タケルと娘
「これから、わしが話す事は、水から来たものじゃ。よーく聞け。」
ぼくたちが静かになったのを見てカジカのおばあちゃんは口を開いた。
「太古に、またの名をタケルと言う若者が首に下げていた海色の勾玉と、娘が3年かけて集めた6色の勾玉は、大きな力と、民を導く知恵と、全ての生けるものに注ぐ愛をタケルに授けた。
ところが、腹違いの兄は妬んでタケルを無きものにしようと追い詰めた。
タケルは、勾玉の力を兄に対して使う事になって苦しんだ。
全ての勾玉を兄に渡せば、この世は平和になるのか?それが答えか?
考え続けていたタケルはある夜、娘が持っている勾玉を輪になるように並べ、海色の勾玉を真ん中に置いて、話しかけたそうな。
すると虹色に輝き始め、光を増した時、同じ虹色に輝くものが現れて言った。
「私はナナイロ。勾玉の精。選ばれし者が、七色の勾玉を持つ。そなたが選ばれし者。
他の者が持つ事は許さない。他の者が持つならば輝きは失せ、その力もまた失せるであろう。」
何度も会った優しいナナイロだったが、この度は別人のような声だった。
「あい分かった。兄に渡そうなどと考えた事を詫びる。すまなかった。」
タケルは、ナナイロに詫びてから立ち上がり、娘と共に兄の軍がいる山に向かった。
タケルの首には海色に輝く勾玉、娘の胸は6個の勾玉が虹色になって輝いていた。
兄の軍に程近くなった所まで歩いた時には、夜明けの空が朝焼けで紅く染まって、これから起きる事を知っているかのようだった。
タケルは、海色の勾玉を首から外し、母から授かった神剣にしっかりと巻き付けた。
そして、娘と向き合って、暫し目を合わせ、頷くと、神剣を高々と振りかざし、二人の真ん中に突き刺した。
すると竜巻が起こり、竜巻の芯は眩く光る青白い光が天まで届いていた。
タケルは白い獅となり、娘は虹色の龍となって、その獅を乗せ、神剣と共に空に消えてしまった。
大きな地響きに驚いて陣営から外に出た兵士たちは、天まで届く青白い光と、それに巻き付く大蛇のような竜巻を見て甲冑も付けずに大騒ぎで逃げ出し散り散りになってしまったそうな。
タケルの兄もそれを見て、気が狂れてしまい、髪と髭は伸びて獣の如く山を歩き回り、人には近寄らなかったと言う。
さて、虹色の龍は海に向かい、途中の小高い丘で白い獅を降ろして、北に進み、底までも透き通った湖に海色の勾玉が巻き付けられた神剣を葬った。
そしてまた、南に戻って、おそらく人の住めるであろう一番高い山に降りて、姿を変え、巫女となって兆しを読んだそうな。
今も水の世界では七色の勾玉の行方を見守っているのだと言う。」
一気に話してカジカのおばあちゃんは大きくため息をついた。
「ありがとうございます。カジカのおばあちゃん。」
「おう!今の話で何か分かったかい?ドジガラス!」カジカの兄ちゃんが待ちかねたように口を出す。
「うん、海色の勾玉は北の国の、底まで透き通った湖にあるって事。」
「それから、他の勾玉は高い山に住む誰かが持っているに違いないよ。」
「山ったって、どこにあるんだい?山なんかそこいら中にあるんじゃねえかよ!」
「そ、そうだね。」
「質屋の七夜!よーく聞いていたな。褒めるぞ。」
カジカのおばあちゃんは嬉しそうに頷いた。
続く




