外へ目を向けていた。麦畑の間を細い道が延び、遠くの農家からは煙が上がっている。川沿いには白い花が咲き、荷車を引く馬がのんびりと街道を進んでいた。
「やっぱり似ています。あの絵に描かれていた村も、こんな場所だったのでしょうか」
「まだ到着していませんよ」
「分かっています。でも、ここまで来た時点でもう楽しいです」
エドワードに指摘されても、ミアは楽しそうに窓の外を眺めている。フィオナも反対側の窓へ目を向けると、丘の麓に小さな家々が見え始めていた。王都では見慣れない景色が近づくにつれ、到着してからどこを歩こうかと自然に考えていた。
村の入口で馬車を降りると、三人はまず中央にある広場へ向かった。石造りの家々の間には細い道が延び、広場の周囲にはパン屋や雑貨店、小さな食堂が並んでいる。荷物を抱えた村人たちが行き交い、店先では焼きたてのパンが籠に並べられていた。
「ちゃんとお店がありますね」
「最初に確認するのがそこなのですね」
「あの絵を見たときから気になっていたのです。きっと絵の外にもお店があると思っていましたから」
美術館で風景画を眺めながら、描かれていない村の様子を三人で勝手に想像したことがあった。ミアはそのときの話をまだ覚えていたらしく、雑貨店の看板を見つけて満足そうにしている。フィオナも当時の会話を思い出しながら、二人と一緒に広場を抜けた。
村を横切る川には古い石橋が架かっており、その下を澄んだ水が流れていた。橋を渡った先には牧草地が広がり、低い石垣に沿って一本の道が丘へ延びている。三人は特に急ぐ理由もなかったため、村の中を見て回りながらその道を歩いてみることにした。
ミアは気になる景色を見つけるたびに足を止めた。木立の向こうから教会の屋根が見えれば行ってみたいと言い、畑の向こうに水車を見つければ今度はそちらが気になるらしい。最初に考えていた道順は早々に変わったものの、フィオナもエドワードも特に異論はなく、三人で相談しながら村のあちこちを歩いた。
昼を過ぎる頃には広場へ戻り、最初に見つけた食堂へ入った。窓際の席からは村の通りを眺めることができ、開け放たれた窓から春の柔らかな風が入ってくる。焼きたてのパンと野菜のスープ、香草を添えた肉料理が運ばれると、歩き回って空腹になっていた三人はしばらく食事を楽しんだ。
「次はどこへ行きましょうか」
「今日の話ですか?」
「次に三人で出かける場所です。予定が合わなくて、またずっと先になったら困りますもの」
ミアは食事を終えるより先に次の予定を考え始めていた。エドワードも面白がっていくつか候補を挙げたものの、今度はフィオナが行きたい場所を決めるべきだという話になり、二人の視線が揃ってこちらへ向けられた。
「でしたら、湖へ行ってみたいですわ。王都から北へ向かったところに、大きな湖があると聞いたことがあります」
「いいですね。船にも乗れるのでしょうか」
「調べておきましょう。ミアさんは今から乗るつもりのようですから」
ミアが楽しそうに頷き、次の行き先はあっさりと決まった。フィオナも湖の景色を思い浮かべながら、帰りの馬車で三人の予定を確認しようと提案する。以前なら自分から行きたい場所を口にするまで少し迷ったかもしれないが、今は二人に尋ねられた瞬間、真っ先に湖が浮かんでいた。
食事を終えた三人は、午前中に見つけた教会まで足を延ばした。村の外れに建つ小さな教会の裏には緩やかな丘があり、そこからは赤茶色の屋根が並ぶ村全体を見渡せる。その向こうには畑と森が広がり、さらに遠くには王都へ続く街道が細く延びていた。
フィオナは丘を吹き抜ける風を受けながら、しばらくその景色を眺めた。婚約を解消してから、自分でも思っていた以上に多くの場所へ出かけ、多くの人と言葉を交わしてきた。ミアとは気兼ねなく予定を立てられるようになり、エドワードとも次にどこへ行こうかと相談することが当たり前になっている。
これから先も、行ったことのない場所は数え切れないほどある。今日のように三人で出かける日もあれば、別の友人と過ごす日もあり、一人で気になる店へ足を運ぶこともあるだろう。誰と何をするのかを考える時間そのものが、今のフィオナには楽しかった。
「フィオナさん、そろそろ戻りませんか?広場のお菓子屋さんにも寄ってみたいです」
「やはり気になっていたのですね」
「せっかく来たのですから、村のお菓子も見て帰りたいです」
少し先で待っていたミアに追いつき、フィオナはエドワードとともに坂道を下り始めた。三人で次に行く湖の話をしているうちに、今度はミアが秋になったら別の場所にも行きたいと言い出し、エドワードが気が早いと笑う。フィオナもその会話に加わりながら、村へ続く細い道を歩いていった。
行ってみたい場所は、これからいくつでも増やしていけばいい。会いたい人がいれば会いに行き、興味を持ったものがあれば自分の目で確かめればいい。その一つ一つを誰かの許可に委ねる必要などなく、フィオナ自身が望むものを選んでいけばよかった。
次にどこへ行くのか。誰と過ごすのか。そして、その先でどのような人生を歩んでいくのか。フィオナは二人と並んで村へ戻りながら、まだ決まっていない未来を楽しみにしていた。
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