第16話 生徒会(5)
生徒会が動き始めてから、
数日が過ぎた。
エリオスは、
意識して距離を取っていた。
理由は単純だった。
面接の日。
灰色の髪の少女を見た瞬間、
自分の思考が一瞬止まった。
あんな反応は、
今まで一度もない。
理由が分からない。
分からないものには、
近づかない。
それが一番安全だ。
必要以上に関わらない。
会話は最低限。
業務上の指示だけ。
それで十分だ。
そう判断していた。
ただ――
ここ数日、
遠くから見ていて分かったことがある。
生徒会の仕事をしていれば、
自然と視界に入る。
長机の向こう側。
会議中。
書類整理。
行事の打ち合わせ。
意識して見るわけではない。
それでも、
気づけば視界の端にいる。
リリアナ・クラリス・バルディエ。
灰色の髪。
淡い瞳。
そして――
ほとんど笑わない。
感情の上下が見えない。
怒りも。
焦りも。
戸惑いも。
表情に出ない。
静かな顔のまま、
仕事を処理していく。
だが。
決して冷たいわけではなかった。
困っている者がいれば、
自然に手を差し出す。
説明は簡潔。
余計な言葉はない。
相手の手を止めない。
それでいて、
自分が前に出ることもない。
目立たない形で、
場を整える。
エリオスは、
ある時ふと気づいた。
生徒会の空気が、
少し変わっている。
最初の頃。
生徒会の中でも、
リリアナには
わずかな距離があった。
灰色の髪。
珍しい色だ。
貴族社会では、
そういう外見は
時に奇異の目を向けられる。
だが。
それは長く続かなかった。
理由は単純だ。
仕事ができる。
それだけで、
人の評価は変わる。
気づけば、
自然と頼られている。
二年生の役員が
書類を持ってくる。
「これ、合わないんだけど、
ちょっと見てくれないか」
リリアナは
一瞬だけ目を落とす。
「この数字、違います」
すぐに指摘する。
「ここは前年度の統計です」
言葉は短い。
だが正確だった。
役員は目を丸くする。
「……本当だ」
リリアナは
それ以上何も言わない。
ただ
書類を返す。
エリオスは
そのやり取りを見ていた。
――優秀だな。
素直にそう思う。
数字の誤りに
一瞬で気づく。
説明は最小限。
余計な自己主張もない。
周囲の流れも
乱さない。
……なるほど。
だから
生徒会に推薦されたのか。
納得する。
少なくとも
偶然ではない。
首席なのも、
納得だ。
そしてもう一つ。
ノアだ。
ノアと話している時だけ、
リリアナの表情が変わる。
ほんのわずかだが、
柔らかくなる。
時折、
微笑む。
その違いは、
はっきり分かった。
自分と話す時は――
少しだけ距離がある。
礼儀正しい。
だが、
表情がわずかに硬くなる。
視線も、
ほとんど合わない。
会話も自然と、
最低限になる。
近づきすぎないように
しているようにも見える。
……当然だ。
王太子という立場に、
人は自然と距離を置く。
それは昔から
変わらないことだ。
それに
こちらも同じように、
距離を取っている。
それでいい。
そう思う。
そう思うのに――
なぜか、
視線だけが離れない。
胸の奥に、
無視できない引っかかりが残る。
――リリアナ。




