01.銀の髪と出禁の理由
地獄の魔力コントロール補習を終え、職員室の扉が開いた。
先頭に入ってきたシルフは、さっきまで荒れた風をぶつけていたとは思えないほど、すっきりした顔をしていた。
その後ろには、同じく補講の手伝いをしていた夜行、カグラ、カイルが続く。
さらにその後ろには、飛び入りで魔力コントロールの手伝いに参加した九曜、まさき、楓、龍也の4人が並んでいた。
補習上がりの空気と、まだわずかに残る魔力の気配が、そのまま職員室へ流れ込んでくる。
シルフは肩を回し、息をひとつ吐いた。
「いやぁ……すっきりした~」
その声を聞き、月は机のそばで手を止めた。
すぐに湯呑みへ手を伸ばし、戻ってきたシルフたちへ顔を向ける。
「おかえりなさい。シルフ先生たち………どうですか?生徒たちは」
月はそう言いながら、シルフたちにお茶を渡していく。
湯気の立つ湯呑みが順に手渡され、補習帰りの面々がそれを受け取る。
シルフは受け取った湯呑みを手にしたまま、軽く肩の力を抜いた。
「……まぁまずまずってところかな?」
夜行は受け取ったお茶を見下ろしながら口を開く。
「命がかかっているからか全員やる気を見せていた」
カグラは髪を指先で払って笑う。
「ま、わたしたちは殺る気しかなかったけどね」
カイルも湯呑みを手にしたまま、いつもの硬さを崩さずに続けた。
「やはり魔術師たるもの命を懸けなければいけない場面はあるからな」
4人の言葉を聞き終え、月は小さく頷く。
それから、教師たちの後ろに立っている見慣れない4人へ視線を向けた。
「そうですか………。で、後ろの方たちは?」
月の問いに、シルフが振り返る。
そのまま後ろの4人を軽く示した。
「あぁ、終焉のギルドの構成員。クロマやゴローたちの保護者だったり師匠だったり」
紹介され、4人の中から九曜が一歩前へ出た。
ひょうひょうとした顔のまま、月へ向かって口を開く。
「はじめまして。聖女さん」
その呼び方に、月は一瞬だけ目を向ける。
それ以上は何も変えず、短く返した。
「……どうも」
九曜はその返事を気にした様子もなく、月の髪と瞳、そして首元へ視線をやる。
「警戒しないでよ~。銀の髪で白金の瞳、んでもってそのチョーカーをつけている子なんて……大聖女の特徴そのものじゃん」
月の手が、わずかに止まる。
その横で、まさきが静かに口を挟んだ。
「心配しなくてもいい……聖教会に売るつもりはない」
楓は気楽な調子のまま言葉を重ねる。
「そもそも聖教会から俺たち出禁にされてるにゃ~ん」
月はその言葉に視線を上げた。
「………え?」
九曜は肩をすくめる。
「僕たち昔聖教会の騎士たちとケンカしたことあるんだよね~」
すぐ横で、まさきが淡々と返す。
「あれはお前がげんいんだろ」
楓は即座に首を横へ振った。
「いや、どちらかといとまさきにゃ~ん」
まさきは眉を寄せる。
「なぜ?」
九曜は間を空けずに答えた。
「聖女をナンパした」
まさきの返答は短い。
「してない」
楓はそこでまさきを見上げた。
「顔でナンパしてるにゃ~ん」
まさきは納得していない顔のまま、言葉を返す。
「あれは、聖女たちが道に困っていたから……」
九曜は軽く手を振った。
「はいはい」
楓はそのまま話を進める。
「まさきは悪い女に捕まるにゃ~ん」
そのやりとりを聞いていた月は、少しだけ考えるように視線をずらした。
それから、思い出したように口を開く。
「………そういえばなんか本部からそういう報告があがっていたような……」
九曜はそれを聞き、あっさり続けた。
「まぁ、なんやかんやあって騎士たちにいちゃもんつけられて喧嘩になって出禁になった」
楓は耳を揺らしそうな調子で笑う。
「そもそも俺たちはそんなもんにすがって生きていかないといけないほど弱くないにゃ~ん」
まさきは真顔のまま続けた。
「というか聖騎士たちより俺たちの方が強い。……その程度の実力でよく聖騎士になれたなって問題点を指摘しただけなのだが……」
月はその言葉に、どこか納得したように小さく声を漏らす。
「……あ~……だから聖騎士の日ごろの訓練がきびしくなったんですね……。私には関係ないからスルーしてましたが」
そこで、職員室の中にいた樹が声を出した。
「相変わらず問題児だな」
九曜はすぐにそちらを向く。
「あ、歩く問題行動」
樹は眉を上げる。
「おい」
視線が樹へ集まる。
まさきは少しだけ首を傾けた。
「樹さん……なぜここに?」
楓も樹のほうへ顔を向ける。
「ここには樹好みの女はいな……」
そこで楓はいったん言葉を切り、周囲の女性陣を見渡した。
月、カグラ、そのほか職員室にいる女性たちへ順に目を向けていく。
ひと通り見たあとで、楓はあっさり前言を変えた。
「十分いるにゃ~ん」
樹は呆れたように肩をすくめる。
「おいおい……失礼だな。シキに頼まれて月の護衛として赴任したんだよ」
九曜、まさき、楓の3人がそろって声を漏らした。
「へぇ……」
その反応に、樹が少しだけ顔をしかめる。
「信じてねぇな………ところで、龍也は?さっきから大人しいけど」
その言葉で、3人は後ろにいる龍也に振り返る。
さっきから黙ったまま立っていた龍也は、視線を向けられるとようやく口を開いた。
「…………もういいでありますか?」
3人は揃って頷く。
「うん」
その返事を聞いた瞬間、龍也が前へ出た。
「初めましてであります!!姫君!!!」
そう叫び、そのまま月に抱き着く。
勢いのまま月へ飛びついた龍也の姿は、半分龍化している状態だった。
角が覗き、鱗が浮かび、人の形に収まりきらないまま、龍也は月へしっかりと抱き着いていた。




