海色勾玉
「そなたはこれから、黄金の勾玉の他にある6色の勾玉を集め、それらの勾玉に封印された知恵と力、そして、生ける物に注がれる愛を解き放ち、選ばれし者に授けるのだ。」
ナナイロの言葉通りになるとしたら、ぼくは誰のために勾玉を集めるのだろう?
どんな色が集まるのかな?
そう言えばナナイロが経験した事のない事を見たりするが怖がらなくていい--みたいな事を言ってたな
確かにあのスピードで飛ぶのだってあり得ないしな
体が壊れるかと思ったよ
この見慣れない景色だって。
星の位置は昨日と同じなのに、夜中も明るいはずのガソリンスタンドも、街灯もない。
車だってこの時間なら少しは走っているのに時が止まっているようだ。
あの煙は何だろう? あちこちから煙がたちのぼっている。
ぼくは黄色に輝いている首に掛けた勾玉を見ながら考えていた。
「七夜! 何をボーッと見つめているの! 七夜はそのように大きな目で見つめるのが癖なの?」
いつの間にか黄金勾玉の芯に入っていたナナイロが言った。
「あ、ナナイロ さん。見つめていましたか?すみません。あのちょっと考え事を。」
「それより聞いてもいいですか?ここは安曇野ですか?あの煙は何ですか?道路は?街灯は?」
ぼくは矢継ぎ早に質問した。
「夜が明ける前に海色の勾玉を探すのだ。時はかぎられている。」
ナナイロは、ぼくの質問には答えず、声色を変えて厳かに言った。
「荷物をここに置いてもいいかな? ぼくの木じゃなさそうなんだけど。」
「大丈夫よ! まだ誰の縄張りにもなってないわ!」と女の子の声。
ぼくは、コロコロ変わるナナイロの声に戸惑いながらも、急いで商売道具を木の枝に吊るした。
「海色って言うからには海に向かいますか?」
「いや! 海とは限らない。水の中にあると言う。黄金勾玉を輝かせることができるそなたなら、海色勾玉も輝かせることができるであろう。」
ぼくは荷物を下ろして軽くなった体を身震いしてから、暁の空に飛び立った。
分水嶺に行ってみよう。何か分かるかもしれない。
ぼくは南に大きく旋回した。
木にとまって休もう。
林は全体が凍り付いて、小さな滝から飛ぶ飛沫で枝が氷に包まれていた。
飴みたいだな! ぼくは氷に覆われた枝の先を折って食べた。
うーん!冷たくておいしい!
小さな滝の下には水たまりができて、そこだけ凍っていない。
降りてみると、イワナの子が、ぼくの影に驚いて一箇所に集まっている。
「あー、ごめんごめん。驚かせちゃったね。探し物があってここまで来たんだけど。」
「そんなこと言って、いきなり僕たちを食べようってんでしょ?そうはいかないよーーだ。」
「いやいや、ホント違うんだって! 教えてほしいんだよ。ここら辺で、いっちばーん、長生きで、何でも知ってる爺ちゃんとか婆ちゃんとかいる?」
ぼくは、水溜りから少し離れながら聞いた。
「そんなら、この水の流れを少し下ったとこに兄ちゃんたちがいるから聞いてみ。兄ちゃん怖いよー!」
元気な女の子が、隠れていた氷の下から出てきて言うと、すぐにみんなの所に帰って行った。
「うん分かった!ありがとう!」
ぼくは、飛び立ちながらお礼を言うと、森の上から魚の住みそうな水溜りを探した。
水の流れは少しずつ川の形になってきた。ここら辺で聞いてみよう。
ぼくは川の方に垂れ下がっている枝にとまって、魚がいるかどうか見ようとした。
「うわーー!」
枝は、思った以上に撓んで、しっかり掴んでいたぼくは、枝と一緒に
川に落ちるー!!
「羽!羽!羽を広げて!」
ナナイロの声が、そう言いながら笑っている。
「わ、分かっているさ!こんなの平気さ!どってことないよ!」
ぼくは、バランスを取りながら平静を装った。が、
結局、川が凍っていてぼくは嫌と言うほど、氷に肩を打ち付けてしまった。
「痛ってー!」
ナナイロが、ぼくを指差して笑っているのが分かる。
無視してぼくは、怖いイワナの兄ちゃんを探し始めた。
ここもさっきと同じように、水が落ちている所だけ凍っていない。
「あのー、ごめんくださーい。教えて頂きたいことがあって来たのですがー。」
「なんだよ!さっきから煩瑣くしているのは、アンタかよ!」
「あ、すみません。着地失敗しまして。」
「ったく、ドジなやつだな! それで用は何だ?」
あの子が言っていた通り強面だ。しかもデカイ。
「この辺りに年長の方はいらっしゃいますか?」
「あー、いるよ! カジカの婆さんだ。あんな婆さん食っても、うまかねえぞ!」
「あひ? あのー、別に食べる訳ではないのですが。ぼく、あのその、探し物をしておりまして。」
「なんだ!はっきりしねえやつだな!何を探しているんだって?」
「この形の石なんですが。」ぼくは、首の勾玉を見せた。
「へー!珍しい形だな。よし!俺がカジカの婆さんとこに案内してやっからよ!なんかうまい物を空から落としてくれよ!」
「分かった。商談成立!」
イワナの兄ちゃんは氷の下を泳いで見えなくなった。
と思ったら、いきなり滝をジャンプした。
「ヒュー!」
あまりのカッコ良さに口笛を吹いてしまうぼく。
そして、氷の上で転んでナナイロから笑われないように、気を付けながら飛び立った。
イワナの兄ちゃんは、お腹を川底に擦りそうになりながらも上手く川を登って、大きな石がゴロゴロしている所で止まった。
何か話している。
ぼくは静かに近くの石に降りて、兄ちゃんの様子を見ていると
「おばあちゃん、カジカのおばあちゃん。お元気ですか?ぼくです。イワナです。」
随分と優しい声で話し掛けている。
「何だい?鼻垂れ坊主。お腹が空いたのかい?」
「嫌だなあ。もうお婆ちゃんから捕まえてもらわなくても、ざざ虫は取れるよう!あのね、今日は探し物をしていると言うカラスを連れて来たんだけど話を聞いてあげてくれる?」
「カラス?お断りするよ!カラスは何でも食べるからねえ。危なくてしょうがない。」
イワナの兄ちゃんは、上目使いでぼくを見上げて「だってさ!」とぶっきらぼうに言った。
ぼくは、すぐに石から川縁に飛び降りて、落ち葉の下を嘴で掘り返した。
ミミズ、出て来い!ミミズ、出て来い! 一生懸命、土を掘るとミミズが見えた。
よーし。切っちゃわないようにっと。そろーり、そーっと、引っ張って。出たー!
ぼくは、掘り出したミミズをくわえて、イワナの兄ちゃんとカジカのお婆ちゃんの所に戻った。
続く




