三、
実習の行われる地下室。そこにある坑道に入り、歩くこと数分。
『……班長、後方から来るぞ。数、三』
『了解。確認の後、戦闘に入る。仮に今回の対象でなかった場合も全力で当たれ』
「……了解。」
勇樹が班長に対し、後ろから近づいてくる存在を報告し、指示を仰いだ。
班長から指示を受けた勇樹は、すぐ隣を歩いていた生徒に声をかけ、援護を頼んだ。
それから間もなく、勇樹と援護に入った生徒は尾行していたあやかしに対し、戦闘を仕掛けた。
勇樹と男子が立ち止ったことを知るや否や、あやかしはその手に持っている鋭い爪を振りかざし、二人に襲いかかった。
その爪を男子は抜き放った剣で受け流し、斬り返した。切り裂かれた死体は、屍鬼のものだった。獣臭いにおいと、さびた鉄のようなにおいが当たりに充満する。
勇樹はその不快なにおいを気にすることなく、両掌を合わせ、何かをぶつぶつと呟いている。そのつぶやきに呼応するかのように、勇樹の足もとから、魔法陣を描いた光が現れ、ゆっくりと回転を始めた。
魔法陣は徐々にその回転を早めめ、光の陽炎が魔法陣の円周から立ち上る。それと同時に、勇樹は声高らかに最後の詠唱を行う。
「我が呼び声に応え、顕現せよ」
――風の主、シルフ!
勇樹の呼び声に応えるかのように、魔法陣が強い光を放った。光が止まると、勇樹と勇樹の隣を飛ぶ光の球が現れた。
「シルフ、力を貸してくれ」
シルフ、と呼ばれた光の球は勇樹の呼びかけに応え、徐々に輪郭を持ち、人型へと形状を変化させた。尖った耳と背に生えた半透明の羽根を有していることから、人間ではないことは一目瞭然だ。
シルフと呼ばれたそれは、少女のような声で勇樹に声をかけた。
「やっとわたしの出番ね、勇樹」
「はいはい、抱きつくのは構わないけど仕事してからにしてくれ」
勇樹の言葉に、はいはい、と元気よく返事をし、目を閉じ、祈り始めた。すると、彼女の体は光の渦へと姿を変え、勇樹の身に付けている手甲に向かって流れていく。光の渦がやみ、シルフの姿が消えると、手甲が緑色の淡い光をまとった。
「下がってくれ!」
勇樹は前線に出ていた男子に声をかけ、右手でこぶしを作り、雄叫びと共に突き出した。すると、およそ人間が無し得るはずのない現象が起きた。拳から竜巻が放たれ、襲いかかって来ていた小型の屍鬼を巻き込み、吹き飛ばしたのだ。
「風渦拳、と名付けるべきかな……」
自分の放った技の惨状を見て、勇樹はぽつりとつぶやいた。
壁には、先ほどの竜巻に巻き込まれ、坑道の壁に叩きつけられた屍鬼の遺体がこびりついていた。




