六、
召喚士の生徒たちは職員室に入り、召喚士の教官がいるかを確認し、教官の机に近づき、今自分たちが気になっている召喚速度の遅れと、召喚ができなくなってしまったことを話した。が、どうやら、教官はそのことを知らなかったらしい。
初耳だと言わんばかりの表情をしている。
「そうか……どうりで最近、精霊が答えてくれないわけだ……」
こちらの方で調べてみるから、お前たちは授業に戻りなさい。
教官はそう指示を出し、そのまま、いそいそとその場から立ち去った。
その様子を後ろから見つめる生徒の目は、安心感よりも不安感の方が強く写っていた。
その日の深夜。
勇樹たちは実習の場として開放されている森にいた。隣には浮かない顔の桜がいる。どうやら、昼の行動にはあまり成果がなかったようだ。
しかし、勇樹はそれについて追及することは無かった。
「桜、今は目の前のことに集中しろ……死ぬぞ」
「……うん……わかってる」
桜は勇樹がわざと厳しく言っているということが理解していたから、特になにも反論することなく、うなずいた。本当は、勇樹もいま起きていることに困惑している。だが、今慌てふためいても、何もならないことがわかっている。
だからこそ、目の前のことに集中するべきだということを、勇樹は理解していた。
桜は両の頬を自分の手でたたき、気合を入れ直し、目の前の森を見た。
「さてと、行こうぜ。俺たちも」
桜の調子が戻ったことを察した耕介は、勇樹たちに言葉をかけ、一足先に森に入っていった。その後ろをリーネと勇樹が追いかけ、桜もそれに続いた。
森に入ると、虫の声一つしない静寂に包まれ、かえってそれが森に入った多くの生徒たちに恐怖心を植え付けた。むろん、リーネや桜だけではなく、耕介も少なからずこの状況に恐怖心を抱いている。だが、勇樹はいつもと変わらない様子で、平然と森の中を歩いていた。いや、正確には暗闇に恐怖していない、といったところだろう。足取りそのものは、周囲に自分の居場所を伝えないよう、慎重に足音を消している。
勇樹にとって暗闇と静寂は怖いものではない、むしろ、傍らにあってしかるべきものなのだ。それは、宮に所属する多くの術者が認識していることであり、受け入れていることだ。だが、視力の発達した人間は「見えない」という状況に恐怖心を抱く。それゆえ、暗闇に恐怖するのだ。
だが、勇樹の場合、たとえ暗闇でも周りの状況が見えている――正確には「感じられている」のだが――ためなのか、動揺している様子がまったく見られない。
「勇樹……お前、怖くないのかよ?」
「怖いことには怖いがな。風が周りを見せてくれているから、それほど怖くは無い」
お前は怖いのか、と勇樹は話しかけてきた耕介に問いかける。
耕介はその問いに対して、最初のうちは否定的な言葉で返したが、観念したかのように、本当はびびっている、と情けない声で答えた。
その様子を勇樹は微笑ましく感じ、思わずくすりと笑ってしまった。




