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未来を創った男、ニコラ・テスラ

 「だからね、呪文が間違ってたのよ」


 そうキトラが言った。


 「あなたはタイムマシンを起動させるときに、呪文の途中『ナムアミダブツ』と唱えるべきところを『ナミアミダブツ』って言ったでしょ? 偶然だろうけど、これはタイムマシンを巡行回送モードにするときに使う呪文なの。それでタイムマシンはトポロジカルスペースを巡った後、スパルタの時代に戻ってきてくれたってわけ」


 ヒュウヒュウと風が吹き抜けていく。その風に揺れるロープを眺めながら、キトラは説明を続けた。


 「幸い私は脳震盪を起こしただけで済んだけど、タイムマシンを強奪だなんて、あなたがしたことは未来においては重罪よ。逆にあなたのことを置き去りにしてやろうかとも思ったけど、こちらの二人がね……」


 視線を送られて、キトラの横に立つユスタが咳払いをしてみせた。


 「不忠の家臣にお灸を据えてやるのが王の務めよ。バカ丸出しで踊り狂った挙句、タイムマシンから落っこちたあなたを探すのは手間だったけど」


 その隣でベルサもこくこくと頷いてみせる。


 「ヒャッホゥとかオウイェースとか言ってたよね。まさかタイムマシンにドラレコが搭載されてるとは思わなかったよ」


 三人の後ろで、アンリが眩しそうに空を仰ぐ。


 「それにしても、いい眺めですね」


 アンリの言葉通り、そこからの見晴らしは絶景だった。

 青空を駆ける海鳥の声が、潮風と共に耳に響いて心地よい。


 「ええ本当に、素晴らしいわ。さすがはアメリカ合衆国の象徴ね」


 そこは。


 自由の女神像の頭部展望台だった。


 自由の女神像は、アメリカ合衆国の独立百周年を記念して、フランスから送られた自由と民主主義の象徴だ。女神像がかぶっている冠には七つの突起があり、その突起の先端にロープが括り付けられている。


 そして。


 吊り下がったロープの先に、縛られたマザランが逆さ吊りにされていた。


 「ひょえぇぇぇぇ……! 降ろしてぇぇぇぇ……!」


 風でロープが揺れるたびに、マザランが情けない叫び声を漏らす。


 「頭にぃぃぃ……! 血が昇るぅぅぅ……!」


 そんなマザランを、ユスタたちは猫のようにくつろいだ顔で眺めていた。


 「これに懲りたら、もう裏切ろうとしちゃだめよ。ちゃんと反省したなら、ロープを切って楽にしてあげるわ」


 「待て待て待て、どういう意味で楽にするつもりだ!」


 マザランが悔し涙をにじませ、唇を嚙み締める。


 「チッキショ……! いっつもこんなんだよ私の人生はっ! せっかくこいつらを出し抜いて、天下を手に入れたと思ったのに……! タイムマシンから落っこちるし、海面に激突するし、ニコラ・テスラだの地球破壊装置だのわけわかんねー奴らのイザコザに巻き込まれるし、挙句の果てには自由の女神像のてっぺんから吊るされるし……! もう嫌! もう嫌こんな生活!」


 それを聞き、ユスタがピクリと眉を動かした。


 「ん? あなた今、ニコラ・テスラって言ったの?」


 「ああ、もうヤダ! 殺せ殺せ! さっさと殺せぇ! もうこんな人生やめて、異世界に転生してやるんだぁ!」


 「転生モノはもう下火よ。それよりさっさと答えなさい。どうしてあなたがニコラ・テスラを知っているの?」


 「うぅ……」


 ユスタに問い詰められたマザランが、これまでの経緯を説明する。


 話を聞いたユスタは、口元に指を添えて思考を巡らせていた。


 「ニコラ・テスラが作った、共振による地震発生機……」


 「地球を破壊できるだなんて、ありえないよね、お姉ちゃん?」


 ベルサの言葉に、ユスタは固い表情で首を横に振った。


 「いいえ、本当にあのニコラ・テスラが言ったのなら、絶対にありえないとも言い切れないわ」


 まっさかー、とベルサが軽い調子で言う。アンリもくすりと微笑した。


 「そのまさかを実現させるのが、ニコラ・テスラという人物なのよ」


 「そんなに凄い人なの? そのニコラ・テスラって人?」


 「ええ何しろ、あのエジソンのライバル……いいえ、エジソンを凌ぐほどの発明家だったんだもの。少々、彼について説明してあげるわね」


 そう切り出して、ユスタはニコラ・テスラについて解説を始めた。


 「ニコラ・テスラという人物を一言で言うならば、未来を創った男」


 「未来? どんな物作ったの?」


 「電球が発明され、一般家庭に普及される前のこの時代に、彼は現代でも使われる電気モーター、ラジコンやリモコン、ラジオの遠隔装置、テレビやパソコンに使われる無線装置、さらにはロボット技術やレーザー、ビーム兵器、レーダーやステルスの基礎まで作った人物よ」


 「未来人かな?」


 「そんなテスラは1856年、クロアチアのスミリャンという村で生まれるわ。子供の頃から神童と呼ばれるほどに頭脳明晰で、5歳のときにオリジナルの水車を発明したり、8ヶ国語を自在に話せたり、数学や科学はもちろん、音楽や詩作、哲学の才能もあったらしいわ」


 「……何でそんなに頭いいの?」


 「彼にはカメラアイという特殊な能力があったからよ」


 「カメラアイ?」


 「瞬間記憶能力よ。彼は一度何かを見れば写真で撮るように頭に保存ができたの。一度本を読めば丸暗記できたし。計算公式もすべて頭の中に保存され、これを応用して機械を見れば、頭の中で部品レベルまで分解ができたわ」


 「何それ! 超欲しいんですけど!」


 「そんな天才的な彼は、時代を大きく進める一つの発明をするわ」


 「何を発明したの?」


 「それは、交流電流よ」


 「交流電流?」


 「当時はエジソンが発明した直流電流が主流だったのだけど、この直流電流は遠くまで電気を送ることができず、数m間隔で発電所が必要だったの。それに対しテスラが発明した交流電流は、はるかに長い距離を送れて、直流に比べてパワーもあったの。これは現代でも使われる、まさに未来技術だったわ」


 「凄いじゃん!」


 「でもエジソンはこの交流電流を真っ向から否定したわ」


 「何でさ!」


 「エジソンは直流ビジネスに多額の投資をしていたし、何よりも自分より凄い物を発明された事実を恐れたのよ。こうしてテスラとエジソンの対立は決定的となり、のちに電流戦争と呼ばれる壮絶な戦いが始まるわ」


 「その戦い、どうなったの?」


 「テスラは、交流電流の凄さを示すために、ある驚くべきパフォーマンスを見せたわ。何とテスラは、100万ボルトの電流が火花を散らす中で、平然と本を読み続ける姿を見せつけたの」


 「ええー! 何で大丈夫なのさ!」


 「交流にはもう一つ驚くべき能力があるからよ。それは、変圧が簡単にできるということ」


 「変圧?」


 「簡単に言えばパワーの強弱よ。圧力を調整すれば直流よりも強いパワーを出せたし、逆に圧力をなくせば無害な電流すらも作れたの。この一度の実験でテスラは世論を味方につけたわ。そしてシカゴ万博の送電にテスラの交流が使われ、人類初となるナイアガラの滝の水力発電にも交流が使用されたことで、電流戦争はテスラの勝利で終わったのよ」


 「本当に頭のいい人だったんだね」


 「そう、だけどテスラの本領はここからよ。それからテスラは、人類の叡智をはるかに超えた、とてつもない発明品を生み出すことになるわ」


 「こっからまだ続くの?」


 「その一つが、地球を割るほどのエネルギーが出せる共振装置よ」


 「さっきマザランが言ってたやつ? それじゃまさか、本当に……?」


 ユスタが神妙な顔で腕を組む。


 「ニコラ・テスラが言うなら、その装置、本当に完成しているのかもしれないわ。そしてもしそれが悪の組織の手に渡ったとしたら事は重大よ。ひょっとしたら人類の危機……いいえ、地球そのものの危機かもしれないわ」


 「そんなの大変じゃん! 地球が危ないのにほっとけないよ! 私たちでテスラさんを助けにいこうよ!」


 「そうは言っても、相手がどこにいるのかわからないんじゃ助けようもないわ」


 「テスラさんは、その装置がサンフランシスコにあるって言ってたんだよね?」


 「うーん、サンフランシスコといっても広いし……何か手がかりがないと」


 そのときアンリがユスタの肩をつんつんと突いた。


 「あのぅ、枢機卿殿の目と鼻から血が流れだしましたよ?」


 「ごめん、今それどころじゃないわ」


 軽く流しつつ、ユスタは目を瞑ってひたすらに思考を巡らせた。


 「そもそも……どうしてニコラ・テスラはこのニューヨークにいたのかしら」


 「入浴したかったんじゃない?」


 「やかましい黙っとれ、今考えてるんだから」


 ブツブツとつぶやきながら、ユスタはその場を歩き回り始めた。


 「ニコラ・テスラ……ニューヨーク……そして今は1906年……」


 ぴたり、とユスタが歩みを止めた。


 「そうだ……! もしかしたら、あそこに手がかりがあるかも!」


 「あそこって?」


 ユスタは展望台から身を乗り出して、遠方を指差した。


 「アメリカ合衆国ニューヨーク州、ロングアイランドよ」

 




 「そういうわけで」


 ロングアイランドに存在する村、ショアハムの街道にて。


 ユスタはベルサと並んで歩きながら解説を続けていた。


 「テスラは無線操縦に利用されるワイヤレス技術の研究もしていたのだけれど、その研究の先に構想したのが、世界システムというものだったのよ」


 世界システム? とベルサが尋ねる。


 「無線送電システムとも呼ばれるこのシステムは、地球全体が常に帯びている電気を利用し、エネルギーを遠く離れた場所へ送るというシステムよ」


 「まったく理解ができないよ」


 「このシステムは現代でも研究されている物なのだけど、テスラはすでに自力でそれを作り上げていたの」


 「えええ!」


 「それが電流戦争にも使われた、テスラ・コイルよ。これは高周波・高電圧を発生させる共振変圧器で、テスラはこのコイルを使い、40㎞先までの200個の電球を電線を使わずに点灯させることに成功したの」


 「現代すらも超えてる……」


 そして、と言いユスタは足を止めた。


 眼前に、建物を土台に築かれた、鉄骨造りの塔がそびえたっていた。


 「その装置を巨大化させて作ったのが、このウォーデンクリフタワーよ」


 「はえー、すっごい大きな塔だね」


 「この塔が作られたのが、一年前の1905年だったはず。きっとテスラはこの塔を運用するためにニューヨークに駐在していたんだわ」


 「じゃあここが、ニューヨークでのテスラさんの拠点なんだ」


 「ええ、もしかしたら何か手がかりが掴めるかもしれないわ」


 とにかく中に入ってみましょう、と言い、ユスタは塔に向かって歩いていった。

【※読者の皆様へ】


いつも読んでくださってありがとうございます。


この作品を面白いと思っていただけたら。


↓の【☆☆☆☆☆】からポイント評価してくださると嬉しいです。


皆様から応援のお気持ちをいただけると、大変にありがたく励みになります。



そしてtwitterで宣伝してくださった方々、本当に本当にありがとうございます。

涙が出るほど嬉しいです。がんばります。

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