光差し込む朝の竜域
王城、市街地の復興は事のほか早く進み、一月が経つ頃にはすっかり元の活気を取り戻していた
「ふわー…よく寝た…今何時よ?」
「前刻の9時でございます」
「寝過ぎたなー…昨日ガキンチョ供と夜遅くまでバカやってたからなー」
「ははは…竜域は夜も活発でございますからね…ですが前代未聞でございますよ?何処の者とも知れぬ子供を竜王陛下自ら子守など…」
「別に良いだろ?悪い事する訳じゃないし、それに意外と可愛いもんだぞ」
「しかし…一体何処から忍び込んでるやら」
「それもそうだな〜…不思議ではある」
「今度問い詰める必要がありそうですね…」
「あんまりキツく言いすぎるなよ」
「御意、心得ております、朝餉は如何なされますか?」
「今日は良いかな〜、元から朝はあんまり食べない方なんだよね」
「そうなんですね、城にいらっしゃるうちは毎日朝餉をお摂りになってらっしゃいましたので…」
「前いた世界じゃそんな余裕無かったし、それに自分で作るのがかなり面倒でな」
「い、いくらなんでも面倒くさがりすぎでは…?」
「夜は日付け変わるまで仕事して帰ってくる頃には3時だぞ?そんな余裕は無いって」
「うわぁ………とても生物とは思えませんね…」
「まぁその結果風呂で溺死してここに召喚されたんだけどな」
「むー………感謝すべき…なんですかね?」
「するなするな!あれは人間を破滅へと誘う…言わば…」
「言わば?」
「牢獄…!!!」
「そんなですか!!」
「考えて見ろよ?安月給でこき使われるんだぞ?業界の哀しい性とは言え割に合わないっての」
「そ…それ大変でございましたね」
「それとウルズ呼んできてくれー」
「はい…?畏まりましたが何故に?」
「あいつ材料費ケチるのに黒曜石の中に大量生産の黒ガラス使ってやがった」
「簡単には見分け付かないはずなのに…何故それを?」
「大工のおっちゃんが「黒ガラスなんて使って…バレたら竜王陛下に殺されるぞ俺ら…全くウルズ様は…」とかボヤいててな、事情を聞いたら発覚した」
「とっ取りあえず呼んで参りますね!」
クリルがウルズに説教を垂れて居る、それを柔らかい朝の陽射しが包み込む、時折り聞こえる悲鳴とそれを嗜める声が交差し、その陽射しは活気あふれる竜域の市街をも包む、まだ陽の上り切らない城下には市の露店も並んでいるようだ
「ルシフェル、竜達はこのような生活様式なのだな」
「そうらしいな、ここは朝市?と言うらしいが主に食料物資等を取り引きする場らしいな、意外に食料にしても人間とさほど変わらん」
「ふふ、最初食事をした時ウリエルったら普段の凛々しい顔が台無しで」
「そうなのか…?ふむ…興味が湧いてきたな」
「やめろラファエル!!おい!こちらを凝視するなルシフェル!!」
「あら〜、怖い怖い〜♪」
「全くだ…常に冷静沈着で天使達を導いていた頃お前からは想像も付かないな」
「その頃はまだ神の道具…人形だったな」
「でも今は違うでしょ?意思を持ち、自分達で行動出来る、これも感情の持つ力なんでしょうかね」
「天界の者達は感情や意思を穢れと呼ぶだがそれは違う、穢れなどでは無かったようだがな」
「ええ、お陰で消滅の呪縛からも解き放たれて、こうしてお喋りできますし♪」
「だな…折角だ、3人で朝食でも摂らないか?」
「いいけど…どうします?」
「言っておくが…私は料理などと言う器用な真似は出来ないぞ?」
「王城の厨房を借りよう、昔…まだユダのコアになる前に人間の娘と食した料理を作ろうと思ってな」
「作り方は?分かるの?」
「ああ、彼女が簡単にだが説明してくれていた」
「ならそうしましょう♪幸いクリルさんから頂いたお金はまだ有りますし、材料を買って王城でみんなで作りますか♪」
「だな…だが…私は本当に…その、不器用なんだ、壊すのは慣れていても、こう言う料理となると話が…」
「ウリエル…人間とは失敗する物だ、失敗をして次の糧にすれば良い、失敗は恥ずべき物では無い、次の高みへと昇らせてくれる…失敗こそ誇るべき物だ」
「そうですよウリエル、ルシフェルも最初は力の使い方間違えて大変な事になりましたから♪」
「そうなのか…?」
「祝福の制御間違えてミカエルをこんがり焼いちゃって…それはそれはひどく説教されたみたいですよ、ぷぷ」
「あまり言ってくれるな…とにかく、行くのか?行かないのか?」
「ふふ…行くよ」
「ええ、私もです♪」
「上手く出来たらクリルにも届けてみるか?」
「悪く無いな、良いだろう」
「ですね〜」
ーーーーーー同時刻、ヘンゼルーーーーー
「ヘ、陛下〜〜!!」
「どうしたレシアいつも以上に取り乱して」
「竜域の竜王殿がペトロ、ヨハネ、ユダを完全に消滅させ、新たな戦力を手に入れたとの報告が!!」
「…なんの冗談だ…?」
「ほんとうですってばぁ!!実際に星降りの湖にあったヨハネの墳墓もペトロの墳墓も祝福が消えてるんですよ!!」
「なんと…我々の判断は正しかったようだな、元老院の老人達を集めろ!それとクリル殿と話がしたい、今後の情勢についてだ、聖軍を名乗る連合軍を始めとした世界各国に対しどう行動するか、そこが木になる」
「御意、では遣いの者を」
「ああ、頼んだぞレシア…それと」
「はい…?」
「今日の朝食は一緒に食べないか?」
「えぇ!?…しかし私等では…」
「良い、」
「え?」
「私はそなたと食事がしたいのだ」
「ふえぇえ!?!?そっそれって…もう……///」
「話したい事が山積みだ、内政に関してもだが竜域との交易もな」
「あ、はい」
「どうした?レシア落胆した顔で」
「いえ…なんでも…」
「ふむ…嫌なら別な者にー」
「いえいえいえいえいえ!!とんでもないです!!是非!喜んで!!」
「それならよかった…そなたの愛い顔が見れるだけで私は朝から幸せだな…っと、どうした?」
世界を襲う脅威が一つ減る、だがそれとは別な脅威が世界を震撼させる、使徒を完全消滅させる程の力を持つ竜域と竜王、
ある悪魔は
「クヒヒヒヒ…!僕の至高たるアビスの研究…その研究を完成付ける最後の素材…竜王!!君は…ボクのモノだぁああああ!!!」
又ある者は
「聖騎士すら容易に屠る竜王…我が同盟に付き従う愚王達は彼の者にどう対処するか…楽しみだのう、ソロモン」
「アタシはそんなヤツ興味無いわよ、アタシが興味あるのは竜域の下に眠る古代の記憶だけよ」