第47話:怠惰の寄生少女
「やぁ、勝治ぃ....久しぶりぃ」
どこぞのピエロを思わせる口ぶりで、霧は男の形を造りだした。
「おぅおぅ....そんな怖い顔しないでくれよぉぅ.....ビビってんのかよぉぅ....」
イライラとする口調で近寄ってくる男。
その口調からはストレスしか感じないはずなのに体が動かせない。
怒りに身を任せるって事が出来ない。
震える。足が震えている。
恐怖心が歯をガタガタと震わせる。
恐ろしい、怖い。
気絶したくてもそれさえも体が許さない。
能力なんて一切使われてないのに。
ヘビに体を這われるかのような感覚。
霧から現れた男....間違い無く本物のシュン。
彼はコツ、コツと音を立てゆっくり近づいてくる。
そして頭をポンポンと撫でると、狂気的に笑った。
「俺の世界にお前は存在しなかった!」
彼の顔から笑顔は一瞬で消え、俺は後ろの壁に吹き飛ばされた。
背中の強打。内蔵に直に響いている。
イタイ。痛い。
吐血しそうなほどの痛み。
吐き気はもはや感じない。
「お前は!俊介が!作った!世界の!バグ!」
何を躍起になっているのか、ただ怒りを嬲りや蹴りで表現しているのか。
シュンの立て続けな攻撃に、徐々に意識が薄くなっていく。
【レラロイド】
状況を見かねたキムナエ先生が魔法を放った。
キーンと鳴る耳鳴りがうるさすぎて何も聞こえない、でも嫌に耳に残るシュンの高笑い。
キムナエ先生が放ったレラロイドの光はシュンが睨んだ瞬間に消えた。
「法則はねぇ....お上品に創られた法則ってのはぁ。下らないバグにぃ、狂わされるんだよぉ!」
腹に入った激烈な痛みと背中に走ったピリッとくる電撃のような痛み。
シュンはキムナエ先生に向かって俺を蹴り飛ばしたのか?
もはや感覚すら薄くなってきている。
意識が薄くなっていく中、感覚だけが研ぎ澄まされて....。
(か....じ.....かつ.....勝治!)
無数の本が本棚にキチリと収められている。
蔵書庫、見覚えのある蔵書子。
徐々にハッキリしていく視界の中、ここが【悟り】の世界であることに気付くまで数秒かかった。
「なに死にそうになってるのよ、大チャンスなのに」
季子がスポーツ大会を観戦するかのようなノリで話しかけてくる。
その後ろで季子の服を握るテラもウンウンと頷く。
「シュンの遺品を壊すんじゃなかったの?今がその最もベストなタイミングよ?」
「でも俺の力量じゃ....」
「馬鹿ねぇ、今の貴方は【怠惰】をそのまま背負ってるのよ?俊介先生をあそこまで強くしたきっかけを作った【怠惰】が」
「バルト兄様が怒ってたのは....その怠惰のせいでネットワークがバグったから...」
テラがボソリと呟く。
「でも一体何を改竄すれb」
グサリと背中に鋭い痛みを感じた。
メリ....メシと体が音を立てる。
「うあああああああああああああ」
激痛のあまり涙と声が溢れ出る。
数秒もしないうちに声すらでなくなり、フッフッと呼吸を確保するので精一杯な状態に。
「夢のお時間はそこまでだぁ....そんな空想上の人物と話しててぇ....虚しくならないのかぁ?勝治ィ!」
シュンは何故か俺をいたぶる。
神々を一撃で葬れる力を持つシュンが、俺をいたぶる。
これは何かしらの理由があるのか?それともただの気まぐれなのか。
どちらにせよ、これはとてつもない【ラッキー】だ。
時間を手に入れた。
下手な手を打てば彼は間違いなく止めの一撃を打ち込んでくる。
考えろ....最善の一手。
痛みがピークを超え、もはや感じるのは熱量と異常な気だるさのみとなった。
全身が熱湯になったようなそんな感覚。
地面にドロリと溶けている感覚。
恐らく地べたに這っているのであろう俺の肉体が、彼に最善の一手を打たんと努力している。
季子とテラが何に気づいて、俺に何を伝えようとしたのか。
彼女らの思考は正直理解できない。
脳がシュミレーションしてるはずなのに、それでも理解できない。
怠惰....バグ....予想外....不意。
不本意な怠惰の移動!
俺か!
パズルのピースがはまったあの感覚。
最後の1ピースがピタリとハマった、達成感とも優越感とも言えるその感覚。
彼女らの言いたい事が分かった。
バグは、俺だった。
ホカナラヌ。俺。
【自己改竄】だ。
フッと真っ暗でほぼ何も見えない視界にグレーの霧が纏った。
何も見えないグレーの世界。
その奥には涙を流し膝をつく少女が居た。
「....君は?」
神妙とも普通とも言えないボロボロの服を来た少女。
赤く垂れ下がった髪がゆらゆらと吹いてもない風に揺らされている。
「私を....認識してるの?」
少女は一瞬泣くのをやめ、こちらを見て目をパチクリとさせる。
数秒の沈黙の後、その少女は再び泣き出し
「ごめんなさい....ごめんなさい....」
とあやまり続けた。
「私は【怠惰】....貴方達が認識できない、怠惰」
「神は生物だけど私は生物じゃない。神に【能力】と言う名の寄生を行って生きてる概念」
少女はグスリと音を立てながらしゃべり続ける。
赤髪の怠惰と名乗った少女。
直感が俺に教えてくれた。
彼女は、今。俺に....。
寄生している怠惰、そのものだ。




