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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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カノッサのお嬢様方


「ところで『カノッサ』のお嬢様方」

 馬車が移動を開始した途端、スカウトにいそしむズィロ。


「昨日の芝居は意外な好評でしてね」

「「「「あーーー」」」

 客室内唯一人の男子、ズィロ。


「あら、ズィロ。今日は満面の笑みですね」

「バラか百合か青蘭か。いやいや美し過ぎる花に囲まれて緩まない男がおりますかな、判事」

「いつもの貴方なら」

 言葉を飲み込も、そして長いため息をして、ズィロに勧誘を続けなさいと促すペネ。


「色々と予測不能な問題が連発しても堂々とした役者ぶり。いや、驚きました」

「ねーーー。ズィロ」

 ダイが車窓からひょっこり話しに混ざる。


「おれの脚本も、よかったよね? だいぶアドリブだらけだったけど」

「ああ、ああ。もちろんだよダイ。でも、ちょっとお嬢様たちと集中してお話しをしたいんだけど、いいかな?」

「ズィロ。引きってますよ」

 今は猫の足跡団を勧誘したいし、ダイはこれまでもこれからも代筆やアイデアを提供してもらいたい。なかなか座長も難しい立場なのだ。


「で、是非ゼヒ我が一座の準座員になって頂きたい」

「宜しいですか、ズィロ。昨日説明しましたけど、こちらの乙女たちは修道院の所属です。退屈を持て余しているワケではないのですよ」

「重々承知しておりますよ判事。だから、こうして直接説得した上に判事の随行をお願いしているんです」

 ペネからテオ、マーサと肉薄しながら力説するズィロ。


「女子修道院の修行とか奉仕があるのは承知の上。練習も含めて、週に三回。いや二回で構わないのです。こちらからのお礼は普段の奉仕で得る金額」

「ズィロ」

 弟のパウロには負けるけど黒い巨体の腰を引っ張るペネ。


「乙女が怖がっています。それから、金額の多少が問題ではありません。神の讃歌を伝えたり、自分たちよりも貧しく弱い人を助けることが修行なのです」

 建前は。

 でも、親の顔を知らない捨て子のテオがグループの首領になると猫の足跡団は不良少女の集団に推移していたのだ。元々修道院の半数は色々な意味で親に捨てられたり厄介者として投げ飛ばされた児童で構成されている。

 貧しい家の子は食い扶持減らしで。豊かな家の子は親の再婚なので邪魔者になって。


「カノッサを含めて、修道院の方々の苦戦を判事もご存知でしょう。誰も見向きもしない街の辻でボソボソ歌ったり祈祷するよりも、大勢の観客の前で歌って演技してこその神への奉仕ではないですか」

「ですけどねぇ」

 元々、テオたちを説得するはずが、ズィロとペネの対決にシフトしていた。


「下手をすれば、修道院や孤児院の子供が犯罪に手を染めてしまうかも、ですぞ」

 その点だけは遅かったぞ、ズィロ。フェーデを実行済みだ。


「テオ嬢」

「あ、はい」

 揉み手に笑顔で再接近するズィロ。


「貴女たちがそ・の・気でも修道院の許可を頂戴しないと再出演が可能にならないのはわかっています」

 寄り道ムダ口のようで、実は本丸を攻めていたズィロ。


「ですから、ここに手紙を持参しました。ペネ判事に託しますので」

 仕切り板を叩いて御者に合図をするズィロ。


「出演料なども、心配しないで。それから」

 一旦襟を正すズィロ。


「当一座はおそれ多くも国王陛下の御覧一座であります。昨日は大騒ぎと初舞台の緊張で確認する余裕もなかったでしょうけど、貴族でも商家でも有力者の常連支援者も多数おります故。修道院の卒院後など、何かと都合が良いかも」

 国王の前で上演した経験のある人気と実力のある一座だとの小自慢だな。


「ズィロ。子供に大人の事情を匂わすのは感心しませんよ」

「はいはい。それでは退散しますぞ」

 停止している馬車から降りる勧誘員。


「え、ああそうか」

 カノッサ女子勤労修道院の敷地がもう一息だったのだ。カノッサは男子禁制だから、ズィロは下馬して見送らなければならないのだ。司法院から提供された馬車はマーサたちを最後まで引率するのが任務だから、こうした形式になるのだ。


「では、ペネ判事卿。手紙と説得をくれぐれも宜しくお願い下しますぞ」

「ですから、都合のいい時だけ卿を付帯しても、修道院の返事まではお約束できませんからね」

「ですが、ペネも」

 馬のくつわ。つまり長い鼻先にぼーーーっと立っているパウロを眺めるズィロ。


「お二人は諫言官ではないですか」

「かんげん?」

「御者の方、進んでください」

 何でもないんですよと諫言官の言葉を流すペネ。


「じゃあおれは帰るね」

 愛馬とうちゃんの騎首を返そうとUターンするダイ。

「ペネさん、それじゃあね」

「ズィロと一緒に待っていなさい」

「でも、おれも忙しいから。じゃあねマーちゃんたちも」

「仕方ないですね。気をつけなさいね少年」

 ペネが肩をすくめたのだけど、その微妙な間に最後の寸劇が勃発した。



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