マーサがヒロインに?
「人気者のおねーさん」「終わったよぉ」「なんかご褒美くれるのー?」
食べ当たりを起こしている座員たちの搬送が終了したので舞台に戻ってきたテオたち。
「若い修道女の皆さん、感謝します」
「ごくろーさまーー」
「じゃあ役者はだいぶ充実したわね男子も女子も」
ふふふと意味深に笑うリリュ。『鷲と白鳥一座』の三本柱の一本。
「あーー、もしかしておりも舞台にでるか?」
「当たり前でしょう。でもソシアが乗り気じゃ」
「パウロが上がるなら」
三本柱が一歩二歩三歩と前進。あと一刺激で中指を隠さなければならなそうな剣幕だ。
「でる。お稽古なんて普段から鍛えていれば問題ないんだからね」
「おい子供や判事卿の前で歯をむき出しにするな」
雨樋からあふれたような汗を拭きながらズィロが答える。
「いやーー歯が丈夫でなによりだへ」
判事は判事でもあんたじゃない。ソシアとパウロ以外の総員の無言ツッコミが通過する。
「んだら、グランも呼べ」
「グランですか? でもパウロ判事。劇場にいない隊員をどうやって」
「んにゃ。いる。近くにいるで」
「どうしてわかるんです」
「グランはな、さっき劇場の前で並んでいたな。ありゃきっとお目当てがあるな」
「グラン?」
ダイの脳裏を掠めた名前だった。でも思い出せるほど新鮮な出会いやイベントじゃなかった。
「仕方がありません、小官が」
「だ・め・よ・ぉ・。逃げるの不許可ァ」
背後から羽交い締めされるペネ。
「はーーい、ナピ姐さん。役者さん一丁あがりーー」
「ですから、判事の副業は家業手伝い以外禁止、不許可です」
したばたとまだ抵抗を諦めないペネ。因みに、完全副業禁止にしないのは、貴族などの領地経営を禁止できないから。
「まぁ報酬辞退してくれるのォ。ありがたいわァ。だからペネちゃん大好きーー」
「ほほほほ、人妻の頬に背後からキスはふ、不許可です」
強制連行されて一時的に舞台から消えるペネ。
「ほだら、おりはなにするだ」
なにかできるのか、パウロ。
「お前は大道具係させても壊すからな」
「あーー。ハリボデの城を粉砕したのは愉快だったな」
「愉快じゃないだろ。新しく作るの結構金かかったんだからな」
「はははははは」
大道具クラッシャーに関してはもう放置するらしいズィロ。
「じゃあ、配役を決定するぞ。女主人公はソシア」
「いえ、ズィロ。私は」
ペネ姉弟やソシアたちの寸劇を基本傍観していたナピ、舞台上はキクヌス夫人。
「先代の歌姫として、そして」
やはり傍観者だったガッペン劇場主。一座の人気の三本柱の一人、キクヌス夫人は堂々とした足取りで舞台中央に進む。こうした点は人気では若くて超絶美人のソシアに劣っていてもやはり芝居人である。
「オーナー夫人として決定します」
「あ、そうだったんだ」
知らないで代筆していたダイ。
「ヒロインは、このお嬢さん」
さすが先代歌姫。今度は足音が聞き取れない体さばきで一直線に移動する。
「ベルリナー令嬢。拙い一座をお救いください」
マーサがご指名された。
「「「えええ」」」」
猫ビックリ。じゃなくて『猫の足音団』が皆驚いた。ダイも驚いた。
「私たちはね。座長オーナー。いつも遊び歩いているわけじゃないのよ」
「歩いてるんだ、リリュさ、さ・さ」
ナピがにこやかにダイの口を封じたのだ。ダイのまだ子供の薄いピンクの唇にナピの白い指が封印の役割を果たす。
「王都のあちこちでカミサマへの歌を熱唱していたお嬢様。ソシアの代役が必要なら、この娘しかいないって確信していたの」
「その割には一言も聞いた覚えがないぞ」
「それはね」
マーサは王都立ち入り禁止令は最近解除されたばかりだったのだ。でも、それはマーサの心も経歴的にも傷だ。
「それはですね」
小さなペネの影響力が大きい発言。
「ナピだって優先して座員から後継者を選びたかったし、このお嬢様は公私ともにお忙しい身体なのです」
フェーデで多忙だったし。
「あの」
「と言う理由ですが、宜しいですか、オーナー。座長」
『猫の足音団』が強制決闘、別名フェーデに手を染めていた事実を知っているペネの方便。没落した経緯で尖がっているマーサも、この配慮には感謝するしかない。
「他ならぬ判事がそうおっしゃるなら。では、もう一回確認するぞ」
「ははははは、待つだな」




