街でお友達⑵
セロは自分のさす傘を見上げた。その目つきは心なしか咎めるようなものだった。
セロは自分をにこにこと見つめる少女に向き直る。
「あのね、ふつう、かさはしゃべらないんだよ」
ゆっくりと噛み砕くように、丁寧に、そう言った。
「うん!だから喋っててすごいね!って言ったの。ねねね、どうなってるの?」
セロの言葉に答えた上でもう一度、少女は聞いてきた。
そして何を思ったのかぽん、と、手を打って
「私の名前はね×××××って言うんだよ!」
明るくそう言った。
×××××と名乗った少女にの話によると、どうやら彼女はこの街で宿屋を営んでいる夫婦の娘らしい。
そして何を思ったのか無口で表情も変わらないセロのことを気に入ったようだった。
「私のお家はね、宿屋やってるんだ。だからさ、泊まりきてよ!ね?いいでしょう?」
少女の勢いに飲まれて何も言えないセロの手を掴んで少女は笑う。そして笑いながら返事も待たずに町の奥へ進んで行こうとする。セロは特に抵抗もせずにそれに従った。
『いいんですか嬢さん。前もこうやって騙されましたよね。どうせ覚えてるんでしょう?今回もそうだったらどうするんですか?』
もしかしたらセロにすら聞こえないような声でヴィオラはセロに問いかけた。思い浮かぶのはいつか騙されたとき。セロは特にその時も何も言わなかったけれど、けれど確かに傷付いていた。ヴィオラはまた、そうなるのではと危惧している。
『まぁ、嬢さんが決めたことならば特には止めたりしませんけどね。』
少しだけ、優しげな声。
『でも、この前みたいなことになったら俺、すぐに手を出しますよ。それだけは、覚えていてください。この前は止められたけど、今度はもう無理ですから』
優しくて、優しくて、どろりとした声。まるで甘やかすかのように、それでいて咎めるような、そんな声で。
『俺にとっての一番は嬢さんですから』
もし顔が見れたならばきっと、平気な顔で笑ったのだろうと、そう思える程。当たり前のように、そう言った。
「わかってるよ。そんなの、しってる」
セロは、小さく答えた。
「何か言った?」
少女はセロを振り返って言った。
それにセロは、べつに。と一言答えた。ヴィオラは何も言わなかった。
「じゃじゃん!これが私の家です!」
少女は一軒の家の前で立ち止まり、振り返る。よく見るとその家には宿屋の看板が出ている。
「あんまり広くないけどね、でもご飯は美味しいってみんな言ってくれるんだ。最近は私も手伝うんだよ。将来はここを私が継ぐんだ!」
自慢げに、そう笑った。それを眩しい思いで見ながら、セロは自分の夢を思い出すことができなかった。あれ、可笑しいな、なんて思ってそれをすぐに忘れた。
少しすると少女の両親が出てきた。遊びに行った少女の帰りが遅くなったのを気にして迎えに行こうとしたらしい。
そして出てきてすぐにセロたちを見つけて娘の非礼を詫びた。
少女に無理矢理セロを引っ張ってきたことや帰りが遅くなったことを叱る両親を見て、叱りながらも何処か心配そうな顔をしているその両親を見て、やっぱり、セロは何も言わなかった。言えなかった。
きっと親の顔なんて知らないセロには叱られる少女の気持ちも叱る両親の気持ちもわかるわけないから。
だから、理解することが出来ない自分とは別の生物を眺めるようにセロは少女とその両親を眺めていた。
ヴィオラはそれを知っていながらも、やっぱり何も言うことはなかった。
なんかだらだら書いてます………。どうしよう。もうちょっとサクサク読みやすく面白くかけるようになりたい……。