第2章 ナサールは好奇心を隠さない
噂は男子棟に広まった。夕食時に早々とナサールがミシコに探りを入れに来た。
「女子がわざわざ見舞いに来たんだ。詳しく話せよ」
ミシコは簡単に口を割らない。
「どこにでもある行き違いさ。僕たちは気が済んだし、お互いの問題も分かった。ナサール、お前の班にもあり得る」
「やめてくれ、S班には剛腕が揃っているんだぜ。顔が変わっちまう」
冗談を言いながらも、彼はカレナードをちらりと見た。
「彼がお前らを殴ったって?力加減が上手い、いい具合に痕が残っているぞ、ミシコ」
「ああ、彼は場数を踏んでるかもな。君も気を付けろよ」
ミシコは新参男子棟の全員に説明する時が早晩来ると予想した。それはすぐだった。
週明けの航空基礎概論が始まる前に、サナールは大講堂の講壇に立ち、やらかした。
「新参訓練生、注目!カレナード・レブラントを『レブラント嬢』と呼んでいいか。迷惑でなければ!」
ミシコはあきれたが、カレナードは班長に合図して席を立った。
「ナサール、なぜ僕をそう呼ぶのか、訳が知りたい」
「ここまで降りてこいよ、カレナード」
カレナードは講壇までの緩い段を降りて行った。途中にマヤルカがいた。彼女は「また殴り合いをするの」と言った。カレナードは「場合によっては」と答えた。言葉とはうらはらに彼は余裕の笑みを見せた。
ざわめいていた部屋が静かになった。
「ナサール、僕について何を知っているんだ」
彼はカレナードの耳元でささやいた。
「さっそく乙女の慰めをしているのか」
カレナードは振り向いた。
「悪いがこの先は男の名誉に関わる。女性に聴かせられない話だ」
ミンシャが助け船を出した。
「代表で述べるわけではないけど、男女双方の名誉のためならそうしてもいいわ。講義まで20分だから、早めに終わらせてね。殴り合いはなしよ。女子の皆さま、どうかしら」
大講堂は男子だけになった。全員が講壇に集まり、V班のメンバーはカレナードのそばにいた。ミシコが訊ねた。
「さっきナサールは何を言ったんだ」
カレナードは先制した。
「彼曰く『さっそく乙女の慰めをしているのか』。失礼にもほどがある。僕にじゃない、女子に対してだ。だから男だけ残るようにしたんだよ。ミンシャにお礼を言わなきゃ」
アレクがきっぱり言った。
「ナサール、お前、女子に総スカンを食うところだったな」
ナサールは慌てて、お辞儀をした。
「それは俺の配慮が足りなかったな。カレナード、恩に着るよ。で、続きだが、君はスカートを履くべき存在だって本当か」
周りの視線を浴びながら、カレナードは言った。
「僕はスカートを履く気はこれっぽっちもない。ナサール、興味本位で訊ねているのなら止めてくれ。事実を受け入れる度量のない奴に話せることじゃない。
ところで、君の妄想のお相手はチャンダル女官じゃないのか」
ミシコとシャルがヒュッと口笛を吹いた。周りからも笑いが漏れた。
「そりゃまた高嶺の花だなぁ。高すぎて畏れ多いぞ!」
「さすがお祭り男、調子こきすぎだ」
ナサールは、真っ赤になって叫んだ。
「男なら良い女に挑むものだろ!そこらへんのちょっと可愛いとか美人とか鼻にかけてる女で満足してたらダメなんだっ!」
アレクがとどめを刺した。
「お前、本当にダメだな。今ので新参女子を全員敵に回したぞ。誰か外で待ってる彼女たちに言ってやれ」
ナサールは必死の形相になった。
「いやいやいやいや、ここだけの話にしてくれ。男同士なら分かってくれよ」
カレナードがそれに答えた。声はふざけてはいなかった。
「僕を男と認めて言ってるのか。ナサール」
ナサールの表情が変わった。
「悪かった。お前のことを安直に考えていた」
カレナードは講壇に立ち、告白を始めた。
「いい機会だ、皆に聞いて欲しい」
彼はガーランド乗船までを短く語った。
「僕の体は女性だ。施療棟によれば元に戻る可能性は未知のままだ。
編入時、僕にはこれを明らかにする勇気がなかった。先日の殴り合いはそのせいで起こった。男性を失ったことを簡単に話せなかった……。ここで君たちの好奇心に答えておきたい」
彼はミシコが止める間もなく実習服に解除コードをかけた。
コルセットを外し、小さく膨らんだ胸を見せた。そしてミシコに笑いかけた。
「班長、最初が肝心だ。こうすれば皆も納得できる」
「お前、肝が据わってるなぁ……」
キリアンは少し苦しそうにその様子を見ていた。




