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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
6 暗躍する者たち
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76 訓練

「てやあああ!」

「甘いよ」


 正面から突っ込んでくる一撃を半身になることで避ける。

 高レベルの人たちのしごきを乗り越えただけあって、なかなか鋭いものがあるな。あとはフェイントなりを組み込んでやればそれなりの相手にも善戦することができると思う。

 バックスさんやタクロー君とPvPを繰り返しているうちにそういったことが多少は分かるようになってきてしまった。


「どぅわっ!?」


 避けたついでにこっそりと出しておいた足に引っかかり、頭から地面に突っ込んでいった。


「あのくらいは予測しておかないと、対人戦では相手のいいようにやられてしまうよ」

「このおっ!」

「ゼロの敵!」

「死んでねえよ!」


 タイミングは良かったのだけど、叫んでしまったのは減点だね。振り返り二本の矢をつがえて、飛来する火と氷をいっぺんに撃ち抜き、散らす。

「魔法が!?ぎゃっ!」

「矢に負け、あぐっ!?」


 それぞれの魔法を貫いた矢が発動させた本人に痛撃を与えた。まあ、彼らくらいの魔法なら僕でもこの程度はできる。

 これが魔女レイの人たちの放ったものだったとしたら、逃げの一手になっていただろうけれど。


「遠距離からの攻撃は直線的な軌道になり易いから、居場所に気付かれると今みたいに対処されてしまうよ」


 せっかく小声で魔法を発動できるのだから、奇襲に専念するべきだったね。

 ちなみにゲームではありがちな無詠唱の技能――ごく普通の技能だったり、魔法使い系の奥義だったりと、その扱いは様々だけど――は、この『アイなき世界』には存在しない。どうしてかというと、発動したい魔法の名前を言うだけで済むからだ。

 しかし、特定の動きや符、魔法陣など詠唱の代わりになるものは存在するのではないか、とも言われている。


「くそう!よくも二人を!」

「こっちも死んでないよ!」


 言い返す魔法使い二人の体が淡く光っていた。


「やっぱりセオリー通り回復役から倒していかないと、長引くことになるなあ……」


 仕切り直しとばかりに、僕の前に六人が並んでいた。


「ロヴィン兄ちゃん、やるな!だけど俺たちだって負けてないぜ!」


 真ん中に立っている少年、ゼロが元気いっぱいに叫んだ。


 なぜ僕が彼らの相手をしているのか、もといさせられているのか?

 その理由は今から一時間ほど前に遡る。




 『わんダー・テイみゃー』の人たちが大量の物資を持って帰ってくるというのは、事前に知らされていたことでもあったのでそれほど混乱せずに済むと思われていた。

 一人のプレイヤーが大声をあげるまでは。


「ふ、フレンドモンスターがいるぞ!?」


 後はもう大混乱の大騒動。すぐにフレンドモンスターとなっていた黒猫とその友人の、あるプレイヤーがギルドの奥に引っ込んだことで怪我人こそ出なかったのだけど、「落ち着いたら詳しく話す」という説明だけでは収まりがつかないところまできていた。

 そこで、テイマーのプレイヤーたちがこぞって自分のテイムモンスターを――専用の収納ボックスから――取り出して、臨時のふれあい動物ランドを開設することになった。


 運良く魅惑のモフモフワールドに打ち勝てる者はいなかったので、上手く誤魔化すことができたのだけど、その代わりとしてギルドの人たちは皆、手がいっぱいになってしまった。

 そして僕は運の悪いことに、そんな状態になっているとはつゆ知らずに、様子を見に行ってしまったのだ。

 それだけならまだマシだっただろう、あろうことかその時の僕は、


「何か手伝いましょうか?」


 などと言ってしまった。その結果、特にすることがなく暇を持て余していたゼロたちの相手を押し付けられてしまったのだった。




 さて、改めてゼロたち六人へと目を向ける。

 彼らのパーティー編成は戦士が二人に、回復魔法も使える格闘家、本職のヒーラー、遠距離攻撃のできる魔法使いが二人という、バランスの取れた組み合わせだ。

 僕と彼らの間には二十近いレベル差があるけれど、立ち回り方の仕方によっては敗北する危険すらある。


 余談だけど、パーティー戦では平均レベル十の六人パーティーが、平均レベル三十の六人パーティーを倒したものが、一対一だとレベル八の人がレベル三十四の人に勝ったというのが今までで最大のジャイアントキリングということになっている。


 ただし、個人戦で勝利したレベル八のプレイヤーはリアルでは有名な格闘家だった。戦い自体は本気のものだったけれど、『アイなき世界』での高い再現度を示すためのデモンストレーションでもあったのだ。

 その後、その格闘家の人はどっぷりとVR系のゲームにハマってしまい、数多くのゲームに手を出しているそうな。


 話を戻すと、ゼロたちは油断していると足元を掬われかねない危険な相手だということだ。

 まあ、まだまだ連携が上手くいっていないから簡単には負けることはないというのも本当のところだ。


「今度は兄ちゃんの方から攻めてきてもいいぜ!」

「言ったな。あっさり負けても文句言うなよ」

「へん!返り討ちにしてやるよ!」


 それじゃあ、今のうちにセオリーに沿った戦い方というものを、身をもって知ってもらうことにしようか。


 数本の矢を掴んで、空へと打ち上げる。


「どこを狙って――」

「ふぎゃ!?」


 牽制と陽動を兼ねたものだけど、天高くから落ちてくる矢の威力は馬鹿にならない。当たればそれなりのダメージとなる。特に防御の薄いキャラなどは一発で戦闘不能になることもあるのだ。


「まず一人!そして二人目!」


 当たり所が悪かった魔法使いの片割れが離脱していく中、今度はヒーラー目がけて放つ。


「しまっ――」

「皆、広がって攻撃するんだ!」


 続けざまに二人の仲間がやられたことで固まっていることに危機感を持ったのか、ゼロが仲間たちへと指示を飛ばす。

 でも遅い。

 散開しようと動き出したところを撃ち抜かれて残る魔法使いも戦闘不能となった。


「これで後方からの支援はなくなったな」

「ちっくしょお!」

「落ち着け!弓だから近づけば勝てる」


 確かに僕の弓は完全な遠距離用のもので、先端が鋭く尖っていたり、鋭利な刃物になっていたりはしない。

 勝機を見出したからか三方から飛び込むようにして、一気に距離を詰めてきた。


「想定内の動きだね」


 僕から見て右手側からくる格闘家の少年に向かってこちらも走り始める。そして交錯するより少し手前で、


「『湧水』!」

「がぼばっ!?」


 生活魔法で水を作り出して動きを阻害。そのまま棒立ちになっている頭を掴んで地面へと叩きつける。弓は使えなくても戦う方法はあるんだよ。


「はい。四人目終了」

「うげ……」

「ひでえ……」


 それまでとは違って苛烈でえげつない攻撃に、ゼロともう一人の少年の足が止まる。


「そういうことは戦い終わってから考えること」


 二人の胸に矢が付き立ったのはほぼ同時のことだった。


 その後、すっかりへそを曲げてしまった彼らの機嫌を取るためにラーメンをおごることになったのは、また別の話。


ゲームシステムの補足。

やっていたのはパーティー同士のPvPとなります。今回は、ロヴィン一人のパーティーとゼロたち六人のパーティーです。

HPの半分を敗北条件にしていました。一撃での戦闘不能が多発したのはこのためです。

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