60 北門外の戦い 下
「ここから俺たちの疾風怒濤、爆裂粉砕、心頭滅却な活躍が始まるゼ!」
それぞれ手にした武器を振ったり、魔法を唱える真似をしながら登場したのは、六人のこちらも少年たちだ。だけど、初心者用装備に身を包んだ彼らレベルは揃って四だった。
「いやいやいやいや!レベル四はさすがに無茶だろ!?」
「それ以前にレベル隠せよ!?」
「案外ものすごいプレイヤースキルの持ち主だったり?」
「四文字熟語を並べただけじゃないの!?」
「せめて意味を揃えてから言えよ!?」
再びプレイヤー総出の突っ込みが始まった。皆仲が良い。というより、息が合い過ぎじゃない?
「うるさーい!せっかくカッコよく決まったのに!」
「一生懸命考えてきたんだぞ!」
そしてえぐえぐと泣きだす男の子たち。それを見たお姉さま方が再び以下略で、テイムモンスターが再び以下略、そしてボクたちテイマーが再び以下略。
つまりほんわかと大混乱がもっとひどくなっていた。
「お前たちも苦労しているんだな」
「きみも頑張っているんだね」
そんな中で、敵味方の少年たちに友情が生まれていた。
なんだか少しお互いズレているような気もするけど、ええ話や……。
「しかし、俺も帝国軍人だ。そしてこの部隊を率いる将でもある。お前たちと馴れあうことはできない……。さあ、正々堂々と勝負しろ!」
「そんな!?」
「戦う以外にも分かりあえる方法があるはずだよ!?」
「皆、止めろ!ここは俺が出る!」
「ゼロ!?」
おや?何かが始まっちゃったみたいだよ?
「ハリュー、残った兵たちをまとめろ。このまま戦っても兵と物資を無駄にするだけだ。おそらく他の門でも似たような状況になっているはずだから、俺が最後まで残って戦ったところを見せれば、帝都のボンクラどもも文句はないだろう」
「ははっ!仰せのままに。ですがアルス様、無理はなさらないで下さい。帝都の愚か者どもを抑えるにはあなたは必要不可欠の存在なのですから」
「分かっている。帰還の魔道具もあることだし、無駄に命を散らすつもりはない」
あっちも既にやる気になってるよ。えっと、この場合どうなるの?これまでに関係なく、一騎打ちで勝敗が決まっちゃうの?
「古都ナウキの冒険者たちよ!俺はアルス・ズウォー。ここより北にあるモーン帝国ズウォー領を守護する者だ!既に我らの敗北は決しているが、武人の意地として一騎打ちを申し込みたい!」
「冒険者ゼロ!受けてたってやる!」
あ、例のパーティーのリーダーらしき子が受けちゃった。
そしてこの一騎打ち自体は戦いの勝敗には影響しないみたいだ。あちらにも色々と複雑な事情があるのかもしれないね。
そのためか、誰もゼロ君を止めようとはしていない。むしろ「熱い展開になってきたな!」と見物する気満々だ。
「感謝する」
アルス君はそんなボクたちに小さく頭を下げた。礼儀正しい子だね。領地持ちということだから貴族なのかもしれない。さっきも難しそうな話をしていたし、若いけれど帝国の重要人物なのかも。
そんなアルス君を見るお姉さま方の視線が、得物を狙うハンターのものに変わっている。
アルス君、強く生きるんだよ……。
そうこうしている間に準備が整ったみたいだ。ゼロ君とアルス君が向かい合って立っていた。
あれ?ゼロ君、ちぐはぐな鎧姿になっている?
「これで、装備の差はなくなったな」
「その代わり、負けた時の言い訳はできないからな。しっかりやれよ」
「はい!ありがとうございます!」
何人かのプレイヤーが自分たちの装備の内、使えそうな部分を貸し与えたみたいだ。これで装備品はほぼ互角。後は本人たちの腕次第かあ。それでもレベル四しかないゼロ君の方が不利な気がする。
「それでは僭越ながら、私が開始を告げさせて頂きます」
ハリューと呼ばれていたアルス君の副官の男性が二人の間に立つ。いつの間にか、辺りはしんと静まり返っていた。
「それでは……、始め!」
開始の合図と同時に、両者共正面から突っ込んで行く。
「うおおおお!」
「だああああ!」
そのままの勢いで手にした剣をぶつけ合う。一度、二度、三度。少し距離を置き、また突っ込む。何度も何度も打ち合っていく。
それは戦術も戦略も何もない力任せ、勢い任せの物だった。少しでも武術を嗜んだことのある人なら、その不格好さに呆れたことだろう。
それでもボクらは、そんな彼ら二人から目を離せなかった。
「そこ!あ、危ない!」
「ちょっ!それじゃ避けきれない!」
「二人とも、見てるこっちの方がドキドキするよー!」
そう。危なっかし過ぎて、目が離せなかったのだよ!
「あれだけの口上だったから、どれだけ強いのかと思ったら……。ゼロと互角かよ」
「つまり、あのアルスって子、五レベル前後ってことか」
「松下さんとか出て行かなくて良かったな。瞬殺とか可哀想過ぎるわ」
「いや、俺だって空気は読めるぞ!?」
「でも相手の強さが分からなかったら全力で行くでしょ?」
「そりゃそうだ。出し惜しみして負けたなんて情けないからな」
「やっぱり瞬殺コースじゃないか……」
段々とギャラリーの無駄口が増えてきた。別に飽きてきた訳じゃないよ。喋ったりして多少意識を逸らさないと、ハラハラし過ぎて心臓に悪いのだ。
「そういえばアルスって負けたらどうなるんだ?まさか死んだりしないよな?」
「帰還の魔道具とか言っていたから、他の兵士たちと同じで、死なずに逃げることができるんじゃないか」
「そうか。それならイベント再参加不可になるゼロの方が、負けた時のリスクは大きいな」
そんな会話が聞こえてきたとき、見守る帝国軍の兵士たちの向こうで、誰かが動いているのが見えた気がした。
瞬間、ゾワリと背筋が震えた。
「なに、これ?すごく嫌な感じ……」
突然のボクの変調にイーノとニーノがすり寄ってくる。イーノに乗ったビィトも心配そうにボクを見ていた。彼らを安心させようと震える手で撫でていく。それでも嫌な予感は止まらない。
もしもアルス君の魔道具が上手く働かなかったらどうなる?もしもそれをボクたちの責任にされたらどうなる?
二人に視線を戻すと、息を切らせて互いに睨み合っていた。
まずい!次で決着を付ける気だ!
本能的にそう察したボクは、すぐさま皆に指示を出していた。
「ビィト、二人を止めて!イーノとニーノは兵士の人たちの後ろにいる怪しいやつをやっつけて!」
弾かれたように飛び出していく三匹。
「なんだ!?」
「うわっ!?」
ビィトは二人がぶつかり合う前に麻痺の息を吹きかけた。
「リュカリュカちゃん!?」
「何をする!?」
敵からも味方からも非難轟々だったけれど、今はそんなことを気にしてはいられない。
「『火球』!」
「させない!『水撃』!」
帝国兵たちの後ろから、二人に向かって飛んでくる火の玉を覚えたての水属性魔法で迎撃する。
「ぶもも!」
「ふごご!」
「な!?ご、極え、ぎょわー!」
ちょうど兵士たちの後ろに回り込んだイーノたちが、怪しい動きをしていたやつを弾き飛ばした。
ぴゅー、どさ!
イーノたちが上手くコントロールしたのだろう、麻痺した二人に近い場所に落下してきたのは魔法使い風の男だった。
ホッとするボクに、いやボクたちプレイヤーの前にインフォメーションが表示される。
〈北門攻防戦限定イベント『アルス暗殺計画』を見事阻止しました。おめでとうございます。参加プレイヤーには後日ボーナスが支給されます〉
「な、なんだってーーーーーー!!!?」
そして、その場にいたプレイヤー全員の声が綺麗にハモったのだった。
アルス君やゼロ君たちは十から十三歳くらいをイメージしてください。
本当の年齢?秘密です。




