北へ
「海色の勾玉は北の国の底まで透き通った湖にあるって事。」
「それから、他の勾玉は高い山に住む誰かが持っているに違いないよ。」
ぼくは、カジカのおばあちゃんが話した事から分かった事を、得意気にイワナの兄ちゃんに言った。
「山ったって、どこの山だい?山なんかそこいら中にあるんじゃねえかよ!」
「そ、そうだね。」
高い山だっていっぱいある。
一番は鉢伏山から南に向かう所で見える遠い山だ。
次は安曇野を西に飛ぶとすぐにある繋がった山だ。
他にも高い山は東にも北にもある。ぼくが見たこともない高い山があるかも知れない。
そうだ!ナナイロは、まず海色の勾玉を探せと言っていた。
「オイ! オイ! ドジガラス! またかよ! 固まっちまって!」
イワナの兄ちゃんは、思い切りぼくの顔に水を飛ばした。
「あ!ごめん! あの、ぼく、北に向かって、底まで透き通った湖にある海色の勾玉を探し出さないと!」
我に帰ったぼくは、イワナの兄ちゃんに言うと、さっきミミズを捕まえた落ち葉の所に飛び降りた。
イワナの兄ちゃんにも、ミミズを渡して契約を、完了させてから行こう!
なかなかミミズがいないな!ぼくは焦って落ち葉の下の凍り付いた土を突いていた。
「ドジガラス! おれは、まだ腹がいっぱいだからよ! 海色の勾玉探し、おれも付き合うから!」
「さー行くぜ!」
「え?ホントに本当なの?」ぼくは、また石の所に戻った。
「さっきも言っただろう?そんなんじゃ危なっかしくて見てられねえよ!」
「カジカのおばあちゃん、教えてくださって、ありがとうございます。また必ず来ます。お元気で。」
ぼくは、カジカのおばあちゃんに挨拶してから、イワナの兄ちゃんと一緒に川を下った。
イワナの兄ちゃんは川幅が段々に大きくなって分水嶺の所まで一気に泳いだ。
そして、北に下る流れに入った。でも、イワナの兄ちゃんは、川下には降りず、川が合流するとすぐに登って次の分水嶺を北に降りるのだった。
ぼくは、川を見ながら飛んでは、休んだ。イワナの兄ちゃんみたいにずっと進み続けるのは無理だ。
太陽が真上に来た頃、だいぶ北に進んだ所で、ぼくたちは、一緒に食事をする事にした。
雪が深くて食べ物は少し木に残った種か硬くなった小柿しかなかった。
見かねてイワナの兄ちゃんが、川の虫を捕まえて、川べりの氷の上に置いてくれた。
3匹目の虫を氷の上に置こうとした瞬間!
影が、ぼくと、イワナの兄ちゃんの間を通り抜けた!
イワナの兄ちゃんが消えた!
トンビだった!
ぼくは、追いかけた。トンビなんかに負けないぞ!
イワナの兄ちゃんを鷲掴みにしたトンビに追いついて体当たりした。
トンビは、少し怯んだ。ぼくは、旋回して、もう一度体当たり。
まだか! もう一度、身体中の力を込めて「えーい!」
トンビは、ついにイワナの兄ちゃんを掴んでいる手を緩めた。
イワナの兄ちゃんは、体をくねらせて、トンビの足から脱出した。
落ちて行くイワナの兄ちゃんを、トンビが追いかける。
ぼくも急降下する。
あー!間に合わない! 木に叩きつけられちゃう!
イワナの兄ちゃんは、落ちて行った。体を回転させ、木にかすりもせず。
木に絡まったのは、ぼくだった。
バサバサバサッ! 羽と枝がぶつかって音を立てながら、ぼくは落ちた。
降り積もった雪が、ぼくを、ふんわり受け止めた。
「イワナの兄ちゃーん! イワナの兄ちゃーん! イワナの兄ちゃーん!」ぼくは声を限りに呼び叫んだ。
森は静まりかえって、ぼくの声だけが響く。
トンビはまだ諦めていないらしく、上空で円を書いて下を見ている。
「イワナの兄ちゃん!ごめんなさい!ぼくが、自分で食べる物を捕まえていれば、こんな事にはならなかったのに。」
ぼくは、泣きながらイワナの兄ちゃんを探した。
すると、何か音が聞こえる。
ぼくは、耳を澄ませて聞いた。
「おーい!おれだ!雪に埋まっちまった!掘り出してくれ!」
こもっているが確かにイワナの兄ちゃんの声!
ぼくは、声がする所の雪を足で蹴った。雪は軽くて、すぐに穴が空いた。
イワナの兄ちゃんの体が見えた。頭も。
「イワナの兄ちゃん、大丈夫?怪我はない?ごめん・・・」
「あー、大丈夫。それより早くここから出してくれ!凍っちまいそうだ!」
ぼくが言いかけたのをさえぎって、イワナの兄ちゃんは、言った。
ぼくは、羽をイワナの兄ちゃんの下に差し込んで背中に乗せた。
トンビを威嚇しながら北に飛んで、海が見える山に降りた。滝で、刳られた池にイワナの兄ちゃんを降ろした。
トンビは、もう、追いかけて来なかった。
イワナの兄ちゃんは、息を止めていたので、池にもぐってむせている。
ぼくは、たった今、起こった事を思い出して、イワナの兄ちゃんに申し訳ない思いでいっぱいだった。
これからは、危険を前もって考えて、それを避けて進まなければ、命さえ落としかねないと反省した。
イワナの兄ちゃんには、少しここで休んでもらって、ぼくは、底まで透き通った湖があるかどうか、偵察して来よう。
ぼくは、できるだけ高く飛んで、湖を探した。たくさん見える。
底まで透き通った湖はないなー。
もっと北へ行くとなると広い海を渡らなければ。ぼく、途中で力尽きちゃいそう。
偵察を終わらせて、イワナの兄ちゃんがいる池に戻った。
イワナの兄ちゃんは、氷の下でゆっくり泳いでいる。
陽は西の森に 隠れそう。
ぼくは、イワナの兄ちゃんには声を掛けず、近くの木に止まって、これからどうするか考える事にした。
もし、飛んで行けたとして、本当に底まで透き通った湖があるのかな?
底が見えても、勾玉があっても、湖が一面に凍っていたら取りに行けないしな。
ぼくは、考えれば考えるほど、心細くなって、首に掛けた黄金の勾玉を見つめていた。
続く




