第29話:ヴィクセンの日記
先生と奈恵先生、そしてミレイ・ノルヴァの3人は、マヨイ・ヴァレンに連れられるまま何処かに行ってしまった。
残された俺と季子とライリーはヴィクセンとグリシアに案内されるままレンガ造りの時代漂う建物に案内された。
中世を思わせる外観とは裏腹に、内装は何処か近未来的だ。
「ここが私の部屋さね。ここでちょっと待ってるさね」
ヴィクセンはそう言ってライリーを別の部屋に連れて行った。
グリシアが部屋に残ったが、正直気まずい。
そりゃぁそうだろう。
「グリシアさんってもしかして重力操作出来るんですか?」
季子のその発言に、グリシアのが驚きの表情を見せる。
「なんで分かったの?」
「やっぱりそうなんですね。さっき先生がライリーさんを復活させる時、神々は皆不動でしたけど貴方の周辺だけ塵が全部下に落ちてたんですよ」
「....露骨に嫌味を言ってくるのねアンタ。私それコンプレックスなんだけど?」
一瞬言ってる意味が分からなかったが、季子がグリシアを煽ったのは分かった。
背伸びしているグリシアを見て、彼女の言うコンプレックスがその【身長】だと言う事が分かった。
ライリーが復活した時の向かい風は確かに強烈で、立っているのがやっとだった。
先生もミレイ・ノルヴァもグリシアもヴィクセンも確かに不動で立っていたが、そこで塵にまで注目しているとか季子には一体日常がどう見えてるんだ....。
そこでグリシアが重力を弄って立っていた事を見抜いた訳だが、その理由は単純な身長の問題なのだろうか?
まぁ、彼女のリアクションを見る限り身体的ハンデは大きそうだ。
ニヤニヤと笑う季子。
おかげで大分空気が和んだ。
落ち着いて部屋を見回して見ると、意外に散らかっていた。
布団があったのだが、猫でも飼ってるんじゃないかってレベルで毛だらけ。
九尾の狐も大変だなぁ....と思うと同時に布団の上に乱雑に置かれた本を見つける。
「なぁ、あれって...」
「あぁ、ヴィクセンの日記ね。見てみましょうか」
「いいのか?」
「アタイも前から気になってたのよ」
グリシアの躊躇いを感じさせない潔さに驚きを隠せないが、日記の内容が気になるのは事実だ。
グリシアは最初の数頁をパラパラとめくると、はぁ...と一つため息をついて日記をこっちに押し付けてきた。
「日記は日記でも研究日記ね。アタイの好きなジャンルじゃ無いわ」
最初のページをめくると、そこには【俊介が生還できた理由】と書かれていた。
研究日記がまさか先生の研究日記だとは....。
━…━…━…━…━…
俊介が生還できた理由。正直理解不能さね。
理論的に考えて答えが出たらまだ楽さね。でもそうは行かない。
俊介がシュンとの戦いで世界を再び作り替えたとなると、前の世界と作り直された世界で何か大きな違いが出てる方が自然だと言うのにそんな痕跡は一つもないさね。
はっきり言って異常さね。
無理やり理論立てるとするなら、ドッペルゲンガーさね。
現にあの旅での死人は馬場、ナエラ、トウそしてシュンヤさね。
最終的にシュンの異空間で俊介以外の全員は殺されてるけれど、シュン抜きで死んだペアは居ないさね。
【対になった存在が出会うと、どちらか片方は死ぬ】。この考えでも問題は無さそうさね。
俊介とシュンヤだと生き残ったのが俊介で、更にシュンと言うドッペルゲンガーが出た際に死んだのがシュンと言う事になるさね。
俊介がシュンに勝てた理由が【ドッペルゲンガー】だったからと考えれば、滅茶苦茶強引だけど片付けることは出来るさね。
....無理さね。シュンはそんな確率論ぶっ壊して俊介を殺すはずさね。
でも結果的に俊介が生き残り、彼は世界を作り直した。
案外その答えは俊介が無能力者だった頃にあるのかも知れないさね。
彼が生まれつき悩まされてた【記憶共有現象】が。
俊介が他の人と違う点と言ったらそれぐらいしか思いつかないさね。
シュンヤの記憶を気味悪がり、保有していながら拒絶し続けた。
そして時期が来て憑依現象が起こり、彼は何度も死にかけた。
でもその度に生き残り、彼は純也に魂を喰わせることで初めて異能力を得たさね。
存在を司る神の能力【ステンエギジス】。
存在を【消す】事しか能の無い使えない能力だったけれど、もしその能力が無かったらグリシアあたりに殺されていたさね。
ミレイ・ノルヴァの運命を司る能力は、特定の何かに肩入れが出来ないはずさね。
でも俊介はこれほどの加護を受けている....。
当然それによってかなりアンフェアな思いをしてはいるけど、それを覆すほどのラッキーさね。
ミレイ・ノルヴァは本来大罪一家の人間として生まれるはずだったさね。
それがマヨイ様と同じ時期に、ノルヴァ家として生まれたさね。
そのせいで家を追い出されて、悔しさから自力で【時と運命を司る女神】の座についた。
でも根本は【怠惰の女神】さね。
怠惰の神としての能力こそ使えなくなってしまったけれど、その副次効果。【怠惰】そのものはミレイ・ノルヴァに呪いのようにまとわりついてたさね。
もし、その怠惰で貯められた運命エネルギーが俊介に向いていたとしたら。
あれほどのパワーを持つミレイ・ノルヴァの本気を嫌ほど溜め込んだエネルギー。
それなら....。




