第4章 極秘任務、それは。
ミシコとカレナードはレポートのテーマを探していた。
「ミシコ、僕が書けて君が書けないのは、アナザーアメリカンのコード無しの生活や制度の中にあるものだ」
「こちらは逆にヴィザーツ屋敷の何かだ。何だろうな。当たり前すぎて見つからない」
「その当たり前のことが僕から見ると凄い世界なんだよ。ミシコ」
大講義室の入口にトペンプーラと警備兵が現れた。彼の足取りは緊急事態のそれだ。ざわめきが上がった。彼はカレナードの前へ真っ直ぐ来て、書状を読み上げた。
『訓練生カレナード・レブラント。玄街間諜の疑いにより、身柄を一時拘束する。情報部長ケペル・アンドラ』
「先日、会いましたネ。ワタクシは情報部副長トペンプーラです。一緒に来なさい」
カレナードは頭が真っ白になった。青天の霹靂だった。今頃になって疑われるなど考えられなかった。
警備兵が彼の両腕を後ろに回した。持っていた紙挟みが床に落ちた。
「待って下さい。僕は玄街じゃない。ただの訓練生です。まだレポートが!締切が!」
トペンプーラは書状を丸め、カレナードの鼻先でピシリと振った。
「何を寝ぼけたこと言ってますか。君は締切より自分の身を心配なさい。情報部で徹底的に取り調べますからネ」
ミシコが抗議した。
「彼が一体何をしたっていうんです。玄街のために苦しんでいるのは彼の方なのに」
カレナードは手錠の冷たい感触にうろたえた。
「艦長に事情聴取してもらいました。それでも駄目なのですか」
トペンプーラはミシコにカレナードの紙挟みを拾って渡した。
「班長さん、しばらく彼を預かりますヨ。大丈夫、拷問にかけたりしないから。差し入れは許可しません」
カレナードはオルシニバレ追放時の錯覚に陥っていた。そのためトペンプーラが彼を連行した場所が女王区画と気付かなかった。マリラの執務室から遠く離れた小部屋に入り、トペンプーラは話を切出した。
「紋章人。あなたは1週間は情報部に閉じ込められることになりました。表向きはネ」
「表向き……?」
「裏で特別任務についてもらいます。女王の影武者です。よろしくネ。この任務は今後一切他言無用。喋ったら台無しデス。本件は女王も御存知ないことです。肝に銘じなさいネ」
カレナードは高官の言葉を疑った。
「む……無謀です。そんな大それた事」
「君なら全然問題ない。身長がちょい足りないけど遠目ならどうってことない。大切なのはあなたが4日間でマリラさまに近づくこと。女官長、お任せします」
ドアの陰からジーナが現れた。
「マリラさまは明日ポルトバスクに降りられます。問題は4日後のパレード臨席です。狙撃の可能性がすこぶる高い状況ゆえ、あなたにパレードの2時間だけ身代わりを務めてもらいます。今から女王の振舞いを指導します」
トペンプーラは指輪に仕込んだ毒針を見せた。
「君に選択の余地はない。手錠をかけられたまま死にたくないでしょ」
カレナードは物凄い早さで覚悟を決めた。
「トペンプーラさん、僕は脅しに屈してマリラさまの代役を引き受けたくありません!」
「ほう、そう言いますか。では、着替えていらっしゃい」
ジーナは隣の部屋へ行くよう、カレナードを促した。ベル・チャンダルが彼の手錠を解除コードで外した。ジーナはトペンプーラに尋ねた。
「なぜ彼に白羽の矢を」
「ふふ、なぜでしょうねぇ。顔立ちはともかく、あの目です。彼は女王と同類という気がしてならないのですよ。おや、同類とは失礼な発言でした。怒らないで下さい、女官長殿」
「訳がわかりません。ともかく作戦は成功させねば無意味です。彼が死なないよう後方支援をお願いします」
「情報部の意地をかけて守って見せましょう。女王と同様に」
カレナードはマリラの衣装を着た。靴や装身具はおろか、下着も女王のものを身につけた。衣装係筆頭のアライアは見事な刺繍のペチコートを差し出した。
「安心して。これは使ってないものばかりよ。50年ほど前のね」
アライアはパレード臨席用ドレスをカレナードに羽織り、直す部分にピンを打った。
「マリラさまより細いわね。直すのは袖丈くらいよ。胸には防弾用の詰め物を入れるわ」
「アライアさん、僕の目の色はどう隠すのです。こればかりは」
「考えてありますよ。命を守る仕掛けもね」




