表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

真っ暗な空と海

イワナの兄ちゃんは、すっかり回復したようで滝の所で華麗(かれい)なジャンプを決めて楽しんでいる。


ぼくは、これから向こうに見える大きな海をどう渡るか考えていた。


太陽は西に傾き、雲の間から光の線を地に送って、名残惜(なごりお)しそうに消えて行く。


ナナイロは目を覚ますだろうか。


ぼくは首に掛けた黄金の勾玉を見た。


光ってない時は、ただの黄色い石だ。


ぼくは、勾玉を首から外して、目の前の枝にぶら下げた。


勾玉の重さで細い枝は、()れている。


揺れが、止まりそうになると、ぼくは(くちばし)で押して揺らした。


ズキン ズキン ズキン ズキン ズキン。


脈打つ感じで痛い。


そうだ。トンビに体当たりして、そのあと枝にぶつかって、羽の付け根の所を傷しちゃったかな。


ぼくは、緊張(きんちょう)していて感じなかった痛みを、今、感じ始めた。


「痛いよう!」


暗くて見えなくなった勾玉が あるだろうと思う方に向かって、小さい声で言った。


勾玉の真ん中がほんの少し光り始めた。


「ナナイロ、ナナイロだね。」


ぼくは、すごく(うれ)しかったけれど、ごく普通に見えるように,そっと声を掛けた。


「あら?呼び捨て? まあいいわ。今日は、1日ごくろうさま。大変だったわね。」


「えっ! 知ってんの? 眠っていたんじゃないの?」


「眠っていたわよ。でも、起きていることはソウルで見るの。七夜、今また大きな目をして、私を見ていたでしょう?」


「いや!ぼくは勾玉と遊んでいたんだよ。ほら!こうしてね。」


ぼくは、光を帯びた勾玉を嘴で押した。


「フンフン。なるほどね。ところで、どうやって海を渡るの?

七夜は途中で羽を休めないとね。海に休み場があるといいけど。」


ぼくの心の中をあっさり言い当てる。(くや)しいけど本当だ。


「イワナさんはどうかしら?山の水は得意だけど、海の水は、塩が強いの。大丈夫かしら。」


「そうなんだ!知らなかった。」


ぼくは、イワナの兄ちゃんは、どんなに広くても水がある所なら平気だと思って、自分の事しか考えていなかった。


一体(いったい)どうすればいいんだろう。ぼくもイワナの兄ちゃんも海を渡れない。


ナナイロにお願いして、今、出発するか、それとも他に方法があるのか。


「ナナイロさん、あの、お願いがあるのです。ぼくとイワナの兄ちゃんに海を渡らせてください。」


黄金色(こがねいろ)の光は細い木の枝も照らすほどの球形になっている。


「いいわ。昨日の夜は、時空(じくう)を飛んだから、だいぶ力を使ったの。

今夜の飛行は、七夜、自分の力で進んでね。」


「も、もちろんさ!海さえ渡れたら大丈夫! と思う。」


ナナイロは黄金の勾玉から出て来て(うなず)いた。


「ちょっと待って!イワナの兄ちゃんに話して来る。」そう言いながら。ぼくは、黄金に輝く勾玉を首に掛けた。


イワナの兄ちゃんは、ここに住むイワナたちと意気投合(いきとうごう)して楽しんでいる様子(ようす)


「イワナの兄ちゃん、出発だよ!」


「こんな暗い時にか? おれは大丈夫だけどよ、ドジガラスは見えるのかよ?」


「うん! この勾玉が先を行ってくれるから付いて行くんだよ。イワナの兄ちゃんも勾玉の後を行ってね。」


「おう!分かったぜ!昼間は石だったのに、やけに(まぶ)しく光ってるじゃねえか。こいつを追いかけるって訳だな!」


イワナの兄ちゃんは、そこに住むイワナたちに向かって言った。


「んな訳でちょいと行って来ら!必ず帰って来っからよ!心配しねえで待ってろって!」


そして、ぼくに「さ!行くぜ!ノロノロ飛んでると追い越しちまうぞ!」と()かした。


ナナイロがぼくの先を飛んで行く。


イワナの兄ちゃんは、ものすごい速さで川を下って海に向かっている。


ぼくもナナイロの光を追って飛んだ。


ナナイロは、ぼくに合わせてゆっくり飛んでいるし、光の帯は出てこない。


やっぱり昨日は特別だったんだ。


海の上に来た。


イワナの兄ちゃん、大丈夫かな。


下を見ると、イワナの兄ちゃんは、もう海を泳いでいた。


あれ?イワナの兄ちゃん、(わず)かに黄金色に光っている。


ナナイロに守られているんだ!良かった!それにしても早い、早すぎる。


ぼくは、ヤッキになって羽をバタバタしたが、スピードが出るどころか、傷めた肩が痛いだけだった。


段々、イワナの兄ちゃんとの距離が広がる。


これ以上失速したら真っ黒な海に落ちそう。


雪が降りそうな空は星もなく、ナナイロの小さな光だけが唯一の光だった。


落ちたら冷たいだろうな。


イワナの兄ちゃんに思い切り笑われるだろうな。


ここまで来て死ぬのは嫌だ!


がんばれ!ぼくは質屋の七夜だ!


気持ちを強くすると、何だか力が()いて来た。


「七夜、目を()らして前を見てごらん。」ナナイロの声。


頭を上げて遠くを見ると、明かりだ!明かりがある。


「もうすぐ北の国に着くんだね?やったー!」


「違うわよ!船よ!あの船で休むといいわ。」


「あー、そういう事?だね。」


「船に乗っている人たちは眠っているわ。一人、若者が甲板(かんぱん)にいる。(おどろ)かさないように静かに休むのよ。」


ナナイロは、子供に(さと)すように言った。


「分かってるよ!静かに休むよ。」


船には思ったより早く着いた。


若者がいない方の甲板に降りようかな。いや、あそこに張ってある(なわ)に降りよう。その方が気付かれないぞ。


ぼくは縄にスッとカッコ良く止まろうとした。が、


氷、あの枝と同じように縄も氷で(おお)われていた。


しっかり(つか)んでバランスを取ろうとしたが、(すべ)って下の甲板に落ちてしまった。


物音に気付いた若者が走って来る。


あー、やってしまったー。どうしよう。


「なーんだ、石ころかー。やけに光る石ころだな。何の石だ?」


アッ 勾玉を取られちゃう!


ぼくは、羽を広げて後ろに下がった。


「うわっ! びっくりした! カラスか! 全然見えなかった! 驚いたなー! なぜカラスが船にいるんだ?」


「あの、驚かせてすみません。あの、ぼく滑ってしまって。あの、少し休ませて頂きたくて。ホントにすみません。」


ぼくは、とっさに言った。


「えっ? そちは話せるのか?」


ぼくもびっくりした。人間と話すなんて初めてだ。


「あー、話せるみたいです。ぼくも初めてで、あの、すみません。」


「そんなに(あやま)らなくて良い。ちと驚いただけだ。しかし不思議なやつだな。

首にちょこんと光る石ぶら下げおって。」


「はい、訳あって、これをぶら下げて北の国に旅をしているんです。」


「ほう!北の国か、そこに用があるのか?」


「はい、あの、北の国には底まで透き通った湖があるそうです。ぼくはその湖に向かっているのです。」


「ふーん。神の子の泉だ。父上から聞いた言い伝えだが、大昔、神の子の泉の方に龍が飛んだと。

大そう美しい龍だったそうだ。こうして(おき)に出ていた時だったという。見たかったなー。」


若者は、暗い空を見上げながら話した。


「お兄さんも、聞いているのですね。龍の話。」


「龍が、何をしに行ったのか。そこに何があるのかは、誰も知らない。

神の子の泉は、奥の奥。人の足じゃ到底(とうてい)行き着く事などできないという。」


「神の子の泉というんですね?龍はそこに、海色の勾玉が巻き付けられた、タケルの神剣を沈めたそうです。」


「そうか、誰の手にも渡らないようにしたのか?それとも、そこまで取りに行った賢者(けんじゃ)が持つという事か?」


「神剣の事は良く分かりません。まず、海色の勾玉を探して、他の勾玉も探して、選ばれし者に授けるのです。」


「選ばれし者は誰なのか?」


「すべての勾玉が(そろ)った時に分かります。」


それから、若者は読んだ書物から色々教えてくれた。


タケルというのは皇子(おおじ)だったかもしれない事。


初めの天皇は神様だったと言われている事。


その血は代々受け継がれて今は柏原(かしわばら)(みかど)桓武(かんむ)の時代を作っていること。


若者は秘密の任務をその帝から(たく)されている事。


若者が(おだ)やかな口調で話すのを聞いているうちに、ぼくは、すっかり疲れが取れた。


「そろそろ、ぼく出発しなければいけません。休ませて頂いてありがとうございました。」


「そうなのだな。私もまた北の国を目指すことになるであろう。また会えると良いな。あっ!しばし待て!」


若者は、()れたように暗い甲板を走って消えて行った。


(しばら)くすると、何か持って走って来る。


「ほれ!干し柿だ。食べるが良い。腹が減っては(いくさ)はできぬからな。」


「お兄さん、ありがとうございます。ぼくは質屋の七夜と言います。頂きます。」


お兄さんは干し柿を割いてぼくの前に置きながら「私は田村麻呂(たむらまろ)と申す。」


「田村麻呂さん、御馳走様(ごちそうさま)でした。お世話になりました。また会えるといいです。お元気で。」


そう言ってぼくは飛び立った。


「心して行くのだぞ!」田村麻呂さんは、船の明かりの中でずっと手を振っている。


優しいお兄さんだったな。


ナナイロと似た言葉だった。でも、田村麻呂さんは、ずっと優しいけど。


干し柿はおいしかったし、力も付いた。


ぼくは、田村麻呂さんと楽しく話したことを、思い出しながら全速力で飛んだ。


続く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ