第9話 指に残る輪(4)
静寂が落ちる。
ふと、
視線が落ちた。
自分の手。
左手の中指に、
細い輪が残っている。
ずっと、
そこにある。
あの地下で。
互いの指に通した、
ただそれだけのもの。
約束もなかった。
誓いの言葉もなかった。
それでも――
あの瞬間。
刃が迫ったとき。
倒れ込む寸前、
視界の端に、
彼の手が見えた。
同じ指に、
同じ輪があった。
まだ、
そこにあった。
消えていなかった。
胸の奥に、
熱が灯る。
止まりかけていた呼吸が、
ゆっくり戻る。
――よかった。
生きてる。
それだけじゃない。
あの時間も、
消えていない。
指先で、
そっと触れる。
冷たいはずなのに、
かすかな温もりが、
残っている気がした。
左手の、
中指。
言葉にはならない。
けれど、
ここにあるものが、
自分と、
あの人を、
確かに繋いでいる気がする。
名前もない。
約束でもない。
それでも、
消えていない。
彼の指にも、
同じように残っている。
それだけで、
胸の奥が、
静かに満ちていく。
――戻さなければ、
いけないのかもしれない。
あるべき場所が、
あるのかもしれない。
けれど。
まだ、
無理だ。
これを外してしまったら。
あの時間も、
あの声も、
あの光も。
全部、
失っていしまいそうで。
指先に残る、
小さな輪。
それだけが、
自分があの場所にいた証で、
あの人と、
同じ時間を生きた証で。
だから。
今は、
まだ。
このままで、
いさせてほしい。
繋がっていた、
あの光が、
消えてしまわないように。




