第37話:芸術的な愚考
次はお前だ勝治。
途切れ途切れになる意識の中、断片的な映像が脳内に入り、彼の口は確かにそう動いた。
シュンの顔は狂気に歪み、彼の姿が何重にもブレて見えた。
「俊介はこれを悟りと呼んでいるらしいが、正直どアホな能力よのぉ」
「自分の記憶をベースに存在しない人を作り出す能力。【ウッドソード】を使えるあいつだからこそたどり着けたこの能力....」
「そのせいで俺の思想が生き延び、お前が俺を回収しに来てくれたんだ。ありがたい事この上ないぜ」
辺りの空間が電子回路のような複雑な光を発し、パキ、ペキと音を立てる。
バチッバチッと放たれる火花が、シュンの体にあたっては溶けを繰り返す。
ケミカルなその光景。
意識がだんだんと薄まる。
━…━…━…━…
「そういうわけだ」
「.....なるほど」
目が覚めると、卓の料理は大方食べ尽くされていた。
俊介先生が静かにこちらを見る。
先生の過去の仲間は、先生の歩む旅路の中で全て死んだ。
唯一の生き残りはシュンによって皆滅ぼされた。
そんな結果を、残酷で冷酷すぎるその結果を、先生は自身の能力で【作り替えた】。
そう簡単にできることじゃない。
先生でさえ死にかけながらにしてやっと手に入れた力だ。
季子がこちらを不思議そうな眼差しで見つめる。
彼女の口角が少し上がった。
このクソアマ、気付きやがったな。
どうやら俊介の目だけ誤魔化せばそれでいいわけでは無いようだ。
クソが。
「この記憶は本物ですか?」
「あぁ。間違いなく僕が辿ってきた人生の記憶だ。最も世界を作り直した今となっちゃ別の世界の知らん奴の記憶だがな」
「.....」
ライリーが最後の食材を食べきり満足そうな表情を見せる中、病弱気質なあの男が帰ってきた。
「ほらマヨイちゃん。あなたが求めてた資料まとめて来たわよ」
.....相変わらずのオカマ口調で。
真紅のテーブルクロス一面に広げられた古びた書類の山。
その一枚一枚にとんでもない情報量が載っている。
「遺品は地球だけじゃなくてバーミアにもある見たいねぇ....ま。私に出来るのは情報を渡すことぐらいだから、こっから先のお手伝いは出来ないんだけどね~」
妙に腹立たせる物言いをするのがコイツの悪い癖だ。
うっかり手を滑らせて殺しそうになってしまう。
もう少し....もう少しだけの辛抱だ。
シュンの遺品。
ざけんな。俺が残した遺品じゃない。
この世に存在する概念の中から、俺に構造が似てるものを集めさせてるだけだ。
そんなもの宇宙規模で探せばありとあらゆる世界に存在する。
なにもバーミアと地球だけじゃない。
しかしそれを俺の残した遺品と思ってくれているのはラッキーだ。
どうやらそれが皆の共通認識らしい。
そりゃどんだけ資料探し漁ったって遺品の全貌は見えんわな。
....ッチ。
にしてもさっきから季子の視線が気になって仕方がない。
あの女。勘が鋭いのかそれとも何か明確な理由があってやってるのか....。
もし後者なのだとしたらそれは消しておきたい可能性だ。
「シュンの復活に必要な遺品は全部で8つ....?どうしてそう分かったんだ?」
俊介は一枚の紙を指差しそう言った。
「生命エネルギーからの逆算でしょうね。フルパワーになるには足りない気もするけど彼ならこれだけでも十分に復活出来るでしょう」
ミレイ・ノルヴァのその光栄極まりない評価。
いやぁ、目に余るねぇ。
愚考もここまで来ると芸術だよ。
ここで遺品が8つって言われてるのはただ単純に【キリがいいから】だ。
体を8つのパーツに分けてるんだよ。
上っ面の【仮面】
攻撃性の【拳銃】
隠蔽の【コート】
童心狂気の【ブーツ】
認識の【帽子】
司令塔の【手袋】
魂の【人骨】
エネルギーの【テラ】
この8つ。
復活するだけなら正直これらの一つあればそれだけで全くと言っていいほどに困らない。
しかしそれだと中途半端なのだよ。
この8つが揃えばそれが一番【キリがいい】。
何処から漏れたのかこの遺品の情報が全て書き出されている。
テラが遺品の一つだとバレたのは正直痛い。
あとは記憶だ。
俺は記憶のバックアップを既にとってある。
その記憶にさえアクセス出来れば俺はもう自由だ。
俊介に迫害された自由を、再び自らの手に収めることが出来る。
ただこのままではいけない。
自分の【肉体】がないと、記憶にアクセスするパーミッションを得られない。
俺は、自由になれない。
そしてこいつらの計画している【遺品の横取り】。
これは最高に使える。
俺の情報がどんどん漏れ、一見かなり不利な状況に見えなくもないが正直かなりの好状況だ。
遺品の全容がバレたおかげでこいつらは先取りする方法を模索し出すだろう。
その間にもバルトは遺品の回収を続行する。
俺は2つの側面から遺品を回収できるのだ。
更に憑依に成功したこの体、勝治。
これもまたラッキーだった。
こいつの能力は俺のコピーを好きなだけ量産できる。
更に記憶の捏造も出来ると来た。
運命は確実に俺を擁護している。
ミレイ・ノルヴァがどこかに逃がした運命。
俺は....再び自由を手にしてみせるぞ。




