その43.更に広がるクライシス
「よ、よう。待たせちまったかな」
「おー! 勇者ナナハラよ、よくぞ参られたー! ささ、こちらへ、こちらへ」
学校の屋上。
俺は篠辺野に呼び出されてやってきた。
これから起こることを想像すると、胸が飛び出してきそうな程緊張する。
篠辺野だってほら、緊張しすぎて実際にあんなにも胸が飛び出している訳だし。
そんなことはどうでもいい。
俺は周りに誰もいないことをささっと確認すると、篠辺野に促されるがままに移動。
俺と篠辺野は建物を背に、2人並ぶような形になった。
黒波との対戦が終わると、俺の学校内での立ち位置は激変した。
周りの連中は手のひらをひっくり返し、こぞって俺を持ち上げ始めた。
黒波のやり方を良く思っていなかった連中も結構多かったみたいだ。
どうでもいいと思っていた連中も、あの体育館でのやり取りを見れば黒波の味方をしようだなんて思わないだろう。
そういった奴らが俺に押し寄せてきて『よく黒波を退治してくれた』『俺は七原のことを信じていた』『お前のチームに入りたい』『お前は勇者だ』。
本当に、都合のいい奴らだ。
その中に教師も混じっているのだから、情けない。
黒波が強くなり、権力を持ちすぎて、止めようにも止められない現状だったので仕方ないことなんだろうけれども。
でも、黒波がそこまで振り切った悪を演じてくれたお陰で、今や俺は学内でのヒーローだ。
正直言うと、もう早速顔も知らない女子から食事のお誘いがあった。
もちろん、そんな都合の良い奴のお誘いよりも優先すべきお誘いがあったので、丁重にお断りしておいたが。
黒波のことなんだが、黒波は驚くことにあの場で死ぬことはなかった。
あんなことがあってもピンピンして楽しそうな様子の蓮華から連絡をもらったが、今は家で引きこもっているという。
それは一部では噂になっており、黒波が不正してたんじゃないのかとか、立尾が黒幕だったとか、今はこの学校内ではそんな話で持ちきりになっている。
正直、俺には全く分からん。
戦っている時の黒波の様子を見るに、自分が死ぬことはないと、予め分かっているような様子だった。
何故あいつは死ななかったのか、何故あいつにはそれが分かっていたのか。
そして何故死なないのに、わざわざ人を集めて八百長試合をまでしてレベル上げなんてしたのか。
俺達には知る由もない。
色々噂はあるし、色々疑問はあるが俺が言えることはただ1つ。
死ななくて良かったじゃねぇか。
それだけだ。
黒波が不正の方法を知っているんだったら、聞き出せばいい。
それを元にエボルに対抗する突破口が開けてくるかもしれないのだから、悪い事実ではないと、俺は思う。
麻莉亜の方は無事だ。
あれ以降、以前と何ら変わりなくやれている。
迷いも晴れたようだ。
相変わらずミニマム姉妹には憎まれ口を叩くようなことはあるが、それが何だか安心した。
麻莉亜がミニマム姉妹に憎まれ口を叩くのも人間に嫉妬しているからだと思うと、何だかその憎まれ口も、憎まれ口を叩く麻莉亜も可愛く見えてきた。
ただ、あの日は大惨事だったけれどもな。
あいつら、三人で俺の入浴中に水着を付けて乱入してきやがったんだ。
俺の活躍と苦労を労う為にした、小春の提案らしい。
小夏は最後まで抵抗していたみたいだが、小春にも麻莉亜にも言いくるめられて、最後には渋々参加したようだ。
小春は『昔はこうして一緒に四人で入ったこともあったよね』とか呑気なことを言ってたが、俺はそれどころじゃなかったんだってホント。
麻莉亜は篠辺野には劣るとは言え十分でけぇし、小夏は小夏で貧相だけれども運動をやっているせいか生意気にもケツ周りがやたらとむっちりしてやがるし、小春は積極的に水着ながらもスキンシップを取ってくるし。
勝利の宴開始3秒後には俺も100パーセント充電された状態になったわ。
そんな状況だっていうのに四人で湯船に浸かるとか無茶苦茶なことをやったせいで、充電済みのフルパワーが小夏に当ってしまい、小夏が大激怒。
湯船から放り出されて殴る蹴るの暴行を受けている際に、俺のフルパワーが三人の面前に。
俺は何も……そう、何一つ悪くないのに、油性マジックで背中に『私は変態です』という文字を書かれた。
そして会話の流れの中で小春がぽつり。
『お兄ちゃん大きくなったね』だって。
やかましいわ。
会話の流れ的にそういう意味じゃないのはわかるけど、小春がそんなこと言ったら興奮して更に大きくなっちまうだろうが。
ミニマム姉妹は男の体ってもんをまるで理解してない。
女姉妹だから仕方ないことなのか。
あんなことされたら誰だって大きくなるわ。
それは変態じゃなくて正常。
健康な男の生理現象なんだ。
むしろ、2人にはそれほど魅力があると誇って欲しい。
どことなく勘違いしている2人にいい加減男の体の仕組みをちゃんと教えてやらないと、今後更に誤解を産んでいくことになる。
今度2人にしっかりとした性知識を学んでもらうよう、麻莉亜に教育を頼んでおこうと思う。
そういう訳で、俺は変態の文字を、文字通り背負いながら篠辺野と対面した。
俺はここに来る前に決めたんだ。
俺は……俺はここで篠辺野に告白して、正式に付き合おうと。
俺が篠辺野と付き合ったら、また麻莉亜があんな風になっちまわないか考えたが、それも大丈夫だろう。
麻莉亜が倒れた原因は、俺が篠辺野といちゃいちゃしていたことが直接的な原因ではない。
麻莉亜はそれを見て、自分もそうしたかったけれども出来なかった、自分がアンドロイドだからそれは許されないと思い悩んだことが原因なんだ。
別に俺がどうこうではなく、自分がそうなれないことへの思いから派生させた自己矛盾。
それも『一生俺と一緒にいよう』と俺が伝えたことで、麻莉亜も吹っ切れていたようだ。
……俺が篠辺野を麻莉亜の前に出した時に、麻莉亜がどういう態度を取るかは別問題だが、もう倒れるようなことはないだろう。
「黒波君のチームはほぼ解散状態みたい。久志川君は家に引きこもってるって」
「…………」
まぁ、あれだけの暴挙を働いても、黒波のゲームの力や『立尾』という名前でギリギリ持っていたような感じだったもんな。
クラスメイトの中で『俺黒波のチームにいたけれども、七原には感謝している』なんて俺に言ってきた奴がいたくらいだし、内部では結構不満がたまっていたんだろう。
黒波抜きでチームを立て直すことも難しいだろう。
久志川は責任逃れか。
あの野郎、最後まで自分に矛先が向かうのを怖がっていたからな。
黒波に続いて久志川まで引きこもっているなんて、俺と黒波一派、本当に立場が逆転しちまった。
そしてこれからは俺が黒波の代わりに、みんなを代表してエボルに立ち向かっていくことになるんだ。
「でも、七原くんはこれでもう学校のヒーローだね」
「そんなことはねぇよ。これも篠辺野のお陰じゃねぇか」
「わ、私!? 何で何で!? 私はむしろ足引っ張っちゃったし、本当に……」
「いいや、そんなことはないんだ」
篠辺野がいたからこそ、俺もゲームを頑張ろうと思えたし、黒波を倒してエボルも倒そうと目標を掲げることができた。
また、麻莉亜が倒れた時に麻莉亜の気持ちが察せたのも、篠辺野の描いた漫画のお陰だ。
篠辺野の描いた漫画は、ほぼほぼ麻莉亜の胸中を言い当てていたというところを見ると、本当に篠辺野には漫画を書く才能があるんだと思う。
「私の周りも、七原くんカッコイイって言ってる人が多かったよ……。現金なもんだよね」
「マジか!?」
「む~……」
俺が少し嬉しそうな顔をすると、篠辺野は頬を膨らませて俺のことを見てきた。
くっそ可愛い。
「はぁ~あ、七原くんの株が一気に上がっちまいまして、私は嬉しい半面複雑っすよ~」
「そのことなんだけどな、篠辺野」
俺は顔を引き締めて篠辺野と正面向き合った。
「ちょっと待って! 話があるの、私の方から。いいかな……?」
「……いいけど……」
せっかく意を決したのに、何だか水をさされてしまった気がする。
仕方なく俺は篠辺野に話を譲った。
「えへへ……その前に……えいっ!」
「!!!」
心の準備をする暇もないまま、篠辺野が俺の頬に口を付けてきた。
篠辺野は恥ずかしそうにすぐに俺から離れたが、その柔らかくも甘い感触が俺の頬に残る。
俺がその出来事にぼ~っとしていると、不意に近くからガタッという音が聞こえてきた。
誰かに見られたんじゃないかと慌てて辺りを見渡したが、誰もいる様子はない……が……。
「……これは……その、ご褒美でありますよ。私も、ちゃんと用意してましたので……。ど、どうだったでございましょうか……? ご褒美……」
「…………」
脳みそが溶けました。
とは言えるはずもなく、顔を真っ赤にしてもじもじしている篠辺野に対し、俺はグッと親指を立てて返事を返した。
するとそのまま篠辺野は嬉しそうに笑い、意を決したかのようにシャキッと姿勢を正す。
「私ね、七原くんのことが好き! 最初はね、本当にたまたま学園祭の準備をしている時に、作業を手伝わせちゃって申し訳ないなって思ったから色々話を繋げてただけなんだけれども……。でも、その中で漫画の話をした中で七原くんの口から漫画が好きって言葉が出てた時、私、本当に嬉しかった。今まで誰にも漫画のことなんて話してなかったから、話せる人がいたと知れて、本当に嬉しかったの。七原くんと漫画の話をしているのが本当に楽しくて、七原くんも私も、本当に漫画が好きなんだって思ってた。でもね、私ね、七原くんの色んなことに触れて、段々漫画よりも七原くんのことが好きになていくのが分かったの。漫画の話じゃなくてもいい、また明日七原くんと会って話したいって、そう思うようになってきたの。だから……私は七原くんのことが好き! 大好き! だからどうか……どうか、私と付き合わないで下さい!!」
「篠辺野……俺も……俺も篠辺野のことが……え?」
俺はその篠辺野の告白を聞くやいなや、ギュッと篠辺野を抱きしめた。
そしてその告白に返事を返してやろうとすると、酷い違和感に襲われた。
「はい、話おしまい! それじゃあ、またね! また明日ね~!」
「え、ちょっと……え!? ちょっと待ってくれよ!! 俺の話は!?」
「あーあーあー。聞こえない聞こえない」
篠辺野はそう言って俺の背中を押し、俺を屋上の出口に追いやろうとする。
「待て待て待て! おかしいだろ!! 俺の話を聞けって!!」
「七原師匠は変態さんだもんね。背中にも描いてあるよ?」
「え!? えぇ!? ちょっと待って、何で篠辺野がそれを――――」
バタン。
ドンドン!!
「おい! 篠辺野!! 話を聞いてくれ!! 篠辺野!!」
「しつこい! しつこい人は嫌いだよ?」
ドアの向こうからそんな声が聞こえてくる。
こんなの納得できない話あるか!?
え、俺フラれたの!?
え、何で俺フラれたの!?
好きだから!?
全然意味分かんない!!
変態だから!?
俺が変態だからか!?
篠辺野だって変態じゃねぇかド畜生!!
どうなってんだこれ!!
どうなってんだ世の中!!?
俺は泣きながら駈け出した。
こんな不条理な世の中は嫌だ。
こんな世の中は一刻も早く変えてやるんだ。
エボルを倒して、一刻も早く正常な世の中にしてやろうと、心に誓いながら走りだした。
俺は今回の件でひっくり返った1つの盤面の上を、涙を拭ってひたすら突っ走る。
黒波が生きているという事実と、あいつが最後に俺に向けて放った『必ず殺してやる』という言葉を心の隅に眠らせて。
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「よし……行ったかな」
篠辺野は海人がドアの向こう側からいなくなったことを確認すると、ゆっくりとさっき海人と話した場所に戻っていった。
そこにはさっきまではいなかった三人の姿があった。
小夏、小春、麻莉亜。
「よし、勝負はここからっすよ!?」
「何の勝負よ……」
小夏は呆れているが、小春はグッと拳を握って気合を入れていた。
「何か横取りしているみたいで……。ごめんね、九条さん、小春ちゃん」
「私には何もないのですか?」
「お姉さんは……一応事の端末を知っておいて欲しかったからっす」
「そうですか。小夏さん、この方を引っ叩いても宜しいですか?」
「なんでー!!?」
「よしときなさい。あのね、この子はどうか知らないけど、私はそんなの全然興味ないから。やるなら麻莉亜と、小春とやって頂戴」
そう言って小夏は馬鹿らしそうにその場を去っていこうとするが、篠辺野はそんな小夏の手をパシッと掴んだ。
「待って九条さん。恋は魔法って言葉、知ってる?」
「はぁ?」
「私ね、七原くんが本当は誰のことが好きなのか、誰と一緒にいたいのか、知りたいんだ。それなのに場に流されてしまって成り行きに任せちゃったら、それは真実の愛じゃないと思うんだよ。七原くんも絶対後悔すると思う。私、七原くんに後悔なんて絶対して欲しくない」
「えぇ~……」
「今や七原くんは学校のヒーロー。色んな誘惑があると思うんだ。でも、その誘惑をかいくぐって傍にいれた人こそ、七原くんの選んだ人だと、私は思う」
「意味が分からない」
「七原くんはね、よく九条さんや小春ちゃん、お姉さんのことを話すんだ。とっても大切に思ってるっていうのが分かる。私も今の盛り上がった一時じゃなくて、七原くんに常に話題に出してもらえるような人になりたいの」
「……デート中に他の女の名前出すとか、ほんと呆れて物が言えない。なればいいじゃない。私は関係ないから」
そう言って小夏は篠辺野の腕を振りほどこうとするが、篠辺野はそれを離さなかった。
「お願い! 私に協力すると思って! 私、九条さんに憧れているし、九条さんみたいになりたい。それでいて、九条さんに勝ちたいの」
「…………」
あらゆる全てのものが篠辺野より劣っていると思っていた小夏は、篠辺野の言ってることがサッパリ理解できなかった。
それでもそんな相手に「自分に憧れている」なんて言われて、小夏は少し気を良くしてしまった。
「……何? あなた、私にどうして欲しいの?」
「ぜひ友達に! 一緒に買物したり、食事したり、映画見たり!」
「あなたね、今世の中がどうなっているのか――」
「こういう世の中だからこそだよー! 一緒に切磋琢磨していける人が居るほうがいいじゃない? ね!?」
「…………」
よく篠辺野の気持ちが理解できなかったが、小夏は仕方なくその手を取った。
すると篠辺野はにこっと笑ってこう伝える。
勝負だよ、と――――。
小夏は篠辺野と少しでも心を通わせることが出来たのが嬉しかった反面、少し複雑な思いを胸に抱いていた。
最近学校の様子は、前よりも明るくなった。
エボル出現前までとはいかないが、教師が仕切り、生徒がそれを守る。
そういった秩序が戻ってきていた。
それは自分の幼馴染と、その姉が必死に戦って勝ち取ったものだ。
幼馴染は自分の居場所を取り戻した。
周りの人からちやほやされるようになった。
小夏はそれを嬉しく思ったと同時に、自分の幼馴染への思いからか、おかしな不安を感じてしまった。
それは、篠辺野に勝負だと言われた時と同じ不安だった。
そんな思いを内に秘めながら、小夏はこれからも立ち向かう。
世間を恨み、エボル出現以降誰にも頼ろうとしなかった小夏が。
どんどんたくましくなっていく幼馴染と一緒に。
憎まれ口ばかりで馬は合わなかったが、心では理解し合えた幼馴染の姉と一緒に。
また、自分を憧れていると言い放ち、ライバルを宣言してきた尊敬すべき友人と一緒に。
更に続くこのクライシスへと。
二章 海人、恋をする ―― 完 ――
【NEXT】
→ 未定
色々と迷走してるんで、未定とさせて下さい。
決まり次第ここに書いておきます。
詳細は活動報告にちらっと書いておきますので、よろしかったらどぞ。
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