イワナの兄ちゃんとカジカのおばあちゃん
「カラス?お断りするよ!カラスは何でも食べるからねえ。危なくてしょうがない。」
イワナの兄ちゃんは上目使いでぼくを見上げて「だってさ!」とぶっきらぼうに言った。
ぼくは、掘り出したミミズをくわえて、イワナの兄ちゃんとカジカのお婆ちゃんのいる、大きな石にピョンと飛び乗った。
そして、ミミズを石の下めがけて放り込んだ。
イワナの兄ちゃんは、「気がきくじゃねえか!ドジカラス!」と言いながら得意のジャンプでミミズを捕まえてカジカのおばあちゃんに持って行った。
「ホウ!このカラスは腹がいっぱいとな?」
「よし!話を聞いてやろうかねえ!」
ゆっくり出てきたカジカのおばあちゃんは、すっごく頭が大きい。
「あの、ぼくは質屋の七夜です。こんな形の石を探しているのですが、知っている事があったら教えてほしいのです。」
「それは、勾玉じゃな。見た事はないが、良く知っておる。神々に通じる、もろもろの力を持つ。
太古に海色の勾玉だけが、タケルの神剣と共に、水に入ってしまったそうな。
そして、他の全ての勾玉は、タケルと共に歩んだ娘が持っていたと、聞いておる。
全ての勾玉を見出すものが現れる日が来ると言うが、お前がその物か?」
「いいえ!ぼくは選ばれし者ではありません。七色の勾玉を集めて、封印された知恵と力と全てのものに注がれる愛を解き放ち、選ばれし者に授けるのです。」
ぼくは、何回も繰り返して考えて、すっかり暗記したナナイロの言葉を、カジカのおばあちゃんに話した。
「そうか、では、見出すものと選ばれし者は別なのじゃ。わしとて、伝えられてきた事を行のうて、成り行きを見て、知ることもあるのだ。見出すものが現れたからには、勾玉について水の知る全ての事柄を、伝えねばならぬ。待っておれ。」
そう言って、カジカのおばあちゃんは、しばらく目を閉じてから、何かブツブツ言い始めた。
「すべての水の源。すべての水の流れ。空中にある水。天にある水。海にある水より巡り、太古より帰っては、また降り注ぎ、姿を変える。その蓄えたる知識の中の一つを我に・・・・・。」
とか、微かに聞こえた。
待っても待ってもブツブツが終わらない。
ぼくとイワナの兄ちゃんは、すっかり待ちくたびれてしまって、突き合ったり、水を飛ばしあったり。
最初は静かにちょっとだけチョッカイを出していたのに、だんだん面白くなってきて。
イワナの兄ちゃんなんか、尻尾で水を叩くと、ぼくの背中まで水が飛んでくる。
ぼくも、冷たい水に飛び込んで、ブルブルッと体を振って、水飛ばしで応戦した。
フッと周りを見ると、さっきまで薄暗かったのに、明るくなってる。大変だ!
ぼくはナナイロの言葉を思い出した。
「時がない。」とか「夜が明ける前に。」とか言ってた。
首に掛けた黄金の勾玉を見ると、光ってない。光ってないよー。
「ナナイロさん、ナナイロさん!ナナイロさーん!ナナイロさーん!!」
ぼくは、冷たい水の中に入ったまま叫んだ!
「うるさいわね!私は陽が出たら寝るの!呼ばないで!」
「えー?そう? なの? そんなの聞いてなーい!」
じゃー、何? 夜になるまで待つの? 「時がない」つってたじゃーん!どうしたらいいんだろう。
カジカのおばあちゃんはまだブツブツ言ってるし。
海色勾玉だけ水の中にあるって事は?
娘が、ほかの勾玉を全部持ってるって、でも大昔の話だよね?
ぼくが持ってるこの勾玉は、どうして一つだけここにあるの?
バラバラになっちゃったの?
「おい!おい!気は確かか?ドジガラス!おい!」
「あー、イワナの兄ちゃん。」
「いきなり、デカイ声で叫んだと思ったら、目え皿のようにして黙っちまってよう!気でも狂ったかと思うじゃねえか!」
「ごめん、ごめん。」
「ここまで付き合ったんだからよ。おれもその海色って勾玉を探しに行くよ。危なっかしくてしょうがねえ!」
しょんぼりと羽を落とす、ぼくをのぞき込んで、イワナの兄ちゃんが言った。
「ほんとにー?イワナの兄ちゃんが一緒なら心強いなー。」
「これこれ!何を騒いでおる!」
「あっ!カジカのおばあちゃん!」
ぼくは、カジカのおばあちゃんがいる石に飛び乗って水を払った。
「これから、わしが話す事は、水から来たものじゃ。よーく聞け。」
ぼくたちが静かになったのを見てカジカのおばあちゃんは口を開いた。
続く




