プロローグ
触れた手のぬくもりも、
名前を呼ばれた声も、
胸の奥に差し込んだ光も。
もう、手の届かないものだと思っていた。
忘れたふりをして、
なかったことにしようとして、
それでも消えないものがある。
あの日。
――「俺を、生きる理由にして」
生きる意味がなかった私に、
生きる理由をあたえてくれた。
それだけで、
立っていられた。
それだけで、
息をしていられた。
だから――
もう近づかない。
隣にも立たない。
恋も、未来も、手放す。
それでもいいと思った。
彼が生きていてくれるなら。
彼の周囲では、
説明のつかない危険が繰り返されていた。
偶然の事故。
不可解な未遂。
静かに重なっていく“何か”。
――私が触れたものは、
壊れてしまう気がしていた。
だから
私は前に出ない。
隣には立たない
影から、手を伸ばすだけでいい。
彼が無事なら、
それでいい。
そして王子エリオスは――
理由も分からないまま、
出会っていないはずの彼女から
目を離せなくなっていく。
胸が騒ぐ。
呼吸が乱れる。
心が揺さぶられる。
知らないはずなのに。
なぜか、
視線が追ってしまう。
近づく理由はないのに、
離れる理由も見つからない。
これは、
生きる理由をもらった少女と、
その理由になってしまった王子の、
静かに歪んでいく物語。
――光が、消えないように。




