第48話:怠惰の力
赤髪の少女、ボロボロのワンピースを着たその女の子は服を使って涙を拭き取った。
そしてゆっくりとこちらを見つめ、何かを考える様な仕草を取り口を開く。
「ごめんなさい....ごめんなさい」
これの繰り返し。
「私は概念....実体を持つことは無いの、でも貴方の事は知ってる。勝治」
「私を認識してるのは貴方の【悟り】....でも普通とは違う」
そこまで言って怠惰と名乗ったその少女は再び泣き出した。
「ごめんなさい....ごめんなさい」
「貴方のその能力は私と生物を接続させてしまった」
「神に寄生しなきゃ世界はバランスを崩しちゃうの....ごめんなさい」
「貴方に大罪を押し付けてごめんなさい....本当にごめんなさい」
呆気に取られて思考停止していた頭が再び動き出した。
その遅すぎる再起動の末、最初に繰り出した言葉はなんのひねりも無い至極当然の言葉だった。
「お前は....何者なんだ?」
どこか妙に情緒の安定しない怠惰の娘は、顔を俯けた。
「私は概念。君達が追っている【シュン】と同じ....」
「概念は言ってしまえば力そのもの。その力が神と言う生物に寄生することで一つの【秩序】になるの」
「ハッキリしない存在だから他の概念とコミュニケーションは取らない。取れない」
「でも世界は動き続ける、私も動き続ける」
「私は概念、死ぬことも殺されることもない」
「そして私は【怠惰の概念】。生命を滅ぼす概念」
突然、怠惰の娘の足元から突風が起こる。
髪がファサッと逆立ちボロボロのワンピースがフワフワとゆれる。
コキッ....メキッと音を立て、体が成長しだした。
見た目年齢8,9歳だった少女はあっという間にスレンダーな女性へと成長した。
「....っ!」
ボロボロのワンピースがかなり際どい感じになってしまっている。
思わず目をそらしてしまった。
「やっと慣れた、やっぱり生命って難しいのね」
首をポキポキ鳴らしながら体をほぐす彼女。
その目に宿った落ち着きからは、さっきまでの不安定な情緒を感じさせなかった。
「驚かせて悪いわね勝治。概念が生命を持つなんてコトまず有り得ないから思ったように動かせなかったの」
「改めまして勝治、私は【怠惰】。記憶改竄能力のせいで神でもない貴方に寄生する事になった概念よ」
「まぁ色々話したいけど、それは後。とりあえずシュンをなんとかしましょう」
彼女の口が閉じる間も無く、俺の意識は現実に戻った。
気付くとあの耳障りな耳鳴りが収まり、視界もクリアになっていた。
宙吊りにされる仲間。
キムナエ先生にナエラさん、バリッシュさんにトウさんまで。
怒りが湧かない。
体が、脳が。自分とは違う誰かだと主張する。
手を振り上げ手刀のように下ろす。
その瞬間、まるで吊るされた糸が切れたかのように仲間たちが地面に落ちた。
....よかった、みんな無事のようだ。
「おっかしぃなぁぁぁ!!!キミに記憶改竄以外の能力があるとは思ぇないんだけどなぁぁぁぁぁ!!!」
シュンの表情が怒りで歪む。
その情緒の不安定さに怠惰に似た何かを感じたのだが、もしかしてシュンはまだ【未完成】なのだろうか?
そうこうしないうちに今度は拳が彼の顔面を貫く。
ゴスッと鈍い音がなり、貫通したその顔面は一瞬で霧になった。
霧がまた集まり顔の再生を始める。
すかさずラッシュを叩き込む。
濃霧の朝が晴れていく様に、彼の肉体はじわじわと消えていった。
「うおおおおおお....」と言う野太い悲鳴だけがあとに残り、廃墟は静けさを取り戻した。
出血量が限界を迎えたのか次第に意識も....うす...く
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「....聞こえる?」
灰色のなにも無い世界。
どうやら【怠惰】の世界に再び来たようだ。
「あれは?」
「ここでシュンに殺されると元も子も無くなっちゃうからね~。とりあえず復活を【失敗】させたの」
相変わらずの際どい格好で、怠惰の女性はニカッと笑う。
どうやら自分の体を使ってシュンの復活を阻止したらしい。
先生やミレイ・ノルヴァ、マヨイ・ヴァレンに至るまであんなにも苦労したと言うのに。
「にしても勝治、貴方相当のラッキーボーイね。私とリンクするのが後数分遅れてたらシュン。彼本当に手がつけられなくなってたわよ」
「まぁ、その頃にはリンクするしない以前にみんな死んでるか!」
ハハハハと気持ちの良い笑いを響かせる怠惰。
グレーのなにも無いこの空間に、彼女の笑い声はよく響いた。
「みんなは?」
「今奈恵ちゃんだっけ?彼女が貴方を含めたみんなをバリッシュの店に運んでるわ」
「肉体の損傷は....思ったより危険ね、でもまぁ私【怠惰】だし。死ぬのも遅いでしょ」
今の彼女からはあの少女の頃の不安定さを微塵も感じない。
シュンの復活を拳だけで止めた、この衝撃を理解しきれていない。
「さ、まだまだ説明してないことだらけだものね」
そう言って怠惰は悪い笑いを見せた。
「色々、教えてあげる♡」




