第5章 カレナードの奇妙な雄叫び
翌日、カレナードが頭痛に耐えて訓練を終える頃、それが吹き飛ぶような知らせが飛び込んできた。夏至祭の踊り比べに女王が出場するというのだ。それは怒涛のようにガーランドを駆け巡っていた。しかもパートナーに新参訓練生を指名した噂まで一緒で、厳しい強化訓練の恰好の憂さ晴らしとなった。
さっそく男子訓練生棟の1階ホールに皆が集まって、ホールから2階へ続く大階段の途中にナサールとカレナードとミシコを賑々しく祭り上げた。
古参や好奇心旺盛な乗組員まで多数いた。彼らは半ば興奮して、女王と新参代表者の名を連呼した。誰かが「カレナードに何か言わせろ」と叫んだ。
ナサールは両手を挙げてお祭り男の役を務めた。
「皆の衆、静粛に!ここはひとつ、我らが代表の言葉を拝聴しようじゃないか」
彼はカレナードの肩を叩いて、皆にぶちかましてやれと合図した。
当の本人は頭に来ていた。リンザに馬鹿にされ、リリィに凌辱され、今度はマリラだ。図書館長の女難の予言は当たっているのかもしれない。
女王のやり方は度を越えていると彼は拳を握った。彼の直感はマリラが女王の権限を振りかざし自分を夏至祭で晒し者にするのだと、勝手にそう言っていた。彼は先日の女王らしくないマリラの言動に多少腹を立てたが、今はそれ以上の怒りが彼を支配し、彼を突き動かした。
一歩前に出て、カレナードは腹を括った。
「僕はここに宣言する。新参代表を務める栄誉にかけて、女王マリラの腕と腰に手を回す名誉にかけて、今日より先の踊り比べに関する試練に対し!僕は一切泣き言を言わない!10曲を踊り切り、最後まで舞台に残ることをここに誓う!女王にも勝つぞ!」
カレナードは拳を振り上げて叫んだ。階段の下の連中も拳を挙げて「おお!」と応じた。
彼はなおも続けた。
「矢でも鉄砲でもレポートの山でも持って来いってんだ!」
「おお!」
「強化訓練がナンボのもんだ!」
「おお!」
「新参の底力を見せてやれ!」
「おお!」
「オンヴォーグ!オンヴォーグ!新参訓練生に栄光あれ!」
盛大な雄叫びが上がった。まだ足を踏み鳴らして騒いでいる連中を、何人かの女がホールの外から見ていた。ミンシャはプッと噴いた。
「男って可愛いというか単純というか」
「全くだわ」
隣にリンザ・レクトーが来ていた。
「あンた、本当はカレナードが気になってたンだ」
「違うわ。彼には頑張ってもらわないと張合いがないでしょ。やっとエンジンがかかったって感じよね。彼の踊りは夏至祭に間に合うのかしら」
女王執務室ではジーナが同じ問いを繰り返していた。
「本当に踊り比べにご出場をなさいますの」
マリラは女官長に出場者リストを渡した。
「雛壇で座っているばかりが女王の役目でもあるまい。たまには皆を楽しませねば。ジーナ、そなたが生まれる前、私は度々踊っていたのだよ。知らなかったろう」
「おっしゃるとおりです。艦長と夏至祭司長に連絡して、出場者をもう1人増やしている最中です」
女官長はリストに目を走らせながら訊いた。
「で、マリラさまのお相手に変更はないのですね」
「女王のパートナーは常に若い男と決まっている。新参訓練生以外に誰がいるのか」
ジーナは真剣に問いかけた。
「あの者はいけません。紋章人を前にするとお心が苦しくはございませんか。まして一緒に踊るとなれば」
「女官長は私があれをヴィザーツの前で痛めつけはしないか、心配なのだな。大丈夫だ。夏至祭の間、私はずっと女王の務めに忙しい。あれにかまっている暇はない」
ジーナは心の中でため息をついた。マリラの決心は変えられそうにない。
知らせを聞いたエーリフは少々頭を抱えていた。
「踊り比べの補充人選などはたやすいことだ。が、女王があの新参訓練生を名指しとは、どうしたものか。彼が現れてから、マリラさまのお気持ちは多少乱れておいでのようだ。少々は構わない、女王とて人であらせるのだからな。しかし、これ以上はどうしたものか」
彼は艦長室の窓から女王区画を眺めた。
「ガーランドは特殊な世界だ。地上のヴィザーツ屋敷とはわけが違う。マリラさまの影響力は無視できないのだ。どうしたものか。ともかくあの訓練生が立派にお相手を務められるよう、鍛え上げるのが私の役目でしょうな」
彼は心に閃くものがあった。
「いい機会だ。新参どもに飴と鞭をくれてやろう。そして、補充の男はあいつにしよう。今年の夏至祭はいっそ白熱すると良いのあ」
彼は情報部へ艦内電話を使い、1時間後には新参訓練生棟の食堂に現れた。エーリフはわざと勿体ぶって扉に寄りかかり、ポーズを取った。
「ダンス教師は要らんかね」




