罠にハマっているだろ
「かしらーー」
今日は実家で農家っぱい作業をしているダイ。
「ハトさんだよーーー」
「ああミカ。ギュって強くするとハト、怪我するぞ」
「へいきへいきーー」
なるほどミカも力加減を覚えたのか、ハトを優しく包んでいる。
「ええっと。あれ、これはリリュさんからだ」
「ええっとおしゃべりが好きなおねーーさんだよね」
ミカはリリュの舞台は見ていないので、街中でブラついているハデな女性の印象しかないのだ。
「そうなんだけどね。ええっと」
「なぁに、頭。なんてかいてあるの?」
文面はこうだ。
『予告状 確かに 受け取りました
でも 自分が好きな時に 勝手気ままに盗むなんて、ズルくないかしら?
きっと予告状を美し過ぎる踊り子のドアの把手に挟んだ人はコソ泥なのね
絶対ゼッタイ大盗賊なんかじゃないわね
だから もし このメモを読んだ人が大盗賊ならば
明後日のお昼すぎ
国王陛下の御覧一座の名誉を頂戴している 鷲と白鳥一座の舞台で
堂々と髪留めを盗めるんじゃないかしら
それから、女性にとって髪の毛は命と引き換えにでも守りたい宝 その髪を美しく飾る髪留めは
きっと〝王者の石〟よりも盗むこと難しいんじゃないかな
大陸随一の踊り子は きっと用心しているから そうまでして死守する髪留めを盗めたら
それは 文字通り 大盗賊ですね
もちろん 大盗賊は 予告した 髪留めだけを狙って 誰も傷つけたりしないのよね
さあ
女のもう一つの命を守るためにリリュさんは、どう知恵を絞るのかしら?
そして大盗賊は 本物かしら──?』
「ぬぬぬぬぬ」
リリュからの手紙が届いたのはナゼだとか、ここまでバレていてとか──……。
「ぬぬぬ」
そんな当たり前のことなど考えないでガクブルしているダイ。
「ねねね?」
兄の激情を理解していない妹のミカ。
「やるぞ!」
ってあんた、もう予告状提出済みでしょう。
元々伝書鳩に括った手紙をくしゃりと握りつぶすダイ。
「やってやる。ゼッタイ舞台の上で髪留めを盗んで、面倒な石を突き返してやるんだ!」
「わーーい」
感嘆符をいくつ並べても足りない興奮状態のダイ。と面白そうだと無邪気にはしゃぐミカ。
「ようし、ミカ。明後日、お勤めをするぞ。どうする?」
「了解、ミカもいっしょだよーー」
大盗賊の大作戦が開始される。
予告状を挑戦状で切り返しているリリュが、神話や超常的な筋立ての舞台役者も兼任している踊り子である事実は、大盗賊のプライドを賭けた作戦の前ではほとんど無意味のようなんだ。
「よおし、やるぞーーー」
罠にハマっているだろ、ダイ。