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五つ目の星が灯らなくても ~最高位になれなかった侯爵令嬢が自分の人生を選ぶまで~  作者: 水瀬める


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挿絵(By みてみん)











十五歳の春。


エレナ・ルーヴェルは、《第四星位・セレスティア》を授かった。


白い祭壇の上に、一つ目の光が浮かぶ。


誰も声を上げない。


二つ。


三つ。


そこで、大聖堂の空気が変わった。


そして――四つ目。


淡い銀白色の光が先の三つと並んだ瞬間、どこかで小さな歓声が上がった。


エレナは息を止める。


四つ。


女神像の前に、四つの星が浮かんでいる。


老神官が微笑んだ。


「エレナ・ルーヴェル。女神はあなたに、《第四星位・セレスティア》を示されました」


エレナは教えられた通り、ドレスの裾を摘んで頭を下げた。


「女神の導きに、感謝いたします」


声が震えなかったことに、少しだけほっとした。


祭壇を降りると、母がすぐに手を取った。


「エレナ。《第四星位・セレスティア》よ」


普段は人前で感情を見せない母の頬が、うっすらと紅潮している。


父も満足そうに頷いた。


「よくやった」


星授けは、試験ではない。


勉強したから星が増えるわけでも、礼儀正しく育ったから高い星位を与えられるわけでもない。


それでも、


「ありがとうございます、お父様」


エレナは嬉しかった。


とても。




この国では、十五歳になる春、すべての者が一度だけ《星授けの儀》を受ける。


《第一星位・アルバ》。


《第二星位・ルクス》。


《第三星位・アステル》。


《第四星位・セレスティア》。


そして最上位の、《第五星位・エンピレオン》。


神殿は、星位は人の価値ではないと言う。


魂に宿る資質と、その広がりを女神が示したものにすぎない、と。


もちろん、誰も表立ってそれを否定はしない。


けれど、《第一星位・アルバ》と《第五星位・エンピレオン》を、本当に同じように見る者がどれほどいるだろう。


少なくとも、エレナの暮らす貴族社会では違った。


星位は婚姻にも進路にも評判にも、少なからず影響する。


《第三星位・アステル》なら優秀。


《第四星位・セレスティア》なら、将来を嘱望される。


《第五星位・エンピレオン》ともなれば、その名が王国中に知られることさえある。


だからエレナは、素直に喜んだ。


四つもある。


自分の中には、自分さえまだ知らない何かがある。


きっと、いろいろなことができる。


そう思った。




儀を終えると、神官から銀の《星章》が渡された。


小さな四つの星が刻まれている。


公式行事では身につけることになるが、普段から着用する必要はない。


エレナが星章を胸元へしまったころ、同じ日に儀を受けたリリア・ベルモント子爵令嬢は、《第二星位・ルクス》を授かっていた。


エレナと同い年の、栗色の髪をした少女だった。


リリアは母親に肩を抱かれ、泣いていた。


「リリア、泣かないの。星位があなたのすべてではないでしょう」


周囲の令嬢たちも、優しく声をかける。


「そうよ。星だけがすべてではありませんもの」


「あなたには、あなたの良いところがあるわ」


「きっと素敵なご縁だってありますわ」


どれも善意だった。


エレナも、胸元にしまった自分の星章へ触れながら思った。


お気の毒に。


悪意など、少しもなかった。


ただ、自分が《第二星位・ルクス》だったなら、きっと悲しかっただろうと思ったから。




大聖堂を出ると、王都では春祭りが始まっていた。


広場には色布が渡され、硝子細工の露店が陽の光を弾いている。


甘い蜂蜜の匂い。


旅芸人を囲む歓声。


見たことのない果物を山と積んだ屋台。


エレナは馬車へ向かいかけて、足を止めた。


見てみたい。


「エレナ?」


母が振り返る。


「あ……いいえ。何でもありませんわ」


今日は屋敷で祝いの客が待っている。


春祭りなら、来年もある。


「参りましょう、お母様」


馬車へ乗り込む。


窓の外で、祭りの色鮮やかな飾りが少しずつ遠ざかっていった。


――来年、行けばいい。


そう思った。


エレナは胸元から星章を取り出し、四つの小さな星を何度も指先でなぞる。


四つもある。


今日のエレナには、それだけで十分だった。





それから三年。


エレナ・ルーヴェルは、皆が期待した通りの令嬢となった。




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