08.NEWギルド起工式(非公式)
「マスタだよ☆……というわけでっ!」
マスターの声が、仮拠点に響き渡った。
「本日より、NEWギルド起工式を勝手に執り行いますっ」
「勝手すぎる」
カノンが真顔で言う。
「そもそも、何を“起工”する気なんだよ」
「これから建てる! 心のギルドを! あと物理的にも!」
月は釘を打ちながら、小さく呟く。
「……物理的には、もうだいぶ建ってる」
「えー、でもまだ玄関ないし、セレモニーする余地はあるよね?」
「どこからその理屈が……」
クロマがにこにこしながら、赤と白の布をどこからか引っ張り出してくる。
「はい! これ、起工式用の幕~!」
「それ、さっきまでカーテンだったやつ」
「気にしない~」
仮拠点の一角に、謎の祭壇もどきが設置された。
帝がやけに張り切って、でかい木槌を肩に担いで登場する。
「オレ、初打ち込みするのだ!」
「それ、杭じゃなくてマスターのバランスボールだったよね……」
「えっ」
ボフッ。
「ぎゃああああああっ!!」
バランスボールが盛大に破裂し、帝が吹っ飛ぶ。
「……お姉ちゃん……いま、ちょっと……空、見えたのだ……」
「二度と空を飛ぶな」
月が冷静に言い放った。
クロマが勝手に撒いた紙吹雪が、風で全部逆方向に流れていく。
「ぎゃーっ! 目に入ったー!」
「やっぱり被害出てるじゃん!」
それでもマスターは、満面の笑みを浮かべていた。
「でも、ほら! にぎやかで、ギルドっぽい!」
「騒がしさの方向を間違えてる……」
月は一度、手を止めて言った。
「……一応確認するけど、今回の花火は私に申請したよね?」
「もちろんっ!」
「珍しくまともだね」
「前回、封印されたからね……!」
そんなやり取りのあと、なんとなくの拍手が起きて、式は“終了”した。
「なんだったんだ、今日……」
カノンが薪を追加しながらぼやく。
「でもまあ、こういうのも……らしい、ってことで」
帝はまだ空を見上げていた。
「お姉ちゃん……オレ、生きてるのだ……」
「大丈夫、ちゃんと呼吸してるよ」
マスターが締めに叫ぶ。
「仮ギルド、仮に完成っ!」
その瞬間、クロマの撒いた花火が一つ、はじける。
ぼふっ。
小さな火花が夜空に咲いて、すぐに消えた。
月はハンマーを置いて、石窯の火を確かめた。
「……まあ、これくらいで済むなら、ありかな」
それは、ほんのわずかな温もりを夜に灯す、小さな再出発の印だった。




