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あの日の恋に、名前をつけるなら  作者: 衣乃


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プロローグ

駅前の大型ビジョンに、その顔が映し出された瞬間だった。


行き交う人々が、波が引くように足を止める。


改札を抜けるサラリーマンも、買い物袋を提げた主婦も、楽しそうに笑い合っていた女子高生たちのグループも。誰もが吸い寄せられるように、一斉に同じ方向を見上げた。


そこに映っているのは、白石柊。


この国の誰もが知る顔。


彼が微笑めば街が華やぎ、彼が眉をひそめれば国中が心配する。


今、日本で最も多くの視線を集め、最も多くの夢を背負っている男。


「……あ、柊くんだ!」


誰かの小さな声がきっかけとなって、周囲に感嘆の溜息が漏れる。


ビジョンの中の彼は、完璧なライティングと洗練された衣装に包まれ、まるでこの世のものとは思えないほど神々しく輝いていた。


雑誌の表紙を飾れば即座に完売し、ドラマに出演すれば街から人が消えると言われる。


コンビニに並ぶ飲料の広告も、電車の車内広告も、SNSのトレンドワードも――世界はまるで、彼の中心で回っているかのようだった。


私たちが生きているこの騒がしい日常の中で、彼だけが、数光年先にある星のように遠くて眩しい。


けれど、誰もが彼を「自分のもの」のように愛している。テレビ越しに、スクリーンの向こう側に、彼という絶対的な光を求めているのだ。


群衆の中に立って、私もまた、その光を見上げる。


改めて思う。


白石柊は、もはや「俳優」という枠を超えた、ひとつの現象だ。


誰もが彼に憧れ、誰もが彼を語り、誰もが彼の次の一挙手一投足に心拍数を上げている。


この圧倒的な熱狂の中にいて、彼自身は何を思っているのだろう。


これほど多くの人々に愛されること。


これほど多くの人々の中心に立つこと。


きっと、想像もつかないような絶景の中にいるに違いない。


彼が選んだその場所は、かつて私たちがいた場所とは、あまりにもかけ離れた「頂点」だ。


信号が変わり、人波が再び動き出す。


画面の中の彼が、涼しげな瞳でこちらを振り返るような気がして、私は少しだけ微笑んだ。


こんなにも遠くて、こんなにも眩しい人。



国民的なスーパースター。


世界を熱狂させる、最高のエンターテイナー。


これは、そんな遠い空の上にいる彼と、またどこかで交差してしまった――そんな、ちょっと不思議な私たちの再会の物語。


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