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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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それを人は筋書きと言う


 明後日。



 それは、子供なダイとミカにとっては王都に外出をするための準備期間としてお手頃な日数だ。作戦を錬る時間も短過ぎず長過ぎず、こちらも具合がいい。



「それで、新しい演目だが」

 王都のある一画。芝居小屋や大道芸人、ひいては酒場など娯楽歓楽店舗施設が集結している地区がある。

 その一角でも道筋も太く整備された一等地に鷲と白鳥一座は常設劇場を建設している。もう築五年目の夏を迎えているから、劇団としては成功組の名乗りを許されるだろう。


 さすがに毎年は基準が厳しいので三、四年に一度、国王や代理が舞台を御覧する劇団に与えられる名誉。御覧一座の格付けまで付与した名門一座でもあるのだ。


「どう考えても、これダイだろ?」

 珍しくリリュが提案した脚本を幹部と読み合わせ中だ。


「まあ、ウチは現在主要キャストを任せられるオトコのコいないからバレバレよね」

 香水と本体の輝きに比べればやや霞む、でも高級な装飾に包まれた美女がリリュである。それが一般人が描いている大陸随一の踊り子のイメージだ。


「これはダイの登場が不可欠なお芝居なの」

 でも細長い楕円形のテーブルに並ぶリリュの現在は町娘に埋没するくらい地味で大人しめの衣装に振る舞いをしている。


「だが、あれは脚本要員だぞ」

「座長がラクするためのね」

 やや澄ました顔でイヤミの反撃をするソシア。大陸随一の〝美貌〟の歌姫の称号を持っている。美声の歌姫ではなく、美貌がウリなので、お間違えなきように。


「なんならもう一発要るか?」

 高々と右手を挙げるズィロ。


「ヤダ」

 また遊びに外出しようとしてバレて尻を強打されていた若い歌姫。


「それでは、グアンテレーテ中尉に繋ぎを入れるか、直接?」

 ダイを正式に起用すると考えるスタッフ。それが常識的な考えになるだろう。


「いいえ。ダイに関しては私と」

 以前も語った。リリュも一旦動き出したら大陸随一の名声を裏切らない舞台人なのだ。自信満々、幹部の座員を見回す。


「ズィロ座長に任せて。それから、絶対にカノッサのお姫様には秘密に。いいわね」

「はい、リリュ姫」

「うふふ」

 的確な表現なのは不明だけど、体罰に不貞腐れているソシア以外の精神はぎゅぎゅっと引き締まって行く。


「ソシアちゃんは、どうなの?」

「別に。私は与えられた役を遂行するだけですから。脚本はご自由に」

 自己責任だけど怒られて不機嫌な歌姫は、ふんと鼻を鳴らすような口答えをした。


「おい」

「いいのよ座長。ソシアは間違ってないから。それじゃあ」

 真っ赤な唇を真っ白な指が左右に分断する。


「ダイとマーサちゃんたちにはくれぐれもナイショ。いいわね」

「「はい」」

「やれやれ。また筋書きハズレか。一言一句正しく進行するのも芝居なんだぞ」

 ため息だ。ズィロの代名詞は汗かきと白布で汗を拭う行動だけど、今だけは大きく息を吸い込んで吐き捨てた。


「でも何起きるか役者もわからない芝居を連発して、でも乗り越えた奇想天外さが鷲と白鳥一座(私たち)の人気の源じゃない。それを支えたのが座長でしょ?」

「ああ。あの頃はダイの仕事が俺の仕事だった」

 劇場の上部を眺めるズィロ。

 一般家庭と違い、照明や大小の道具、小道具を釣り上げる設備など、劇場の天井は見飽きない。それでも隅から隅まで把握している座長だった。


 そしてふと我に、現実に返る。


「そんな昔話してどうなる」

 顔を朱に染め、また汗が噴き出すズィロ。


「いいじゃない。先日はプロンプターだから、明後日がダイのお芝居デビュー。うふふ人気でるわよぉ」

「再来月までに観客動員数を稼ぐ必要。違うな義務がある。この際、どんな手段でも使う」

「じゃーー任せてね」

 それを人は筋書きと言う。



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