街でお友だち⑶
何これ。いつもの倍くらい長いです。文章の長さ調整出来るようになりたいです。切実に。
それではどうぞ。
誤字等修正しました。
燃えていた。ひたすらに赤く、ゆらゆらと激しくまるで踊るように美しく。
炎の赤は異様に黒い空に映えて、夢のよう。
ぱちりぱちりと炎が爆ぜてセロの白い髪を赤く彩った。
揺れる炎の爆ぜる音。
幽かに聞こえる誰かの悲鳴と嗤い声。
何が起きているのかすらもわからない。
そんな燃え上がる大きな屋敷を前にして、セロはいつもの傘をきゅっと、抱きしめた。そうでもしないと足元から崩れてしまいそうだった。
脳裏に浮かぶのはいつかの記憶。
ーーーちがう、こんなのしらない。こんなの、わたしのじゃない。おもいだしたくない……よ。
纏わり付くような記憶を振り払うようにセロはゆるゆると頭を振った。
ヴィオラは何も言わなかった。
ことの始まりはその日の朝まで遡る。
朝起きるとセロの横に傘がなかったのだ。
可笑しいななんで思って探して見ても何処にもなく、呼びかけても返事がない。
ヴィオラが一人で歩いて何処かに行くということは恐らくありえない。ならば可能性はセロが何処かに忘れたか、はたまた誰かに盗られたか、の二択に絞られる。
セロは取り敢えず朝ご飯を頂こうと下の階に降りようとした。
すると聞こえてきた出来る限り抑えた控えめな、でも怒鳴り声。
「なんてことをしたの×××××!そんな事はしちゃ駄目だって昨日も言ったでしょう!昨日、絶対やらないって言ってたじゃない!」
「だって!こうしないとこの家が!」
それに応えるのは昨日、明るくセロに笑いかけていた少女。
ーーーまた、か。
にこにこ笑ってくれたのにな。と、セロは諦めに似た思いで階下の声を踞って聞いていた。
少し時間が過ぎて階下の声は無くなって、静かになった。
最早言うことなどないとでも言うように少女もその母親も黙ってしまったかのよう。
セロはゆっくりと時間をかけて立ち上がり、そして階下に降りて行った。
「おはようございます」
セロは小さくそう言った。
何処と無くぎこちない動作で少女の母親はセロを振り返る。その顔に浮かぶのは笑顔。ただしよく見れば引きつっていて無理やり作ったものだとすぐにわかる。
「おはようございます。よく眠れましたか?すぐに朝食の用意をしますね」
まるで逃げるように、母親は小走りになってセロの視界から消えた。
そんな母親に少女は何か言いたげで、けれども何も言えなかった。
セロはゆっくりと少女の方に目を向ける。
少女はセロから目を逸らした。
「あのね×××××。わたしのかさがなくなったの。たいせつなものなの。しらない?」
セロは何も知らないふりをして少女に尋ねた。
少女は少し息を飲んだ。そしてほんの少しだけ、ほっとした表情を浮かべて
「知らないよ。ごめんね」
そう言った。
「みんな、どうせうそつき。ね」
セロはそう小さく零す。誰にも聞こえないような声で自嘲気味に。幽かにその口元を歪ませた。
朝食を終えて宿を出て街に出ようとすると、少女の母親に止められた。
そして殆ど九十度と言ってもいい程に頭を下げられた。
「申し訳ございませんでした!」
セロはそれにどう答えていいのかわからなくなってちょっと狼狽えて、一歩後ろに下がってしまう。
「なんの、こと」
「とぼけないで下さい」
曖昧に煙に巻こうとしたセロを少女の母親はきっ、とゼロを睨みつける。
「どうせ聞いていたのでしょう、あなたは。娘が、私の娘がーーー貴方の傘を盗ったことを」
セロを睨みつける目はまるで泣きそうだった。
母親は手で顔を覆って蹲ってしまう。
「申し訳ございません。言い訳なんて、出来ません。間違いなく悪いのは私たちなのですから」
まるで譫言のように。
セロは、何も言わずにそれを見ていた。
暫くして母親は顔を上げた。
「取り乱してすみません」
そして立ち上がると、セロに言った。
「どうか聞いてはくれませんか、私たちの現状を。何故、このようなことを娘がしたのかを」
そして聞かされた話はーーー。
沈みかけた太陽を抱いた真っ赤な燃えるような夕暮れ時。
広い道を埋め尽くすほどの人、ひと、ヒト。
昨日セロがいたのとは違う道。誰もが行き先を持って何処かに向かって歩いている。
そんな中に、セロはいた。
人の流れに一人、逆らって歩いて行く。
そして、気づけばセロは一人、ポツンと立っていた。人はセロを避けるようにして歩いていた。けれど誰もセロを見ていない。まるで流れる水が中央に置かれた石を避けるかの如く。
それを可笑しく思ってセロは周りを見渡す。そして、見つけた。気付かなかったのが不思議な程。セロの目の前に立った、異様な風体の誰か。
ひょろりと高い身長も、適当に縛った赤なのか青なのかよくわからない髪も、それだけを見れば普通なのに、被っていたダンボールが台無しにしていた。
セロはこんな可笑しなやつを一人だけ知っている。
「……ティノ」
「よぉ、セロ。久し振り。聞いたぜ、お前いつもの傘盗られたんだって?無様だなぁ」
にやにやと、口元を三日月のように歪ませてティノと呼ばれた誰かは言った。
「うるさい。なんでしってるの。じゃま。どいて。かえしてもらわなきゃいけないの」
セロはティノの横をすり抜けて行こうとした。ティノはすり抜けて行ったセロの後ろ姿を見て、嗤う。
「大変だよなぁ、お前も。また裏切られたんだってな」
「おまえになにがわかるの」
セロは振り返らずに言った。
「さぁなぁ?何もわからないねぇ。けど知ってることもある。どうやらあの一家、領主様に多額の借金があったらしいな。到底返せる額じゃぁなかったんだとか?」
気紛れに獲物を嬲るかのように、ティノは嗤う。嗤って、嘲る。
「あの娘って健気だよなぁ?領主様に潰されないようにって珍しいものを献上しようとしてたらしいぜ。それが、お前の傘だったってわけ」
「……だから、なに?」
セロはやっとティノを振り返る。
今までにティノが言ったことは全てセロが少女の母親に聞いた話。
借金を返すために借金を繰り返すということを繰り返していたのだ、ということも聞いている。
その様を見ていた娘が珍しいものに目がない領主に珍しい喋る傘を献上し、借金を帳消しにしてもらおうと考えたことも。
傘だけ持って行かれて、借金を帳消しにしてもらうことは叶わなかったことも。
全て、セロは知っている。知った上で、謝罪を受け入れた。
「別に?どうもしないねぇ」
にやにやとティノは嗤う。
セロはそれを一瞥して息を吐いた。
「なんのよう?なにかあるんでしょう、おまえがいるってことは」
「この街に今、リコとサツキのばばぁが来てるぜ。今夜あたりに何か起きるかもしれないなぁ」
人を馬鹿にしたような笑みを浮かべたままティノは言う。ダンボールを被っているので伺えるのは鼻から下だけで目元が本当に笑っているのかなんてわからないけれど。
「ヴェルのことは、こんかいはないの?」
「ないねぇ。……ところでお前、こんなところでちんたらしててもいいのかぁ?」
少し残念そうなセロにティノは嫌らしく嗤う。
セロは誰が引き止めたんだか、とでも言うようにティノを睨む。
そんなセロを一瞥してティノは空を見上げた。
空はもう夕暮れを通り越して暗く染まっていた。もう人はいない。
けれど
「俺、さっき言ったよなぁ。今夜あたり何か起きるかもって。でもあれはどうやら間違いみたいだ」
まるで太陽が一部、沈み損ねてしまったかのように。赤く、赤く燃え上がる空。遠いのにそれでも確かにわかる程。確かに其処で、何かが燃えていた。
「もうおきてるの間違いだったみたいだ」
その言葉を聞くや否やセロは駆け出した。
きっとあそこに、ヴィオラがいる。わけもなく、そう思った。
赤く燃え上がる屋敷。セロはその前にいた。
贅を凝らして作られたであろうその屋敷は無残にも崩れていく。
可笑しなことに野次馬の一人も見当たらない。
ここに走ってくるまでも人は一人も見かけていない。日が沈むと同時に人の姿はもう消えていた。
屋敷の前には淡い金の髪をしたセロより少し大きな、けれど少女と呼ぶにふさわしいような見た目の誰かがいた。
「セロ」
彼女は悪戯っぽく笑うと手に持っていた傘を放る。セロは危なかっしく其れを受け取る。
「大事にするんだぞ、其れ。それと、領主様に目を付けられるなど、良きことなど何もない。早々にこの街を出ると良いであろう」
幼い顔に合わない古めかしい口調で彼女は言った。
「そんな目で見るな、セロ。妾も好きで屋敷を燃やしたわけでは無い。というか妾は燃やしておらぬよ」
少し苦笑気味にまた、言う。
どうやらセロは自分でも気づかないうちに難しい顔をしていたらしい。
「じゃあ、サツキ。だれがもやしたの?」
「リコだ」
セロはサツキに尋ねる。
サツキは答えた。
リコは、コクリコという名のセロとよく似た容姿をした、セロの、姉である少女のこと。
もう随分とセロとコクリコは会っていない。
けれど。会ってはいけないのだ。
「妾はもう行く。これ以上リコが暴れないうちにこの街から出て行かなくてはならんのでな」
サツキはそれだけ言ってとんっ、と軽く飛び跳ねて炎の向こう側に消えた。
セロは炎の向こう側に消えたサツキの行方をぼおっと見ていたが、別のことを思い出してしまいそうになっていた。いつのものだか、わからない記憶。
そして、冒頭に戻る。
セロには、緩く纏わり付く記憶が本当に自分のものなのかそうでないのかすらもわからない。
ただよくわからない不安だけが渦巻いていた。
長かったです。冒頭にあれ持ってきたのが間違いだったかも。あれなければ二つに分けられたのになー。
人も沢山出てきました。そしてほとんどで揃いました★
切実に文才が欲しいです。




