第27話:致命的な判断ミス
ゴーン、ゴーンと鈍い鐘の音が頭をよぎる。
自分が何を考えているのか、それさえも分からない。
一つ分かるとしたら、今の俺が如何に絶望しているかと言う事だけだ。
―――― キッ....と言葉にならない悲鳴が季子から聞こえた。
反射反応で季子から投げ飛ばされたテラの遺体は、気づくとバルトの姿になっていた。
ムクリと起き上がると、バルトは狂気的な笑みを浮かべ、こちらを睨んだ。
「ブーツは偽装能力。仮面は人心掌握。君等は遺品の本当の恐ろしさを知らない」
ケケ、フヒヒと気色の悪い笑い声を上げながら、バルトは自身の腕をかきむしった。
皮膚が剥がれ爪にこびりつき、血が表面に滲み出る。
滲み出た血が何かしらの文字....魔法陣を展開した。
「人はいつも自分が正気だと言い訳する」
「自分が狂気に染まっていても、自分は正気だと開き直る」
「人に難癖付けて自分を正当化するんだ....」
「狂気は正気を突き詰めたその先にあるものだと言うのに」
奇妙な笑みを浮かべるバルトは、腕の血文字をなぞりながらブツブツと何かを呟く。
「遺品は人の狂気を気付かせてくれる。人が持ってる狂気を!失われていた文明を!人類が未だ到達したことのない聖域を!」
「明朝は隣国を腐敗した。ケケケ....とても不快だ。だが、その背徳感に蝋燭が崩れていてとても狂乱だった」
「お前何を言って....」
バァン!とビルに響く爆発音。
バァン!バァン!バァン!と連鎖して音がなる。
「マズイ!伏せろ!」
先生がそう叫ぶと同時に、部屋が大爆発を起こした。
瓦礫が飛んできたが、先生がウッドソードで消してくれた。
ゴゴゴゴゴ、と鈍い音を立ててビルが倒壊していく。
ものすごい量の煙で視界がよく取れない。
風が舞い、バルトの灰....いや、恐らくあれはテラなのだろう。
テラの灰が宙に舞ってしまった。
「テラの生命エネルギーは俺の物だ!俺の!....ハハハハハハハ」
フェードアウトしていくバルトの笑い声。
この煙の中、そしてこの状況下で彼を追うことは不可能。
逃げられた。
しかし、この状況。
ビルが倒壊して行き、地面に叩きつけられ上から瓦礫が降ってくるこの状況。
――――死ぬ。
世界から色が消える。
その瞬間。俺等は倒壊するビルを眺めていた。
「せっかく解かれた呪いも、爪痕残されちゃ解けた気がしないのね...,」
ミレイ・ノルヴァだった。
「助かったよ、ミレイ....」
「助かったよ、じゃないわよ。貴方ならあのビル丸ごと消すことだって出来たでしょう?」
数秒黙り込み、先生が何処か元気のない様子で口を開く。
「僕はまた判断ミスを犯した。致命的なミスだ。だから判断が遅れたんだよ」
「テラの事ですか?」
季子が無慈悲な横槍を入れる。
グッ....と言葉詰まらせる先生の表情には屈辱的な感情が浮かんでいた。
「....あぁ」
「先生はあれがテラだって見抜けましたか?」
再び言葉を詰まらせる。
「....あぁ」
「―――嘘ですね」
「落ち着いて考えれば見抜けたかも....なんて考えてるならそれは大間違いですよ先生」
「腐ってもバルトとテラは兄妹。血の繋がりまであるんです。そんな人間に演技されたらどんな生物でも見抜けませんよ。ましてや遺品の力が加わっているんだから尚更です」
俊介先生は、何処か気が楽になったような表情を見せたが、それでも屈辱的感情を拭いきれてないようだった。
「やーい俊介。お前人間なんかに諭されてやんの」
聞きなれない声。
みんなの視線が一瞬で一カ所に集まる。
「グリシア!」
ミレイ・ノルヴァが声を上げる。
グリシア....?
グリシア・ヴァレン!覚えている。たしか馬場さんを殺したって言う....。
嘘だろ!?見た目小学生って言われても違和感無いぞ?
この女の子が馬場さんを....?
「なんの用だ?」
俊介先生がグリシアを横目で睨む。
「おぉ、こわいこわい。マヨイ様がお呼びなの。シュンの件でね」
「マヨイが?珍しいこともあるのね」
グリシアの手には【移】の文字が握られていた。
「はい、これ。ヴィクセンから借りてきたから」
「今すぐ行けってか?....ったく」
肩をパンパンと払い立ち上がる俊介先生。
先生が【移】の文字に触れると、姿が一瞬歪みその場から先生が消えた。
「ほら、貴方達もどうぞ」
グリシアの誘うままにみんな【移】の文字に触れる。
最後俺一人となった時に、グリシアが声をかけてきた。
「貴方が勝治ね。ずっと警戒してたみたいだけど、誰かにあたいの事聞いた?」
「まぁ、警戒されてるって事はあまりいい噂じゃないんだろうけどね」
そう言ってグリシアが俺の手を握った。
その瞬間今度はあたりの空間が歪み、ブロックノイズを走らせながら戻っていった。
シンクのカーペットに高そうなデスク。
その奥には膝を立て手の甲に顎を乗せて居る女性がいた。
「ほい、到着~♪」
グリシアのテンションが妙に高い。
その女性の横に立っている女性は側近だろうか....!!?
側近の女性に九尾の尻尾が生えている。
人間じゃないのは見ただけで分かるが...もしかしてここはつまり。
――――ヴァレン家....!




