10.ようこそ終焉の茶会へ
朝。
まだ仮の形とはいえ、建物は人の出入りを許す程度には仕上がっていた。
雨をしのげる屋根、腰を下ろせる椅子、温かい火のある石窯。
それだけで、誰かを迎え入れるには十分だった。
「看板、ちょっと傾いてない?」
カノンが言いながら、外から仮設の足場をのぞきこむ。
「角度的には想定範囲内なのだっ」
帝が腕を組んで、なぜか満足げに看板を見上げている。
“終焉の茶会”――その名前が、木の板に焼き文字で刻まれていた。
「どこ基準の“想定”だよ……」
「でも、ちゃんと掲げられたね」
月が背後からぽつりと呟く。
それは、焼ける前とまったく同じ名前。
けれど、ここにあるのは“新しい場所”だった。
「じゃあ、開けるね~!」
クロマが入口の戸を両手で押し開ける。
といっても、薄い板を蝶番で留めただけの簡易な扉だ。
「いらっしゃいませの準備完了っ」
マスターがどこからか小さなベルを取り出して鳴らす。
高く澄んだ音が一度だけ響いた。
「ようこそ……」
月が扉の前に立って、静かに言う。
「終焉の茶会へ」
中では、まだ食堂の椅子をカノンが直していたし、
帝は今日もポーズの練習に余念がない。
クロマは出迎え用の飴玉を床にばらまき、
マスターはカウンターの奥でコップを磨いている。
整っているとは言えない。
けれど――不思議と、温かさだけはあった。
扉が開いたその先に、誰かが来るかどうかはわからない。
けれど、そのときが来たならきっと、
この場所は、また誰かにとっての“居場所”になる。
そういう気がしていた。
次章・第3章『終焉の茶会、日々是再建のこと』は、
7月8日 朝8時より投稿を開始します。
どうぞ、お楽しみに。




