第七話
前の話少し編集してます!
そして、待ちに待った校外学習の当日。
学校の駐車場には、大型バスが何台も並んでいた。
いつもとは違う、動きやすい私服やジャージ姿のクラスメイトたち。
朝からお祭りのような空気が漂っている。
「柚ちゃん、おはよー!」
リュックを背負った花音が小走りでやってきた。
その後ろから、黒瀬さんも控えめに手を振ってくれる。
「おはよう!今日、すっごくいい天気でよかったね」
「ほんと!絶好のカレー日和だね」
そんな会話をしていると、担任の先生の声が響いた。
「一組、そろそろバスに乗り込みますよー!班ごとにまとまって座ってください」
その合図で、私たちは指定された一号車へと向かった。
バスの入り口近くで、青木くんが手を挙げている。
「おーい、三班ここ!」
その横には、佐伯くんと白石くんの姿があった。
制服じゃない白石くんを見るのは、今日が初めてだ。
シンプルな白のカットソーに、少しゆったりしたネイビーのシャツを羽織り、細身のパンツを合わせているだけ。
特別に着飾っているわけじゃないのに、背が高くて手足が長いからか、まるで雑誌のモデルみたいに服が様になっている。
いわゆる『素材がいい』というやつだ。
思わず、少しだけ目を奪われてしまった。
「おはよー!席、どうする?」
私が聞くと、青木くんが思いついたように提案した。
「せっかくだし、グッチョッパーでペア決めようぜ!」
「いいね!やろうやろう」
花音がすぐに賛成する。
佐伯くんも「いいよ」と頷き、黒瀬さんと白石くんも特に反対はしなかった。
「じゃあ俺が掛け声するわ。いくぞー」
青木くんが手を前に出す。
「グッチョッパーで、分かれましょ!」
一回目はバラバラ。
「もう一回!グッチョッパーで、分かれましょ!」
ようやく、綺麗に二人ずつに分かれた。
チョキを出したのは、花音と青木くん。
パーを出したのは、白石くんと佐伯くん。
そして、グーを出したのは。
私と、黒瀬さんだった。
「えー!なんで私、青木くんと同じなのー!」
花音が笑いながら文句を言う。
「俺のセリフだわ!仲良くしろよな!」
青木くんもすぐに言い返して笑いが起きる。
私は隣にいる黒瀬さんを見て、ぱっと顔をほころばせた。
「黒瀬さん、よろしくね!一緒に座ろ!」
「ふふ、うん。よろしくね、早川さん」
黒瀬さんが嬉しそうに微笑んでくれた。
私たちはバスの後ろの方の席へ向かった。
私と黒瀬さんが窓側の席に並んで座る。
前の席には花音と青木くん。
そして通路を挟んだ隣の席に、白石くんと佐伯くんが座った。
「よし、全員揃ったな!」
青木くんの声と同時に、バスのドアが閉まる。
ゆっくりと車体が動き出し、窓の外の景色が後ろへと流れていく。
「さっそくなんだけどさ」
青木くんが前の座席からひょっこりと顔を出した。
「一時間くらいあるし、トランプやらね?」
「やるやる!持ってきたよ!」
花音がリュックから自前のトランプを取り出す。
「俺、お菓子開けるわ。グミ食う人ー?」
佐伯くんも通路越しに楽しそうに袋を開け始めた。
「あ、私もポテトチップスあるよ!黒瀬さんも食べる?」
「ありがとう、いただくね。私、クッキー焼いてきたんだけど……みんな食べる?」
「えっ!黒瀬さん手作り!?絶対食べる!」
私が大声を出すと、前の席から青木くんたちも「マジで!?」「すげー!」と身を乗り出してきた。
通路を挟んだ隣の席を見ると、窓際に座る白石くんも、私たちの騒ぎっぷりを見て少しだけ呆れたように、でも微かに口角を上げて笑っていた。
*
バスに揺られて三十分ほど経つと、さっきまでの喧騒が嘘のように車内は静かになった。
はしゃぎ疲れたのか、前の席では花音が窓に頭を預けてすやすやと眠っている。
隣の青木くんも、腕を組んだまま完全に夢の中だ。
通路を挟んだ隣の席を見ると、佐伯くんも船を漕ぐように首を揺らしている。
その横で、窓側に座る白石くんも静かに目を閉じていた。
(寝顔、綺麗だな……)
乗る前に「素材がいい」と思ったけれど、黙って目を閉じていると、長いまつ毛や通った鼻筋が余計に際立って見える。
別に変な意味じゃなくて、ただの純粋な感心だ。
ぼんやりとそんなことを考えながら横顔を眺めていると、不意に隣から静かな声が降ってきた。
「早川さん」
「ひゃっ!?」
変な声が出て、慌てて振り返る。
隣に座る黒瀬さんが、くすくすと上品に笑っていた。
「彼のこと、気になるの?」
「えっ!? い、いやいや! 全然そんなんじゃないよ! ただ、寝てるなーって思っただけで……!」
顔が熱くなるのを感じながら首を振る私を見て、黒瀬さんはどこか見透かしたような、不思議な笑みを浮かべる。
「ふふ、そう?」
黒瀬さんは少しだけ声を落とし、落ち着いたトーンで言った。
「でも、彼を狙うなら大変ね」
「え……?」
「彼、すごいモテるから」
黒瀬さんの口から出た意外な言葉に、私は思わず瞬きをした。
「黒瀬さん、なんでそんなこと……」
「実はね」
黒瀬さんは人差し指をそっと自分の唇に当てて、ナイショ話をするように少しだけ顔を近づけた。
「私と白石くん、中学が同じだったの」
「えっ!」
思わず大きな声が出そうになって、慌てて自分の口を両手で塞ぐ。
「中学、一緒だったんだ……?」
「うん。……まあ、学校ではそんなに話す機会もなかったんだけどね」
黒瀬さんは手元のクッキーの包みをそっと撫でながら、ふふっと笑う。
「でも、白石くんのことは女子ならみんな知ってたわ。他校にファンクラブがあったって噂が出るくらいには、目立ってたから」
「ふ、ふぁんくらぶ……」
私はもう一度、通路の向こうで眠っている白石くんをちらりと見た。
確かにかっこいいし、背も高い。
でも、あの無愛想な彼にファンクラブなんて、なんだか想像がつかない。
(やっぱり、ちょっと住む世界が違う人なのかな……)
私が少しだけ圧倒されていると、黒瀬さんは「だから」と悪戯っぽく微笑んだ。
「あの白石くんと同じ班になれたなんて、他の女子からしたらすごく羨ましいことみたいよ」
「ええっ、そ、そうなの……?」
「うん。だから今日はせっかくだし、みんなで楽しもうね」
黒瀬さんはそう言って、窓の外へと視線を戻した。
その時、眠っている白石くんに向けられた彼女の横顔が、一瞬だけ昔からの彼を知っているような、とても自然で親しげなものだったことに、私はまだ気付いていなかった。




