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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
77/132

あ、堕ちたな


「判事ぃ。勘弁して頂きたい。今日は非番でして」

「ま。硬いこと言うなや」


 パウロが、とある男性を強制的に牽引して戻ってきた。


「雑用でも入口係、いくらでも仕事はあるへ」

「ですからーーー」

「あれ、あの人」

 微妙に首を傾けたダイ。


「あ、恋ばなの隊員さんだ」

 恋ばなの隊員。それはアーちゃん宅ことグアンテレーテ家に絵札不正インチキなエキドナ隊員に連行されて恋愛相談で訪れた隊員さんだったのだ。



「恋ばな? ダイ、あんたまさかリリュ姫とかソシア姫と? 随分大物狙いね」

「マーちゃん。そうじゃないよ、恋ばなはあの真っ白いコート着た夜警隊隊員さんだよ」

「あんたねぇ。あれだけマーちゃんは禁止だってぇぇぇ」

「いたいよーーー」

 舞台下でパウロとグラン。舞台上でマーサとダイの寸劇が展開している。


「はいはい、お子ちゃまは仲良くね」

 ダイとマーサを引き離すリリュ。


「それから、こちらはどなた、パウロ」

「リ」

 この一言がグランの今際いまわの言葉でも不思議じゃない。

 驚嘆、硬直、衝撃、爆発寸前、発火直前、落涙。

 あらゆる好意的な形容詞を一身に背負ったグランだった。


「あの人の憧れてた踊り子ってリリュさんだったんだ」

「へぇ」

 さっきまでの半喧嘩状態をケロリと忘れたマーサが物珍しそうにグランを観察する。


「でも、リリュ様は大陸随一って超絶の人気者なんだから、悲恋は確定ね」

「そっかな。ナニがあるかわからないのがお芝居だよ」

「芝居では、でしょう。リリュ様って貴族からも求婚される美貌の踊り子よ。夜警隊員が釣り合うわけないじゃない」

 ドン。

 マーサの目前に怒りの火柱が立つ。


「貴女は何もわかってない」

「ソシア姫」

「わかってない」

 マーサに抑えきれない怒気を放ちながらソシアは食いかかる。


「「あのね」」

 炎と雷が正面衝突する刹那。


 パパン、パン、パン。


「はいはいはい、『鷲と白鳥一座』が危機的だってわかってるかしら」

 お稽古のアドバイスのように手拍子を入れながら舞台を滑るように移動するリリュ。


「リリュ姐さん」

「でも、一方的にソシア姫が」

 不平不満はまだくすぶっているマーサとソシアに大量の水をぶっかけた形のリリュ。


「まずは、どんな協力者でも有り難く参加してもらう。ですね」

「!!!!」

 まだ正式に紹介されていないグランに肉薄するリリュ。


「一名死亡だな」

 ガッペンが冷静に勘定する。

無料タダで協力なら、誰でもいいです劇場主オーナー

 別の勘定をするズィロ。


「パウロ、この純白の衣装の殿方のご芳名は?」

「グランだな」

「グラン様。お忙しい時に申し訳ございません」

 硬直しているグランの掌を包むリリュ。彼女の手に触れるために何万タウスも注ぎ込む金満家もいるのだけど。


「暇だから劇場で並んでたんだよね」

 『猫の足音団』のだんごがツッこむ。しぃーーとおしゃべりを禁止するマーサ。


「食あたりの疑いがあるのですけど、座員が不足しております。ご協力願えますか」

「きょう!」

 ぎゅぎゅぎゅぅぅぅ。握力は強まり、さらにリリュもグランも祈るような位置に手を持ち上げた。


「りょ!」

「協力、して」

「あ、堕ちたな」

 落ちたじゃないのか、ガッペン劇場主オーナー


「それでは、もう一度配役を決めるぞ」

 ズィロも片手を高々と挙げて宣言をしようとする。実は脚本がメインになっているけど、ズィロも役者なのだ。動作が大袈裟で芝居がかっている。

「座長、オーナー」「よかったぁ」

「なあんだぁ、おい」

 朗々と芝居のメンバーを指名するズィロなりの見せ場は、再び水を射された。

 こつこつ。硬質の反響がする。



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