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出撃! その名はグレート・マザラン

 サンフランシスコ市郡。アメリカ合衆国西海岸にあるカリフォルニア州の北部に位置する都市だ。

 都市の郊外にポツンと建てられた地味な倉庫に、黒服を着込んだ怪しげな集団が到着したのは、まだ夜も明けきっていない早朝のことだった。


 倉庫を守る鉄製の大扉には錆びついた南京錠が取り付けられていたが、黒服の一人がピストルでこれを破壊し、扉をこじ開けた。

 開け放たれた扉の中へ最初に入ったのは、エキゾチックな踊り子衣装と紺色のマントを身に着けた妖艶な女性、ハリマータだった。


 「これが研究所ですってぇ?」


 数名の部下を引き連れて倉庫に入ったハリマータは、中の埃っぽい空気に嫌気して鼻をつまんだ。


 「ただの古臭い倉庫じゃないの。あなたまさか、私たちを騙したんじゃないでしょうね?」


 ハリマータが振り向いた視線の先、黒服たちに両脇を抱えられてうなだれる、初老の男性の姿があった。


 ニコラ・テスラだ。


 「私たちにアメリカ大陸を横断させておいて、実は嘘でしたーなんて話だったら、ただじゃおかないわよ」


 「嘘ではない」


 テスラは目を閉じたまま小さな声で言った。


 「共振発生装置はここにある」


 「どーこにあるっていうのよ? えぇ?」


 テスラは目を開けて、自分を確保している黒服に顔を向けた。


 「この手を放せ」


 言われた黒服たちは、互いに顔を見合わせた後、ハリマータに指示を乞う視線を向けた。


 ハリマータはテスラを見下すように顔を上げて、フンと鼻を鳴らした。


 「放しておやりなさい」


 解放されたテスラは、ゆっくりと歩きだし、倉庫の奥へと進んでいった。やがて彼は中央付近で膝をつき、埃まみれの地面を手でまさぐり始めた。


 その様子をハリマータが訝しげな目で眺める。


 「む……」


 しばらくしてテスラは、地面を掴んでいた手に力を込めて、埃に隠されていたレバーをガゴンと引き上げた。


 重々しい機械音が倉庫に響く。その直後、倉庫の地面がぱっくりと割れて、隠し階段が現れた。


 「あらまぁ」


 驚いたハリマータが目を丸める。


 「さすがはニコラ・テスラ。なかなかイカした仕掛けじゃないの」


 行くわよ、と後方の黒服たちに促し、ハリマータは階段に向かった。


 階段を降りきると、広大な地下室が現れた。天井に備え付けられたいくつもの電球のおかげで、中は驚くほど明るい。


 これらの電球も、またそれを動かすための交流発電機も、テスラにとって作るのは容易いものだろう。


 「あれだ」


 テスラが示した部屋の奥に、赤黒い機械装置が屹立していた。円形の台座に柱状の器具が組みつけられたその装置の見た目は、さながら巨大なチェスの駒のようにも見えた。


 「まぁ! まぁまぁまぁまぁまぁ!」


 感極まったように身を震わせながら、ハリマータが装置に近づいていく。


 「これが地球すら破壊できるという共振発生装置……! ついに……! ついに手に入ったわぁ! オーッホッホッホッホ!」


 「待て!」 


 ハリマータが高笑いしながら装置に手を伸ばそうとしたのを、テスラの一喝が止めた。


 「あん? 何なのよ?」


 「迂闊に触るな、すでにエネルギー充電は完了しているはずだ。装置の台座に備わっている赤いスイッチを押せば、装置が作動してしまうぞ」


 これを聞いたハリマータは、ふふんとせせら笑った。


 「あらあら、本当かしら? ニコラ・テスラともあろう方が、そんな危険な状態で装置を保管しておくものかしらねぇ。安全装置くらい備えておくでしょう。大方、私たちの動きを封じるためのハッタリなんじゃないかしら?」


 「なら……試してみるか? この場にいる全員が死ぬことになるぞ」


 テスラとハリマータが無言で睨み合う。二人の視線は殺気を帯びて、火花を散らすかのように激しくぶつかり合っていた。


 「……フン」


 先に視線を切ったのはハリマータだった。


 「まぁいいわ。この装置は国に持ち帰ってから、じっくりと調べさせてもらうから。お前たち、装置を運び出しなさい。絶対に赤いスイッチには触れるんじゃないわよ」


 この指示を受けて、黒服の男たちが装置を取り囲んだ。


 ハリマータが冷笑を浮かべてテスラに顔を近づける。


 「もちろんあなたにもご同行願うわよ、ニコラ・テスラ? 装置についてもっと詳しい情報を聞かせてもらわなくちゃならないからねぇ」


 断る、とテスラは返そうとしたが、できなかった。ハリマータが彼の首筋に、素早く注射器を突き刺したからだ。謎の薬品を注射された彼は、全身を痙攣させながら、意識を失いばったりと倒れた。


 「あなたには国に戻るまで眠っててもらったほうが都合がいいの。さあお前たち、早いとこ装置を運び出すのよ。ニコラ・テスラの身柄も一緒にね」


 黒服たちは指示に従い、数人がかりで装置を地下室から運び出した。次々と倉庫から出て行く黒服に続き、ハリマータも外に出る。


 ところが。


 どうしたことか黒服連中は、倉庫の前で立ち止まったまま動こうとしないのだ。


 「何をしているの、あなたたちは? 早く撤収するわよ」


 ハリマータが声を掛けても、黒服たちは一様に前方の空を見上げて佇立したままだった。


 「聞いているの? もうこの国に用はないわ。さあ早く……」


 「あの、ハリマータ様」


 ハリマータの横に立っていた黒服が、目線を上に向けたまま声をかけてきた。


 「あれは……何でしょうか?」


 んん? と言いつつハリマータも空を見上げた。


 「……え?」


 何かが。


 空の彼方から何かが。


 こちらに向かって飛んでくる。


 その何かが迫ってくるにつれて、ハリマータの目がどんどん見開かれていった。


 「な……何……なの……あれは……」


 ショックを受けたハリマータが大口を開けて震えている。自分の目に映る光景を信じることができないのだ。だがそれも無理もないこと。


 読者の皆様も気をしっかり持って聞いていただきたい。


 1906年のアメリカの空に現れ、こちらに向かって飛んでくる謎の物体。


 それは。


 巨大ロボットだった。


 「ええええええええええええええええええっ!」


 ハリマータが絶叫するのも当然だ。1900年代のアメリカに、空飛ぶ巨大ロボットなんぞ存在しない。ていうか現代でも存在しない。


 さらに衝撃的だったのは、そのロボットの外見だ。


 赤く塗装された機体の腰の部分からは、燕尾服のような裾が伸びている。頭部は編み込まれたツインテールが後方に伸び、先端が螺旋状にカールしている。そしてその顔には、トレードマークの片眼鏡がしっかりと装着されていた。


 そう。


 そのロボットの外見は、マザランそっくりだったのである。


 「うわあああぁぁぁ!」


 マザラン型のロボットは、地面を揺るがしハリマータたちの目の前に着陸した。


 そして次の瞬間。


 ロボットのおっぱいの部分がぱかっと両側に開き、操縦座席に座ったユスタとベルサが姿を現した。


 「ふぅ、どうにか間に合ったみたいね」


 ユスタがハリマータたちを睨む。


 「あなたたちね、ニコラ・テスラさんを誘拐し、共振発生装置を強奪しようとした悪党どもは」


 「ななななな、何っ? 何なのよこれはっ!」


 「我々にもわかりません、ハリマータ様!」


 何が何だかまったく理解できないハリマータはパニックを起こしていた。取り巻きの黒服連中も同様だ。


 「ニューヨークのウォーデンクリフタワーで、テスラさんが残した資料を徹底的に調べて、この場所を割り出したのよ。そしてあなたたちに追いつくために、テスラさんの技術を利用させてもらったわ」


 「おっきぃの! 何かおっきぃのが! ドーンって! ドーンって!」


 ユスタの声が聞こえているのかどうなのか、ハリマータや黒服たちは右往左往と慌てるばかりだ。


 それに構わず、ユスタは説明を続ける。


 「電流戦争に勝利した後、テスラさんは様々な発明をしたわ。ラジオやテレビ開発の基礎にもなった、ワイヤレスで情報を送信できる無線トランスミッター。コンピューターやロボットに使われる、命令に対して必要な処理を行うオートマトン。ラジコンやミサイル技術にも使われるワイヤレスで物体を動かす無線操縦機などよ」


 「それでね、その技術を利用してね、マザランを改造したの」


 ユスタの逆側の胸部に座るベルサは、半円状の箱からレバーが二本伸びたリモコンを手にしていた。


 「そんで作ったのがこの巨大ロボット、グレート・マザランなんだよ。このリモコンで自由に操縦できるの」


 「ちなみにAI機能はさすがに完成されてないから、マザランの脳を各システムに直結して動かしているわ」


 悪魔の所業である。


 「よーし、いくよグレート・マザラン! 悪者たちをやっつけちゃえ!」


 ベルサが呼び掛けると、グレート・マザランの口部からノイズ混じりの音声が響いてきた。


 「……シテ……コロシテ……」


 「わかったよ、グレート・マザラン! ブラスト・バーニング・ファイヤーを使うんだね!」


 ベルサがリモコンのレバーをガチャガチャと弄る。


 「フルパワーだよ! いっけぇ! ブラスト・バーニング・ファイヤーッ!」


 「ジバクソウチガキドウシマシタ……60ビョウゴニジバクシマス……」


 「何か自爆しますゆーとるけど」


 ユスタが冷めた視線をベルサに送る。


 「そんな……まさか……暴走ッ?」


 ベルサが必死にレバーを動かすと、二本のレバーは根元からポキンと折れた。


 「グレート・マザラン信号拒絶! 制御できません!」


 「しょうがないわね」


 やれやれとばかりにユスタが首を振る。


 「アンリ!」


 「はーい」


 ユスタが呼ぶと、グレート・マザランの頭部の後ろから、アンリがひょっこり顔を出した。


 「現時刻をもってグレート・マザランを破棄! 第七プランを発動するわ!」


 「かしこまりましたぁ」


 アンリがぴょーんと頭部から飛び降りる。同時にユスタとベルサも操縦座席から脱出し、機体をつたってするすると地面まで降りてきた。


 「よいしょっと」


 着地したアンリが、グレート・マザランの脚部をがっちりと掴んで持ち上げた。


 「お許しください、枢機卿殿!」


 そして全身に力を込めて、グレート・マザランを思いっきりぶん投げる。


 「どっせええええええええい!」


 そして、数秒後。


 空中高く放り上げられたグレート・マザランは、機体から閃光を放ち、大爆発して空に散った。


 「さよなら……グレート・マザラン……! キミのことは忘れないよ……!」


 空を見上げながら、ベルサはグレート・マザランに思いを馳せた。グレート・マザランとの思い出の数々は、銀河を流れる星屑のように、ベルサの胸中で煌めいては消えていくのであった。


 「さてと」


 「ぽてと」


 同時に言いつつ、ユスタとベルサは、棒立ちしているハリマータたちの方に向き直った。


 「これからあなたたちは無双シリーズの雑魚キャラみたく、爽快感抜群にぶっ飛ばされるわけだけど、何か言い残したいことはある?」


 へ? とハリマータが目を丸める。


 「装置もテスラさんの身柄も返してもらうわよ」


 「カモン、アンリ!」


 ベルサが呼び掛けると、瞬間移動のように眼前に現れたアンリが大剣をジャキンと抜き放った。


 「お任せください」


 柔らかな笑みを浮かべたアンリの声が、ハリマータたちが最後に聞いたこの世の言葉であった。

スミマセン、ニコラ・テスラ編、四話で収まりませんでした……

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