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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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大盗賊、劇場に入る


 唖然とか呆然。呆気に取られる。耳を疑う。異世界に転移した。


 どの言葉がいいんだろう。


 夜警隊員のグランは自分の頬をつねり、腿も叩いたり抓って、そして何度も深呼吸した。


 憧れの女神、大陸随一の舞姫のリリュ。


 決して高給取りじゃない夜警隊の給与のほとんどは芝居観劇に消えていた。

 国王陛下御覧一座は、入場料は決して安価ではない。それでもグランは飲食代を削ってリリュの舞台に酔いしれていた。

 若くて声が甲高いソシアとか、熟練されたキクヌスはグランには匙を休めるコップの水程度の価値だ。


 大陸随一。違う、舞の女神様だ、リリュは。


 貴族や大金持ちからの求婚ですらひっきりなしの高嶺の花。遠目にでも眺めていれば幸せだった日々。


 そんな昔が懐かしくなってしまうなんて。


 これは夢なのか?

 でも、まだ現実だ。きっと。


「オジさん、邪魔。こっちに居てよ。あ、立ちっぱもなんだからその椅子に座ってて」


 ついさっき、あのパウロ判事から呼び出しが届いた。司法院の荒熊の異名を持っているパウロ判事。ペネ判事の弟でもある人物だ。


 パウロの執務室に顔をだすように、至急──


 普段はカラスコがパウロの専任隊員のようなものだから首を傾げていたら、夜警隊派遣判事の執務室に到着以前に拉致られて、ここ。鷲と白鳥一座にいる。


「ああ本来なら大恥なんだけど」

 パウロに拉致られた場合は面倒でも恥ではないと夜警隊員は解釈している。それはパウロがパウロ判事に昇格した事件に由来するのだけど。


「あのリリュ」

 舞台袖で独り。ぽつんと椅子に腰掛けているグラン。

 舞台では稽古なんだろうか。町の人町娘と変わらない衣装の座員たちが大声を張り上げたり忙しそうに動き回っている。


「リリュ」

 さっきの若い女子座員を呼び止める。


「姫様? 通し稽古でいらっしゃるからさ。オジさんは、万が一火事とかあった場合の消火とか避難誘導をお願いね」

 聞いてない。


「あ、どうして私なんです?」

「ええ? マジ?」

 お日様が登れば朝でしょうか? そんな当たり前過ぎる質問をしてしまったのだろうか。


「だってオジさん、常設劇場ここ詳しいんでしょ。ダイとかカノッサのガキん子も顔を知っているし」

 数日前、パウロに巻き込まれてダイやマーサたちと大立ち回りの時間外労働をしていたグランなのだ。


「なるほど?」

 納得していいのだろうか。でもパウロ関係だからサボりでも無断職場離脱でもないハズだ。


「なるほど」

 納得することに落ち着いたグラン。



「あ、おつかれさーーーん」「おつかれーー」

 愛馬とうちゃんに乗ったまま、ミカと正面からの侵入。

 ダイは鷲と白鳥一座劇場の裏手侵入を選択しなかった。作戦を色々練って考えた。


「ひさしぶりーー」

 今日はミカがいる。それにリリュに牽制されなくても荒業はダイも嫌いだ。

 迷って悩んで、正面から体当たりを選択したのだ。


「ああ。結構皆ピリピリしてるから、気ぃつけろよ」

 そんなセリフを吐いてもダイの顔パスは継続中だ。


「さーーてと」

 上客、御贔屓筋のために馬車留め場と手綱を結ぶ柵はちゃんと用意されている。


「じゃあ、〝とうちゃん〟待っててね」

「あーー。頭、とうちゃんにお水だよ」

「あ、そうか」

 とうちゃん。正確にはダイの祖父、シンプソンの保有のウマなんだけど、祖父ちゃんはもう杖を使わないと動けない。当然ウマなんて乗れないからダイのウマになっているんだ。


「はいはい、お水をっと」

 もちろん、井戸からの水汲みは実家でも、ここ。鷲と白鳥一座の劇場でもダイの仕事だ。その間、ミカは持参した葉っぱをとうちゃんに食べさせる。


「それでは」

「おつとめだーーーー」

 お子様臭満載で大盗賊ダイの行き当たりばったり作戦は開始される。ダイの背後で、鷲と白鳥一座の座員が、大袈裟な合図をした。もちろん、ダイはその動作が自分を対象にしているとは気づいていない。



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