第4章 玄街対策会議
ガーランドは進路をミセンキッタ大河の西方に取った。強風で名高い西部のブルネスカ領国、ポルトバスク市の調停完了祭に向かうのだ。
春の午後、大宮殿階下の作戦参謀室では玄街対策会議が始まるところだ。エーリフ艦長、参謀室長カナム・ヨデラハン、警備隊長ヤッカ・ジャルダン、情報部長ケぺル・アンドラ、そして情報部副長ジルー・トペンプーラの5人が立っていた。女王を待っているのだ。
すぐにマリラはやって来た。グレーの男物のスーツを着て、大きく編んだ髪を後ろでまとめていた。彼女は自分の椅子を少し後方へ引いて座った。
「私は今日は聞き役に徹する。始めてくれ、ヨデラハン」
腕組みして半眼になったマリラは部屋の置物となった。ヨデラハンが肘掛けをコンと叩いた。
「では始めるぞ。エーリフ、ブランデー入りの茶は後にしてくれ」
「目敏いですな。その調子で新参訓練生から有望株を見つけて欲しい」
「参謀長職と新参の軍事学講義は分けているのだ。君のように訓練生にまで男の眼を向ける趣味はないよ」
「悪かった、ヨデラハン殿。もっとも気になる何人かはいます。たとえば、カレナード・レブラント」
エーリフは素早くマリラの反応をうかがったが、彼女は微動だにしない。
アンドラが眼鏡の奥の丸い目を艦長に向けた。
「彼は本当に玄街の手先じゃないな?」
ヤッカが応えた。
「最初に彼に会ったのは私だ。間諜の可能性はゼロだ。もしそうなら目立つ乗船をせず、春分の夜に女王区画へ上がりはしない」
「可愛くもある。なぁ、トペンプーラもそう思わんか」
「艦長、そういう冗談はお止め下さいネ。スクリーンを展開します」
トペンプーラは頬の黒子に手をやってから、地図を壁のスクリーンに投影した。エーリフはトペンプーラのつるんとした顔は剥きたての茹で卵、黒子はブラックベリーの甘煮だとニヤニヤしていたが、地図上の100の赤い点を見るや、眉間にしわを寄せた。
アンドラが咳払いした。
「ここ2年間の玄街の動きを示したものだ。特に黒い縁どりをした数件は今までにない彼らの活動があった所だ。トペンプーラ副長、詳細を頼む」
トペンプーラは軽やかに立った。
「まず新年15日、調停開始直後のカローニャ領国オーサ市屋敷襲撃事件は、玄街がガーランド・ヴィザーツに対して白昼攻撃を行った初事例です。
屋敷はオーサ産業会議所役員を招いて園遊会が行われていました。午前11時、玄街6名が門衛を銃殺。死者と負傷者大半はアナザーアメリカンです。屋敷警備隊が応戦し、玄街は即時撤退。襲撃時間はわずか2分でした」
トペンプーラは別のスクリーンに庭園の見取り図と襲撃直後の写真を写した。ヨデラハンが逃亡した玄街について訊いた。トペンプーラは肩をすくめた。
「全く掴めておりません。一般市民か旅行者に紛れたか、隠れ家や活動拠点があると判断し、屋敷警備隊とオーサ市警察隊が捜索するも、いまだに不明。オーサ市当局は玄街対策を強化するため、ガーランドの玄街情報を欲っしています」
艦長は顎を撫でた。
「こちらこそもっと情報が欲しいね。玄街の写真はないの。新聞記者は来ていなかったの」
「残念ですが、この襲撃で亡くなりました。
次に新年17日、本船襲撃事件に移ります。紋章人とシェナンディ嬢乗船時、玄街が中央13昇降口から侵入。玄街がガーランドに直接攻撃を行った初事例です。ヤッカ隊長、報告を頼みます」
ヤッカはスクリーンの前に立った。
「死亡した9名の玄街を徹底的に調べたが、身元は不明。各領国の照会はいまだに返事待ちです。全員男性、衣装の黒マント、黒の上着と乗馬ズボンのみが共通の装いで、それらも1ヶ所で作られた物でない」
ヨデラハンは「寄せ集めということか」と唸った。ヤッカは頷いた。
「攻撃に使われた奇妙な乗り物は、小型の飛行艇をさらに小型に改造したボートのようなものです。玄街コードにより破壊で劣化する仕様らしく、こちらの固定コードが効きにくい」
ヨデラハンは困ったように禿げ頭を掻いた。
「せめてそのボートの出所が分かればな。解析はどこがやってる」
「甲板材料部、ヒロ・マギアのチームです」
ヨデラハンは一旦頷いて提案した。
「もう2チーム増やしてはどうだ。施療棟と総合施設部を加える。彼らには専門外の解析だが、ここは異分野の視野が必要だ。我々は新しい問題に直面している。艦長、アンドラ部長、どうだ」
2人は同意した。
トペンプーラは次の事件を手早く説明した。
「ララークノ家脅迫事件。2月11日正午、テネ城内領国府に玄街の一団が乱入、『領国主ララークノ家を廃さなければ、大河以西を武力と呪術で占領する』と脅しました。白昼堂々の初めての脅迫、さらに玄街が領国を相手にした初めてのケースです」
艦長はつぶやいた。
「ララークノ家ね、広大なミセンキッタを治めるにはお粗末だ」




