第2章 男と女の間で
リリィ・ティンはV班をこき下ろした。
「男は時々無意味な喧嘩をするけど、お前たちはバカの見本!彼が昏倒したのは、貧血とショックよ!
聞きなさい。女性の出産時の出血量はほぼ月経10ヶ月分。つまり妊娠期間よ。紋章人はもうすぐ17歳、初潮開始の平均15歳だから2年分出血したと仮定できる。ショックで一時的に神経症が起こった可能性もあるわ。認めたくないことを見るまいとして意識を遮断したのよ」
ミシコは憮然と言った。
「ドクトル・リリィ、御託はいいから彼に会わせて下さい」
「ガキども、輸血の最中よ。静かにしてないと追い出すからね」
カレナードのそばにマヤルカがいた。燃えるような赤い髪が振り返り、非難の目で見た。
「彼の寝間着はどこなの。着替えは持ってこなかったの」
シャルがアッという顔をした。
「ここが病室じゃなかったら、あなたたちの殴られてない方の頬を殴ってやるのに」
リリィは遠慮なくカレナードの毛布を剥いだ。居並ぶ友人たちの前に彼の胸が晒された。背後の視線を無視して女医は聴診器を使った。
「サロンは病室じゃない。今度こそ艦長に分析室でも何でも増設してもらうわ!お前たち、出ておいき!」
V班は罰の仕事を言い渡された。それに向かいながらシャルは言った。
「あの女医は恐ろしい。自分がカレナードを見世物にしたくせに、俺たちを叱るんだ」
キリアンがつぶやいた。
「早くV班に戻ってくればいいんだ」
皆が怪訝な顔をした。班長は訊いた。
「お前、カレナードを嫌っていたんじゃないのか」
キリアンの答えはシンプルだった。
「やり直したいんだ。彼が許してくれるなら」
アレクが言った。
「彼は男子棟にいられると思うか、おい」
「女子の実習服はスカート付きなんだぞ。男ならあれは着たくないだろ」とシャル。
ヤルヴィは切実だった。隣のベッドが空くのは寂しかった。
「カレナードに帰ってきて欲しい」
ミシコは教官に掛け合おうとしたが、その必要はなかった。カレナードはリリィや教官たちを説得し、翌日の夕方には男子棟へ戻ってきた。ヤルヴィはカレナードに抱きついた。
「僕は君が女子棟に行っちゃうと思って!」
「泣くなよ、ヤルヴィ。僕は男だからここに居るよ」
シャルが早速ヤルヴィをからかった。
「ヤルちゃん、大好きなお姉さんが帰ってきて良かったねえ」
「おい、シャル、そういう冗談はやめろよ」
アレクはたしなめたが、カレナードは首を振った。
「これから先、僕は恰好の話のタネになるだろう。むしろ言ってくれた方が気が楽だ。いくらでも切り返してやるよ」
ミシコが班長らしく宣言した。
「よし、カレナードにスケベ心で近づく奴は僕たちが殴ってやろう」
カレナードはふとキリアンと目があった。キリアンは気まずそうに下を向いたが、顔を上げた。カレナードは何か言おうとしたが言葉が出ず、ほんの少し頷いてみせた。キリアンも少し頷いた。今はそれが精一杯だった。
ドアの隙間から声がした。ミンシャとマヤルカだ。
「男同士のお話の最中ですけど。よろしいかしら」
ミシコの背筋が伸びた。小さく咳払いしてから、どうぞと言った。
「カレナードに要る物を持ってきたわ。あンたたち、初めて見るのよね」
ミンシャは優しい手つきで女に必要な品物を並べた。
「ほら、大事なことだから説明するわ。キリアンもこっち来て」
シャルはベッドの上の見慣れぬ品物を前に、ストレートな疑問を口にした。
「カレナード、お前、あれを付けているのか」
「そうだよ」
あっけらかんな遣り取りにマヤルカは腰が抜けそうだった。
「デリカシーはどこへ行ったの!」
「マヤちゃん、男のデリカシーは女とは少しずれてンの」
ミンシャはニッと笑った。ミシコは彼女の小麦色の肌と濃い眉と水色の瞳が自分に笑いかけていると感じた。彼は右手を差し出した。
「ミンシャ・デライラ。恩に着るよ。どうも僕たちは大雑把で、想像力に欠けているというか、いや、まだカレナードの事情をよく分かってないんだ……本当にありがとう」
「いいってことよ。男も女も互いに傷つくばかりじゃ損するわよね。カレナードのことはいつでも頼って」
彼女はミシコの手を握り返した。どちらも柔かくて大きな手をしていた。




