第35話:俊介の辿るキオモノ
エルフ....恩知らずのエルフ。
脳内にドバドバと情報が流れてくる。
先生の記憶。
爆発的な量の負の記憶。
目の前で倒れて虚ろになっている高校生ぐらいの奈恵先生。
緑色の制服が地面の泥に汚れてしまっている。
シニタクナイ....シニタクナイとただひたすらに呟き続ける奈恵先生。
目の前で高笑いしているのは....誰だろう。
...武林冬弥。先生の同級生だ。
彼の目が狂気的に笑い、ケタケタと身を震わせる。
「ハハハハハ!これで目標は達成したよ、このクソ殺人鬼共め!」
「目的?禁忌の書から僕らを突き放すのがお前らの目的じゃなかったのか?」
「ほんっとうまいこと引っかかってくれたよねぇ...?うんうん。君達は本当にバカだよ、我々の目的は昔からずっと変わらない。君らに対する【復讐】だよ」
「復讐?」
「あぁ、復讐さ。遠い昔、エルフの種族はお前らを研究した。好奇心を埋めるためだ。しかしお前らはなんだ?お前らは存在そのものが我々にとって害だった。できることなら世界から存在ごと消してやりたかったよ、でもどうせお前らの事だ。復活だのなんだのって言ってやはり私たちに害をもたらす。少なくとも禁忌の書は我々にそう説いた」
「お前らのせいで我々の種の数は激減。今や純系のエルフなんて20以下だぞ?集落にも雑種が混ざり込む始末...。これが害と言わずしてなんと言う?」
「逆恨みだろ?」
「黙れ!だからこそ我々はこうしてお前ら全員をバーミアから追い出した。お前らが置いた捨て駒はちゃんと殺しといてやったぞ?」
「捨て駒...おい!それって...」
「あぁ...ナエラだよ、心臓を一突きだったさ.....」
フッと意識が途切れる。
俊介先生の激昂は、冬弥に対してではなく彼に憑依していたエルフに対するもののようだ。
恩知らずのエルフ。
そのエルフが残した禁忌の書。
「僕がキミだってのはホントだよぅ....最も、君と【シュンヤ】が僕なんだけどねぇ....」
「僕はねぇ....君達の居る時間軸とは【違う】時間軸の人間なんだァ.....」
「僕の世界にはミレイ・ノルヴァは存在しているけれども、マヨイ・ティアラは存在していないんだぁ....だから家同士の闘争は存在しないしぃ....ノルヴァ家もこっちの時間軸より圧倒的に弱い」
「じゃぁどうしてこの時間軸に来たんだよ」
「そりゃぁ.....」
シュンはゆっくりと俯き、殺意丸出しの上目遣いでこちらを睨む。
「全部の時間軸の僕等を殺す為さぁ...」
その禁忌によって産まれた悪魔。死神・シュン。
彼の目的は結局最後まで不明だったが、彼が言うには全ての時間軸の先生を殺す事だったらしい。
再び意識が途絶える。
エルフの集落。
荒れ果てた土地、無造作に散らかった生活痕。
そして、残った先生とミレイ・ノルヴァ。
「結局こうなるんだな」
「えぇ。覚悟は決まった?」
「.....あぁ」
先生の中から最期の希望が消えた。
【神の試練】のタイムリミットが近づき。頭痛がひどくなる。
頭を抑えると手に火傷に近い感覚を覚えた。
熱い。
高熱が出ている。
最悪な条件は【重なる】。
「なぁ、僕の覚悟は決まった。だから一つだけお願いを聞いてくれないか?」
「何?」
「僕には無抵抗の人間を殺す事は出来ない」
「....だから」
「僕と、真剣に戦ってくれ」
フフ、と不敵な笑みを浮かべるミレイ・ノルヴァ。
「貴方も大分鬼畜な事を言うようになったのね」
「いいわ、その話乗ってあげる。幼少期以来決闘なんて滅多にやってないから体がなまってないといいんだけど」
ミレイ・ノルヴァが肩を回しフゥ....と一つ溜息をつく。
そのまま指を鳴らすと、空間にブロックノイズが発生し、気付くと森に移動していた。
意識が途絶える。
しかし記憶は入ってくる。
シュンを倒すため、エルフとの因縁に決着を付けるため、先生はミレイ・ノルヴァと戦った。
ミレイ・ノルヴァは確かに強かったが、長きに渡るシュンとの戦いにて先生は十分張り合える程の強さを持っていた。
彼を完成させるのはミレイ・ノルヴァの死のみだったのだ。
紅の空が黒に染まって来た。奴が近づいているのだ。
「シュン....」
コツ...コツ...コツ...と着実に一歩一歩、その姿はこちらに近づいて来ている。
圧倒的な力を感じる。
憎悪の感情が、その立ち振る舞いから理解できる。
「やぁ俊介ぇ...げんきぃ?わざわざ生かしてやってるのに、出迎えもなしかいぃ~?」
この口調、ピリピリと感じる圧倒的な力。
地球とバーミアを終わらせ、2人の自分を一つにし、圧倒的な一人の【万物神】に成り上がった男。
シュン。
ミレイ・ノルヴァが閉じ込められている結晶を見て、狂気に顔を歪ませる。
「なんだぁ...滅茶苦茶いいプレゼント用意してくれてんじゃぁん」
そう言ってシュンは右手を突き出し、能力を唱えた。
【ウッドソード】
地震が起こる。
天変地異を思わせる程に大きな地震。
シュンは自身の手を暗黒空間へと変換し、あたり一面の【魂】を吸い込み始めた。
バーミアの木々から魂が吸われ、枯れていく。
動物から魂が吸い取られ、死体の山が積み上がる。
バーミアの世界から秒で色が失われいてく。
「待て!やめろシュン!」
先生の警告も無視し、彼は結晶を暗黒空間に吸い寄せ始めた。
もう行動を考える時間は無い。
【ウッドソード!】
先生は力強くそれを叫んだ。
瞬間、先生の右手には炎のオーラが纏った。
物凄く温かい。でも非常に冷たい。
「ウッ....」
ミレイ・ノルヴァの腹にオーラをまとった先生の拳が貫通している。
「うああああああああああああああああああああああああ」
先生の拳が、雄叫びが、ミレイ・ノルヴァを突き通した。
貫通した手のオーラは徐々に大きくなり、ミレイ・ノルヴァを燃やし尽くした。
「それで...いいの...俊介....後は...分かるわね?」
ミレイ・ノルヴァは燃え尽き、その灰が血しぶきのようにあたりに飛び散る。
先生は灰の雨を浴びながら、ただひたすらにシュンを睨んだ。
涙は無い。
後悔も無い。
殺意も無い。
そこにあるのは、【圧倒的な力】そのものだけだ。
「あ~あ、僕へのプレゼントはぁ~?」
「...ねぇよ」
シュンの顔から笑顔が消えている。
そこにあるのはただの悪魔。
完全な悪魔。
傲慢で、卑猥で、横着で、蹉跌さえも我が物とするような死神。
そして再び意識が消える____




